第20話

 ベットでうつ伏せになって寝ていた


 突然ドアが勢いよく開けられる音がする


「ご主人! 客が来たにゃ!」


 この野郎ノックを忘れたのか!?


 俺はそのままの体制で返事をする


「んー」


 ドアが閉まる音がした


 ……あっぶねぇ! パンツフガフガしてるのバレるとこだった!


 俺は家宝、エルのパンツと幼女のパンツを枕の下にしまうと起き上がり、階段を下りてリビングに向かった。今日はこの二人の気分だったのだ、もちろんみんなのパンツは平等に扱っているつもりだ


 リビングではアダムにエルがお茶を出していた。みんな座っている、俺が一番遅かったようだ


「勇者様、突然ですが魔王軍に動きがありました、至急ドウカイの国へ向かっていただきたい」


「……嫌だ」


 エルが俺にお茶を出してくれる


 金も名声もハーレム要素もあるのに家から出る理由がない。勇者になったわけだし、今日はダラダラしたい気分なのだ


「なぜですか! 魔王軍の動きの中にドラゴンが見えようです、このままでは戦争になるかもしれません!」


「ドラゴンですって! クス……お願い」


 サンが上目遣いでこちらを見てくる


「…………嫌だ」


 ははは、俺はサンの誘惑に打ち勝ったぞ!


「お兄ちゃん、お願いします……私たちとともに戦ってください」


 ルナが上目遣いでこちらをみてくる


 ルナがついにデレた! あのルナが!


「し、しかたないなー」


 ルナをデレさせるためならなんでもしてやるぜ! 例えば家宝パンツを捨てろと言われたら…………たぶん捨てる


 俺が行くと言った途端ヒマワリがドヤ顔でニヤニヤしだした


「ほらにゃ、みゃーの言った通りにしたら簡単にゃ、ご主人はバカにゃ、こんな簡単にコロッといくにゃ」


 あ、やっぱりね、そうですよね、ルナがデレるわけありませんよね。この猫がっ!


「ちょろいですね、ヒマワリの作戦ごときでコロッといくなんて」


 ヒマワリとルナがドヤ説明している間に俺はそっと自分のお茶とヒマワリの前に出ていた冷めているお茶を取り替えた


「あぁ、ヒマワリは策士だな、負けたよ……」


 ふっふーんと胸を反らしていたヒマワリが喉を潤そうとお茶を飲んだ


「にゃぁああああああ熱いにゃああああああ!」

「クス……ありがとう」


 サンがうるうるしながらお礼を言ってきた


 約束は守ろう。勇者だし、俺強いし魔王軍倒すか


 ヒマワリとエル、フェアにはたぶん無理だろう


 俺たちは三人で飛空船に乗りドウカイへと向かった




 ドウカイの国から少し離れた町に降りた


「飛空船で行けるのはここまでです、勇者様、よろしくお願いします」


 アダムは深く頭を下げている


 エルがいなければ過度な親バカではなく、結構普通だ


「いいんですけどね、勇者って攻撃されないんですか?」


「はい、勇者様ならばドウカイの町への入国を許可していただけるようです。そこで交渉をしていただき、和平を結んでいただきたいのです」


 そんなもんのか?


「はぁ」




 俺たちはドウカイの町に歩いてきた、魔物に襲われることもなくピクニック気分だった


 ドウカイの国は寒く、木も枯れていた、まるで試されているようだ


「お待ちしておりました勇者様」


 町の外にいた肌の黒い魔人らしい人が案内してくれるようだ


 町は寂れていた、歩く人がいない、なんだか建物もボロくみえる


 俺たちは案内されて宿に入っていく


「こちらに幹部の一人、魔法では並ぶもののいないアル様がお待ちしております」


 そう言うと魔人は一つの部屋の前で足を止め、扉を開いた


「入るのである」


 そこには銀髪の幼女がこたつに入ってゲームをしていた、ゴスロリ服をきている


「え」


 俺はこの異世界を勘違いしていた、ダンジョンに潜る? クエストをこなす? 勇者になる? 違うだろ! 俺たちの求めるもとのここにあったんだ!


 俺はすぐにこたつに入った、温い


「ゲームをするであるか?」


「する~」


 幼女の質問に即答する


「なにしてんのよ!」


「っ!」


 しまった、いきなりこたつに入るなんて失礼かもしれない


「すいません、いきなりこたつに入ってしまって」


「いいのである、ゲームをするのである」


 幼女は満足そうにみかんまで差し出してくる


 これは同類だろう


「する~」


「ちょっとクス!」


 サンはなぜこたつに入らないのだろうか?


「いいからお前らも入れって、でゲームしようぜ」


「あ、これ温いですね~」


 ルナがこたつに入り横になった、置いてあった座布団を折り曲げ頭の下に敷いている


 ルナは理解があるな、こたつの魔力は誰にも抗えない


「ルナも! 話し合いに来たんでしょ!」


 サンだけが頑なにこたつに入ることを拒む


 手を引いてこたつに誘い込むと


「ほら、お前も入れって」


「もうなんなのよ! ……温いわ~」


 サンも落ちた




「ちょルナ、逆走すんなって」


「私は人の邪魔をするのがこのゲームの醍醐味だとわかりました」


「あぁ! バナナの皮を投げるなんて勿体無い!」


 サンはバナナの皮も食べる派のようだ


「また勝ちであるな」


 幼女は笑いながらそう言った、楽しそうだ。この年で幹部か、もしかしたら友達とか……うっう


「ところでその話し方は字なのかな?」


 俺は幼女に視線を向け、尋ねてみることにする


 ちょっと特徴的な話し方な気がするが


「え、やっぱり変なのであるか? 父上や母上が『お前は将来立派な魔王になるだろう、話し方も気をつけなくてはな、ガハハ』と言って以来この話し方になっているのであるが。変なのであるか? 外の世界だと笑いものにされるのであるか? 我はそんなの嫌なのである、変なのは……嫌なのである」


 幼女が泣き出しそうになりながらも最後まで語ってくれた


「まったく変じゃないから! その話し方流行ってるからね!? な! サン!」


 幼女を泣かせるのは許せん、決してルナに話を振ってはいけない!


「そ、そそそ、そうね! 私たちは流行りに疎いけど、その話し方もいいわね!」


「! そうであるか!」


 幼女の笑顔は守られるべきだ、さて話を変えなくては


「それにしてもゲームあるんですね」


「あっちの国にはないのであるか? 魔法であるから作れないのかもしれないのである」


 なるほどな、この国に住もう


 さっきの案内人が無言で部屋に入ってくると彼女の頭をひっぱたいた


「話を進めてください」


「むぅ~痛いのである」


 あれからずっとゲームをしていたから怒られたのだろう


 今のはちょっと可愛そうだと思うんだが


 案内人の人は出て行った、彼女は頭を抑えている


「ゲームがしたいのである」


「ゲームしてたいけどね。えっと確か名前はアナ――」


「アルなのである!」


 あぶない、アナ……アルさんだったな


「人も見かけないけど争いも見かけなかった、平和そうに感じるけど何があったんだ?」


「実は国王が死んだのである」


 ……は?


「マジかよ、なんで死んだんだ? 内戦でも起こったのか?」


「あれはそう……寝ゲロなのである」


 この世界はおかしい! しかしこの死因、俺と同じじゃないか? まさか俺は魔王だったのか!? ……なわけなかったわ。国王が死んだから戦争か? 普通は内政とかするだろ


「国王が死んだタイミングでナンバーワン幹部がドラゴンの傀儡になったのである『よーし、世界征服しちゃうぞ』とか言ってたのである。だから勇者を呼んだのである。ではよろしく頼むぞ、我は寝るのである」


 アルはこたつにもぐった


 え? 丸投げ?


「ドラゴン……クス行くわよ!」


「ちょっとまて……それ俺たちがやるべきなのか? この国の問題じゃないか?」


「勇者が助けてくれないのであればこの国は滅びるだろうな、我は働かないのである」


 この国は! 幼女にここまで言わせるのか! …………この国はダメだ、あきらめよう


「ゲームもこたつもなくなるわけですか」


「この国を助けるぞ!」


 俺たちは城に向かった




 城の前に着いた


「あの門番! ドラゴンよ!」


 門番を見ると男が二人立っていた、町中に人の気配はしない、城からも感じない


 支持率悪いんじゃないか? しかしあれだな、キョウトウの国にドラゴンが攻めてくるちょっと前に魔王が死んだのか? たぶんこいつらが秘宝召喚術を盗んだんだろうな、タイミングが良すぎる


 そんなことを思っていると城の門が開き、騎士が一人歩いてくる、金髪の女性だ


「私はこの国の王だ! 勇者よ、この国になんのようか!」


 王は死んでいるはず、こいつがナンバーワン幹部か。……王がみずから出てくるとかこの国すでに終わってるな


 門番が自称王に怒鳴っている


「お前は出てくんな! 王座に座ってろ!」


「あ、はい。すいません」


 自称王は城に帰っていった……


 なにしにきたんだよマジで


「ようサンにルナ、久しぶりだな」


「あんたたちは何をやっているの! この国から出て行きなさい!」


「それはできんな、俺たちは世界をすべるべき種族だ。愚かな人種には消えてもらわないとな、手始めに魔人達を配下に置く。お前たちも手伝う気はないか?」


「お断りよ! 私はみんなを守る! 人はすごく美味しいものを作るのよ!」


「そ、そうか。ならば力づくで言うことを聞かせてやろう。ここは場所が悪いな、町の外に行くぞ」


「あんたなんか私一人で十分よ! クス、ルナを頼むわ!」


 サンはルナをチラッと見たあと行ってしまった


 なんか俺いらない気がする


「……」


 誰も話さない、俺の出番だ!


「私は……戦えません……」


 え? ルナなんで? ……俺が話す番じゃないのか!?


「ふはははは、そうだろうな泣き虫ルナ、お前はなにもできん、なにもなせはしない!」


 ルナが震えている今にも泣き出しそうだ


 俺に会う前に何かあったのだろうか。ここは俺がやるしかないな


「クス……逃げましょう……」


「おま――」


「ふはははは、お前にお似合いだ。お前は昔からいつもそうだ、少し殴るとすぐに逃げ出す」

「っ!」


 ルナが顔に手を持っていく


 昔、殴る? こいつ……


「勇者よ教えてやろう、こいつがいかに情けないか。こいつはな俺たちのストレス発散のためのサンドバックだ、昔からずっと殴ってやった、もっとガキの頃からだ。サンが来るまでずっと泣いてるだけのなにもできない哀れなドラゴンの面汚しだ。サンが家を出ると逃げるように追いかけていった、ただの弱虫なんだよ」


 ルナが……泣いている


「お前、ルナに謝れよ……」

「はっ、何を言っている。こんなカスに何を謝るんだ?」


「ルナ、お前はいい子だよ、優しい子だって俺は知ってる」


 俺はルナに出会ってからのことを思い出した


 …………………………いい子だ


「クス……」


「俺が倒してきてやってもいい、でもルナお前はもう子供じゃない。思い出せ、俺たちはあの大きなドラゴンだって倒したんだぞ? いつものお前ならこんなやつ簡単に倒せるって」


「…………しかし……でも……」


「大丈夫だよ、何かあっても俺がすぐ倒してやる。お前は強い子だ、昔とは違うんだ。いつまでもあんなやつに縛れてるのはお前じゃない。なんでもできるお前が見たいんだ、少しでいい立ち向かってみてくれ」


「わかり……ました、少しだけ……やってみます」


 ルナが向かっていくのを俺は見送った


「なんだ? 俺と戦うのか? お前がか?」


「ルナ! 何も聞くな、俺の行ったことだけ聞いてろ! お前は大丈夫だ!」


 ルナは一度立ち止まると、門番をぶん殴った。門番の鼻が凹んだように見え、勢いよく城門に打ち付けられ倒れた、おそらく門番は意識を失っている。ルナが馬乗りになりボッコボコに殴っている。顔、顔、ボディ、顔、顔、ボディ、顔、顔、股間


 俺はルナに走り寄った


「もうやめてやってくれー!」




「弱かったですね」


「うん……、お前が強いんじゃないか?」


「ありがとうございます」


 門番を縄でグルグル巻にしたあと、ルナは門番を蹴っていた


 ドラゴンってこんなに個体差あったんだな。しかしこれ、ルナがお礼言うなんて


「なぁルナ、ちょっとあの有名なセリフいってくれないか?」


 あれだよ、あのツンデレの!


「…………べ、べつに――」


 おぉキタコレ


「あんたの粗末なもの引きちぎってあげてもいいんだからねっ! ですか?」


「……」


 サンが戻ってきた、もう一人の門番を引きずっている


「あれ? 二人で倒したの? 急いで駆けつけようと思ったんだけど」


 どうやらサンも余裕だったみたいだ、俺たちは門番二人を宿に引きずって行き、アルに引き渡した



 




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