第16話

 ドラゴン撃退のクエストを終えた俺たちはキョウトウの町に帰ってきた、飛空船を降りたところが町の入口になっていた


「クエスト報告に行く前に遊んでいきましょ!」


「そうだな! ペンダントも壊れたし新しいのを買わなきゃいけないしな。今日は自由に町でも見て回るか」


「私も一緒に行くわ!」


 そう言うとサンは楽しそうに笑いながら俺の腕に固い胸を押し付けてきた


 エルもこういう場面では一緒に来ることが多い気がする


「私は同人誌のお店に行きます~」


「え、じゃあ城の前で合流な」


 エルはそれだけ言うと行ってしまった、待ちきれないのかもしれない


 キョウトウの町は住んでいるフギの町よりかなり大きい、確かに本屋も多くあるだろう。この町ならいつも買えない同人誌が買えるのかもしれない


「みゃーは観光してくるにゃ」


「私も適当に行ってみたいですね、ふふ」


 二人も行ってしまった、結局俺と一緒に行くのはサンだけのようだ


 デートか? これデートなのかもしれない。ドキドキしてきた、サン胸もなんだかいつもより柔らかい気がする


「ど、どこ行こうか?」


「ペンダント買いに行くんでしょ?」


「……そうだね」


 城の方に行けば途中に防具屋もあるだろう  


 俺たちはみんなが消えていった町の中に入っていく




 少し進むとこの町の地図が書いてある看板があり目を通したが、この道をまっすぐ行けば城に行けるようだ。


 キョウトウの国は広い、まず目に付くのは人の多さだ、何人もの人が道を歩いている、少し進むだけで肩がぶつかってしまいそうだが、ここに住んでいる人は軽くお互いを交わしている。次に目に入ってきたのは高い建物、どうみてもビルだ。コンクリートのような頑丈なもので建物が立っており、一階ごとになにかのお店があるらしい。露天や屋台も道の隅に多く展開していた。俺はサンと二人で城に向かいながら周りを見てキョロキョロとしていた


 町の人たちが俺たちの方を見てなにやら話している


「あれ勇者じゃね?」

「まじだ! すげぇ写真撮ろ」


 この世界にはカメラもあったのか 


 人ごみの中、広い道をまっすぐに進んでいくと装備屋があった、装備屋はなぜか一階建てだったが店は広く、中にある品揃えも多かった。


 この世界ではやはり魔物との戦いは驚異なようだ、でなければこんなに装備屋が儲かるはずはない


「らっしゃい」


 こんなに都会なのに挨拶は変わらなかった


「いっぱいペンダントあるわよ!」


 でもペンダント以外は特にいらなかった


 一応いろいろな防具をみて回ってみるが俺の琴線にふれるものはなかった


「ね、ねぇこれにしない?」


 サンが持ってきたペンダントはハート型だった、二つ持っている


「お、おう」


 お揃いか? なんだよこれキュンキュンするぞそして恥ずかしい


 サンの顔を見てみると赤くなっている


 可愛い


「ど、どうかな?」


 サンが上目遣いで尋ねてきた


 これはずるいわ、こんなん断れるわけがない!


「それにしよう!」

「えへへ」


 サンは、にぱぁっとした笑顔をしていた


 あぁ幸せだ、もう町中のカップルを見ても爆ぜろなんて思わないだろう


「買ってくるわ」


 俺はペンダントを買い、一つをサンに渡した


「いただきまーす」


 …………え?


 お揃いのペンダントは一度も付けられずに食われた




「あ! クレープ!」


 ペンダントを買ったあと、城の方に向かっていると賑わっている出店があった、長蛇の列だ


「買おうか」


「やったぁ!」


 俺が店の列に並ぶと店員が走ってきてクレープをくれた


「勇者様ですよね!? 町を救ってくれてありがとうございます! これくらいしか私にはできませんが、応援してます!」


 あぁ、そういえば今までの勇者はカスだったんだ、…………なにこれ気持ちいい! 俺調子乗ってナンパでもしちゃおうかな!?


 サンはクレープを一口で食べ終わった


 デートっぽくていいなクレープ、一口だけど……


「あ! 焼きそば!」


「買おうか」


 サンは焼きそばを一口で食べ終わった


「あ! 焼きそば!」


「か、買おうか」


 サンは焼きそばを一口で食べ終わった


 ……食ってばっかじゃねーか! デートなんてこんなもんだ! ナンパなんてする暇もねーよ!


 だが俺も勇者になったんだ、焼きそばくらい好きなだけ食わせてやろう


「おっちゃん、この店の焼きそば全部くれ!」


「やったぁ!」


 焼きそばを大量に与えて大人しくさせた


 ふと見るとオシャレなカフェでエルが本を読んでいるのが見えた、エルと目があったので近くに行ってみる


 エルは椅子に座り同人誌を読んでいるようだった


「読書か? 同人誌だろうけど」

「……」


 エルは無言だ、なんかあったのか?


 エルがテーブルに置いてあるホットケーキを指差してきた


「ホットケーキがどうした?」


 エルがブンブンと首を横に振る


「パン……」

「?」


 意味がわからない


 次は紅茶を指差す


「紅茶だな」


 エルがブンブンと首を横に振る


「なんだよ?」

「ティー……」

「?」


 何だ?


 エルがホットケーキと紅茶を同時に指差す


 俺は何が言いたいかわかった


「……パンとティーだな」


 エルがブンブンと首を縦に振った、目が輝いている


 パンティーだろ? うるせーわ! 絶対言わないからな!


 イラっとしたのでテーブルを揺らすとエルが同人誌を必死で守り、紅茶がこぼれた


「……こ~ゆ~プレイが好きなんですか~?」


 エルがこぼれた紅茶を舐めようとするのでティッシュですぐに拭き取りサンの場所に逃げ帰った


 サンが食べるのを待っているとアヘ犬が2本足で歩いていた


 あいつなんで捕まらないんだろう


 焼きそばがパックごとすごい勢いでなくなっていくのを見たあと城の方に行く


 すると町の人が叫んでいるのが聞こえた


「魚が盗られたぞー!」

「捕まえろー!」


 魚を盗むとかどこの貧乏人だよ


 路地裏から視線を感じ見てみるとヒマワリが魚を食べていた、四つん這いで魚をかじっている


 いやいやいや、勇者パーティーの一員だよ? そんなわけないじゃん、これは違う猫、これは違う猫


 俺は自分に暗示をかけた


「ヒマワリ……あんな風に見えてたのね、もう四つん這いで食べるのはやめるわ」


 サン、わかってくれて嬉しいよ。でもあの猫はヒマワリじゃない、他人の空似だ、絶対違うはずだ


 一応魚のお金を払い、俺たちは先に進んだ


 路地裏が気になって仕方がない、あと一人やっかいなのが残っている


「あっ! ル――」


 俺は急いでサンの口を手で覆い黙らせた。


「静かに、隠れるぞ」


 路地裏にルナが見える、男達に囲まれいるようだ。俺たちは壁に隠れてルナの様子を伺う


「どうしたのかしら? トラブルに巻き込まれてなければいいけど」


 サンが心配そうに見ているが、あいつは心配いらないと思う


「うん、そうだな……」


「これだけですか? 跳んでみてください」


「もう勘弁してください!」


「なんですか? 跳びたくないんですか? ならいいですよ、じゃあビルの屋上から飛びましょうか」

「ひぃ」


 トラブル起こしてますよね! 知ってた!


 男達の顔はボコボコだった、きっと転んだのだろう


「お、お前勇者の一員だろ?」

「そうですけど? あ、いい服着てますね売ってきてください。それとなんで私が立っているのに殴られたあなたが座っているんですか? 失礼ですよね?」


 りっふじ~ん! あと勇者の一員って認めないで欲しい


「もう勘弁してくれよ」


「あなたたちが言ったのですよ? いい儲け話があるって」


「薬を売るって話なんだよ! もうお前薬やってんだろ!」


 確かにこいつはゲス顔でやることもヤバイ、やってんのか?


「薬? そんなものなくてもあなたたちから奪えば簡単に儲けられますよね? おぉいい物もってるじゃないですかコレは高く売れそうですね、ニョホホホホ」


 ルナは言いながらチンピラの付けていたピアスを奪い取っていた


 やってないようだけど、キマってるな


「サン、もう行こうか」


「でも、大丈夫かな? 負けはしないと思うけど」


「大丈夫だ、俺はサンと二人でもっと町をみて回りたい」


 サンも見ていないと何か問題を起こすかも知れない、ケーキ屋さんの店ごと食ったりとかしそうだ


「そ、そう。いいわよ」


 ここにいたら俺たちの心まで汚れてしまいそうだ、ルナならきっと加減をしってるだろう。関わりたくないし、たぶん一般人には手を出さないだろう、たぶん


 そして俺たちは城までたどり着いた


「なんか小さいわね!」


「違う城だったな、間違えたわ」


 ……ここラブホじゃん!? ラブホはまだはやい! お父さんは許しませんよ! こんなバカな子を騙してラブホに連れて行くなんて、………………俺の心はまだ汚れていない


 国の城にたどり着いたが、誰も来ていなかった


「勇者様! すぐに王に報告してきます」

「いえ、まだいいです。仲間が来てから行きますので」


 門番に話しかけられたがみんなが来てから行くことにした、俺たちは通りが見える場所のカフェに入りみんなを待っていたのだが、結局夜まで待っても来なかった。仕方なく二人で謁見した。今まで変な知り合いが多いせいか国王に会うのに不安はあったが普通のいい人で話はすぐに終わる。俺たちが城から出るとみんな待っていた。


 こいつら行きたくなかったのではないだろうかとも思ったが口には出さずにいる


 たぶん同じことを思っていたのだろう、サンと立ちすくんでいるとエルが人差し指を立て提案してきた


「今日はホテルに泊まりませんか~? エッチな方のです~」


 こいつ俺たちがラブホの前で立ち止まるのを見てやがったのか!?


「どどど、どうした急に?」


「同人誌にあったんです~、パイレーツオブ・カリビン・イヤーンって作品です~」


 さっさと食事をとり、普通の宿に泊まったら、帰ることにした


「おいしいですね~」

「うみゃーうみゃー」


 おい猫、それはどこかの方言だぞ


「今日はクス様が出してくれるんですか~?」


 ふむ、外食は久しぶりだ、今日くらいは俺が出そう


「俺が出してくる」

「出すんですか~? 何をどこにですか~?」


 こ、こいつ! なんでも下ネタに繋げやがって、こんなの誘導尋問みたいなもんじゃねーか!


 サンが気づき、俺のことを蔑んだ目で見てくる


 なんでだよ! いつも鈍いくせに。今までいい雰囲気だった……ような気がするのに! はやく弁解しないと!


「違うんだ! エルにはめられたんだ!」


「ハメられたんですか~? 私はハメられる側で――」


 俺は周りの人の視線とヒソヒソ話に耐えられず耳を塞いだ


 俺勇者なのに! 勇者になったのに!


 次の日にフギの国へと帰った


 俺は飛空船のなかで騒がしく話す仲間を見ながら考えていた


 こいつらが勇者の一員でいいのだろうか、と


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