第15話

 俺たちは現在、飛空船に乗ってキョウトウの国に向かっている、貸切だ


 勇者となり有名になった俺は他の国の救援クエストを受けることになっていた


 内装は飛行機みたいなものだった、俺は窓際にヒマワリと座っている


「う~み~は広い~にゃ、大き~にゃ~」


 海は見えない、この猫は馬鹿だ、仕方ない


 馬鹿に釣られてエルがこちらの席に来て窓の外を覗いている


「みゃぁ~の心より、ちょとひろ~い~。うぇちょっと酔ってきたにゃ」


 お前の心の何万倍は広いわ! いやむしろゼロに何倍かけてもゼロはゼロだ


 馬鹿の歌を聞き、ルナも近づいてきた


 騒がしくなりそうだったので俺は船長に挨拶に行くことにした


 貸切なんだ、たぶん挨拶とかいるだろう


 客席をからドアを開けるだけで操縦室に行けた、操縦室には真っ黒な人が座っていた


「あ、えと、この度は操縦ありがとうございます」


 真っ黒い人が振り向くと


 ……コナンの犯人だぁあああああああああああああああああああ!


 目が細く釣り上がり、口元は横に広がりニヤついているように見える


 コナンの犯人は一礼するとまた前を向いてしまった


 人を見た目で判断するのはよくないな


 俺はバクバクと鼓動の早くなった心臓を押さえ、客席に戻った




 飛空船から降りたところで町を一望できた


 ビルのような建物が並び人が多く歩いている、ゴミのようだった。フギの国を中世とするならキョウトウの国は明らかに現代、都会である


 いやいや、なんだよここファンタジーどこいったんだよ


 俺がこんなにも動揺しているのにあいつらは平然と会話していた、来たことがあるのだろうか?


「飛空船すごかったわね!」


「私たちなら飛んだほうが早いと思いますが」


「気持ち悪いにゃ……」


「ルナさんに貰った正露丸は飲まなかったんですか~?」


「飲まなかったら吐いてたかもしれないにゃ」


「あれ本当に飲んだのですか? 正露丸ではなくウサギのフンですよ」

「にゃ……オロロロロロロロロロ」


 ヒマワリは吐いていた


 町にはクエストを終わらせたあとに行ってみよう


「じゃあ緊急の依頼みたいだし、せっかく勇者になったんだし、さくっと終わらせるか」


 俺たちは依頼の場所に向かった




 そこは渓谷であった、両脇の岩が高く、谷を魔物がノシノシと歩いているのが遠くからでも見える。岩がむき出しで所々にあった。場所を聞いていたのであっさりたどり着いたが、飛空船や町からは離れており、俺たちは歩いて向かっていた。魔物が見下ろせる位置まで何事もなくたどり着く。ここに来る途中にも魔物に岩を落とそうと準備がしてあった。おそらく俺たちがここに来るまでにも魔物には何回か岩を落とすという原始的な攻撃が繰り返されていたはずだ。


「無理だろ……」


 そこには山ほどの大きさのあるドラゴンがいた、どうみてもラオシャンロンだ


「え? あれ倒すの? 俺たちが?」


「あれは……おばあさま」


 俺のつぶやきは無視され、サンがつぶやいた


「なんだ? いい人か?」


「おばあさまは死んだはずよ、なんで……」


 サンが信じられないものでもみたように、驚き、口を手で覆っていた


「死者を冒涜する召喚術でしょう、ドラゴンに対して行うなんて……正気とは思えません」


 このドラゴンは国に進行しているらしい、このドラゴンを止め、撃退するのが俺たちのクエストだ


 無理じゃん、勇者やめよう


「なんだかまっすぐ進んでますね~」


 よくみるとドラゴンは障害物を無視して壊しながら進んでいる


「あれほどのドラゴンを召喚したのです、おそらく思考を持っていないのでしょう」


 なるほどな、モンハンか。ハンターってあんなの倒すのかすげぇ


 ハンターが仲間達とランスを持ち、踊っている


「ウォウオ!ウォウオ!ウォウオ!イェイイェイ!」

「ウォウオ!ウォウオ!ウォウオ!イェイイェイ!」


 ランサーが一人でドラゴンの尻尾をペシっと攻撃するのが見えた


 ランサーは返しの尻尾にペシっとあたると吹っ飛んでいった


「ランサーが死んだ!」

「この人でなし!」


 ……そりゃ普通の冒険者では無理だろう


 するとドラゴンが煙に包まれ幼女になった。その姿は白のワンピースを着て裸足で歩く、幽霊のようだった。


「幼女だ!」


 俺は無意識に叫んでいた


「ドラゴンなのよ! 変身くらいするわ! でもチャンスよ、きっと弱っているから変身が解けたのよ!」


 サンの言うことは若干信用できない


 しかし幼女か、ちょっとほっぺた触りたいな


「あれを倒しても構わないのか?」


「うん、……安らかに、眠って欲しいわ……」


「俺が先陣をきって戦ってみる、スキがあったら攻撃してくれ、たとえ俺ごとでもな!」


「もちろんです、思考がないので元々スキばかりですがクスごとやります」


「一人じゃ危険だわ!」


 かっこつけたのにルナは俺ごとやるらしい


 でも幼女に触る機会が合法的に与えられたんだ!


 ドラゴンを見ると進行方向にある岩を殴って吹っ飛ばしていた


 ……うん、後ろから行こう


 俺は崖に掛けてあるハシゴを降り、ドラゴンに近づいた。サンとルナはドラゴンになり上空を、エルとヒマワリは崖の上、安全地帯でお茶を飲んでいる。俺は一度ドラゴンの前に周り、意識がないか確認のために手を振ってみた、反応はない。目も虚ろで何処を見ているかわからない、無機質な人形のような印象を持った


 召喚術か…………


 『安らかに眠って欲しい』サンの言葉を思い出した。俺も同じ気持ちになったかもしれない


 俺はドラゴンの後ろに回り込み羽交い締めにした


「あああああああああああああ」


 痛い! 攻撃を食らった! 


「どうしたの!? 大丈夫!?」 


「この子俺の足踏んでる!」


「……クスごとやりましょう、私たちのブレスですぐ倒せます」


 ほんとに足痛かったのにひどい


 俺は羽交い締めをやめるとついに、幼女のほっぺたをプニプニすることにした、だって進行の邪魔しなかったら攻撃してこないでしょ?


「プニプニ、ぷよぷよ」


 くっそやわらけぇ! これだから幼女は最高だぜ! ほっぺを触るのはやめられねぇ


 幼女は虫でも払うかのように手を動かした


「ぐっ」


 一瞬視界が暗く染まった


 なんだ? 背中が痛い


 目を開けてみる


 目の前が赤く染まっていた


「クス! 大丈夫!? 平気!?」


 視界の隅にサンが見える、ドラゴンは遠くに見えた


 あぁ俺、吹き飛ばされたんだ、たぶん岩に。やばい、意識が遠のく、力が入らない、体が熱いかったような、寒かったような……これが死ってやつか……


 …………そして俺はいろいろ元気になった!


「あれ?」


 目を擦ってみる、血は流れてこない


「なんだ? 色々元気になってるぞ」


「クス、……一回死んだのよ」


「は?」


 何を言っているんだ?


「ペンダントが……身代わりになったのよ……」


 見てみると胸にあるペンダントが砂になって消えた


 あ、確か一回死なないかもしれないってペンダントか、サンに助けられたな。あの時買わなかったら俺は今死んでいたのか


「もう、もうクスの馬鹿! 心配……したんだから」


 サンは泣きながら抱きついてきた、俺の胸をポカポカ叩いてくる


「……ごめん」


「馬鹿! もう無茶しないで……お願い」


「お、おう」


 なんだろう、死んだ実感はない。でもなんか、心が苦しい


「いつまで遊んでるんですか?」


 ルナがやってきて冷ややかな目で見てきた


「今行くわ! クスはそこにいて!」


「俺もいくよ、幼女を放っておけない」


「ダメ! 絶対ダメだからね!」


 サンが立ち上がり、手で俺が立ち上がらないように制してきた


「お、おう」


 サンに押し切られてしまった


 サンとルナが少し離れた場所からドラゴンをブレスで攻撃していた


 たぶん効いているのだろう、歩みが遅くなっている


 少し時間が経つとドラゴンがスッと消えた……かと思ったらいつの間にか俺の前に立っていた


「クス! 逃げて!」


 サンが叫んでいる


「ありがとう、これ、お礼」


 幼女の言葉が聞こえたかと思うとスッと姿を消した、今度は本当にいなくなってしまった


 幼女のいた場所にはイチゴ柄パンツが落ちていた。俺がパンツを拾うと、みんなが集まってくる


「おばあさまは無事にいけたかしら?」


「ええ、召喚術は苦しかったでしょう。きっと解放されて喜んでいると思います」


 俺はパンツを顔の前に持っていくと少し泣いた


 自分が死んだことへの恐怖か、それとも幼女が消えてしまったことについてなのか俺にはわからない


「アヘアヘアヘアヘ」


 なんだお前……慰めてくれるのか? 


 俺はパルプンテを唱えた


「そのパンツもらってもいいですか?」


 こいつなんで保健所行ってないんだよ……


 俺はパンツをポケットにしまうと帰ることにする


 家宝が二つになりました

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