第13話

「だ、ダンジョンにゃ」


 俺たちはヒマワリを連れてダンジョンの前に来ていた


 初めてダンジョンに来た時の俺もこんな感想だったな、怖いのだろう 


「そんなに怖がらなくていいぞ、もし死んでもたぶんパルプンテで生き返る」


「たぶんって言ったにゃ!?」




 俺たちは螺旋階段を降り、三十階層の続きからダンジョンに入った。ダンジョンのドアを開けると前と変わらず三十階層からの再開ができた。三十一階層に降りる


「にゃぁああああああああああああ、全部こっちきたにゃぁあああああああああ」


 ヒマワリはダンジョンに入るとすぐに獣の群れに襲われた、走って逃げている


「足速いな、これなら戦力として使えそうだ」


「そうですね、囮として使えます」


「装備ないけどいいのかしら?」


 あ、装備買ってないわ


 ヒマワリを先行させてみたが足が速く魔物に接近される前に俺たちの元まで逃げてくる、それをサンとルナが迎撃していた、俺は何もしていない。その動作を繰り返すだけで実に楽だ、俺はな


「だ、大丈夫だよきっと、足速いし」


「そうですね、囮にお金をかけるのはもったいないです」


 そこまでひどいことは思ってないけどな


「助けて欲しいにゃァああああああ!」


 何度目かでサンが突っ込んでいき一人で助けた、サンはヒマワリに近づき


「大丈夫だった? 怪我とかしてない?」


「……」


 ヒマワリが無言で俯いている


 しまったな、怖かったか?


「こ、この足あとは……」


「なにかいるのか?」


 ダンジョンのことは詳しく知らない、もしかしたら強い魔物でもいるのだろうか


「この足跡! ハートの形にみえるにゃ!」


 警戒した俺が馬鹿だった


「……行くか」


 ヒマワリも余裕そうだしいけるだろきっと


 少し進むと杖を持った敵が急に現れ、ヒマワリに向けて魔法を放った


 サンがすぐに倒したが


「にゃふ、にゃふふ」


「大丈夫なのか?」


 ルナに聞いてみた


「これは、状態異常、妄想ですね」


 ……なるほど、使えそうな魔法だな


「どんな効果か知りたいんだが、観察しても問題はないか?」


「大丈夫だと思うわ!」


 ヒマワリを見てみる


「にゃふふ、みゃーは彼氏ができたにゃ、ご主人の百倍イケメンにゃ」


 今のアホづらで彼氏ができるとでも?


「彼氏はなんでもくれるにゃ、お魚いっぱいにゃ、顔もなんだかお魚に似てるにゃ」


 ……俺、魚顔の百倍ブサメンなのか……


「にゃ! 彼が子供を産みそうなのにゃ! みゃーとはあんなことやこんなことしてないにゃ! 浮気にゃ! あぁ! 魚が生まれてくるにゃ!」


 それただの魚だわ! しかもメスだわ!


 俺は可哀想になりヒマワリの顔をひっぱたいて正気に戻した


 ヒマワリは気まずそうに下を向いてしまった


「……お前にもいいとこあるぞ」


「どこにゃ?」


「…………顔」


「ほ、他にはないかにゃ?」


 えー、なくね?


「…………体」


「もう嫌にゃあああああああん」


 ヒマワリは走って奥へと逃げた




 四十階層のボス部屋にたどり着き、さっそく扉を開ける。俺たちが中央近くまで進み、ボスと対面するとボスが吠えた


「ワォオオオオオオオオオオン!」


「にゃ!?」


 この階層のボスは狼男なのだろう、全身が毛むくじゃらだ、顔と爪が狼っぽい。しかし乳首だけ毛がなく、綺麗なピンクの乳首だけ丸出しだ


 ヒマワリが驚いているのだろう、声をあげた


「…………メ……」


「「め?」」


 俺たちは同時に疑問を持ったらしい


「メスだァああああああああああああああああああああ」


「にゃぁあああああああああああああ!?」


 狼男がヒマワリを追いかけ始め、ヒマワリがすごい速度で逃げている


「やっぱり足速いな」


「大丈夫なの!? さすがに助けてあげようよ……」


 サンに頼まれては仕方がない、なんか大丈夫そうに見えるんだがな


「パルプンテ」


 狼男とヒマワリの足元に石が出来たように見える、同時にすっ転んだ


 もしかしてパルプンテは俺が唱えると好きな現象が起こせるのか? ただ漠然と『ヒマワリ助けよう、あとちょっとヒマワリの間抜けな姿がみたい』としか考えていなかった。パルプンテ、これは恐ろしい魔法かも知れない


 俺が考え込んでいると狼男が素早く立ち上がりヒマワリに話しかけている


「あ、あの……見抜きして、いいっスか」


 こいつできる!? なんて高度な技術を持ってやがるんだ!


「しょ、しょうがないにゃオロロロロロロロロロ」


 ヒマワリが吐いた


 ダンジョン入ってからずっと走ってたもんな、わかる


「それでもあなたが、しゅきだぁか――」


 狼男がなにか言おうとした所で、ルナがぶっ飛ばし見下している。狼男がまだ何か言っている


「ま、まってくれ! こんなに可愛い狼さんを倒す気か? 見ろこの芸を!」


 なんだろう、どこかで見た光景だな……あ、俺がルナに出会った時に似ているのか。頑張れ狼男、話せばわかってくれるぞ。ダンジョンを出たら一緒に語ろうじゃないか、同じ境遇を経た仲間だ、たぶん狼男さんの方が年上だからその時は兄者と呼ぼう。魔物の仲間いたっていいじゃないか、だって異世界なんだもの


 狼男は仰向けの姿勢から両足を広げ、両膝を曲げた


「ほら、チンチ――」

「死ね」


 あにじゃああああああああああああああああああああああ!


 ルナが狼男の股間を踏み潰し、狼男が消えた


「あなたのことは忘れません、宝箱を開けるまではね」


 俺は運が良かっただけなのかもしれない……よく考えたら魔物だろ? 消えたんだし。魔物畜生を退治するのは基本だよな。……あれ、獣人と魔物の違いってなんだろう、狼男はダンジョンのボス部屋にいたから魔物なんだろうけど狼獣人はいないのだろうか、毛か? 毛の生え方か? それとも悪いことをしたら魔物になるのだろうか……まぁ、いっか、敵は敵だ


 俺たちは奥の扉を開け、宝物庫に入った


「当たりです! 今回は当たりですよニョホホホホ」


 ルナが靴を抱きしめて踊っている


 久しぶりにぶっ壊れたな、頭は常に壊れてるけど


「なんだあれ?」


「あれは瞬足ブーツよ、足が速くなるわ」


 おお、結構使えるじゃん


「早く売りましょう! お金ですよ! 財産に変えるのです!」


 こいつ売る気かよ!


「いいかルナ、それを俺に渡すんだ。……おまっ! おちつけ! おちつくんだ!」


 ルナがうなりながら威嚇してくる


 どんだけだよこいつ


「ルナお願い、クスに渡しましょう? ね?」


 サンが怯えているのだろう、俺の後ろから言った


「いくらサンの頼みでも無理ですね! お宝は! お金は私のものです!」


「それを渡してくれたらギャンブルで、売った以上に稼いでやる。俺の運を知っているだろ? よこせ!」


 ルナは長く考えたあとに、まるで自分の子供を差し出すかのような仕草で靴を渡してきた。 




 家に帰ってきた


 そこにはエルが犬を抱いて微笑んでいる


「なんだ? 拾ってきたのか?」


「そうです~可愛くないですか~?」

 犬か、確かにいいな、マスコットキャラ的なので癒されたい、うちには変な猫しかいないからな。でもどうせなら、にゃんぱいあとか、カピバラさんとか、シナモンみたいな可愛いのが良かった、……シナモンはエロイからいいや


「ほらおいで~」


 犬がこっちを振り向き近寄ってくる。ピンと張った耳、フサフサの毛、垂れた尻尾、可愛い。黒目が上を向いている気がするのがちょっと気になるが


 鳴き声はなんだろう、小さいからキャンキャンか? それとも普通にワンワンなのだろうか


 犬が口を開く


「アヘアヘアヘアヘ」


「……おい、保健所にブチ込むぞ!」


 この犬イってますわ! もうやだこの異世界 


「あの~、パルプンテでお話できるようになりませんか~?」


 エルが片手を上げて提案してきた


 そんなにこの犬が可愛いのか!? …………しかしいい案かもしれない、こんなアヘアヘ犬嫌だわ


「パルプンテ」


 お? 出来たか? 可愛いよな? 頼むぞ?


「貴様、吾輩のおっぱいを奪う気であるな? よかろうならば戦争だ」


「……え?」


 アヘ犬がエルの手から抜け出し、俺の前に立った


「この目に宿るは漆黒の堕天使ルシファーの激情」


 お前の目はアヘってるだけだぞ!


「この背に宿るは大天使ミカエルの如き翼!」


 ま、まさかこの犬! なにかの魔法を使う気か! 


「この足に宿るは地龍をも切り裂く鋼の意思!」


 俺もそんな台詞で唱えたことないのに!


「喰らえ! 我狼の龍脚ハルマゲドン」


 ……アヘ犬が俺に飛びかかってきたが、


 ……遅い、遅すぎる! サンとルナの動きに目が慣れてしまったのかもしれない


 ただの飛び蹴りをなんなく避けた


 攻撃を外すとスクッと立ち上がりエルの胸に戻っていった


「!? おいあの犬立ってるぞ! 2本足だぞ!?」


「そそそ、そーゆーこともあるわ!」


 異世界すごいわ!


「私は二本足で立つ犬など聞いたこともありませんが」


 サンの方をみると目をフイッと逸らした


 パルプンテで立つようになったのか? 喋れるようになったのか?


 俺は犬の方を見る


「アヘアヘアヘアヘ」


 どうやら元に戻ったらしい、しかし二本足だ。


「ご、ご主人! トイレ我慢してたらけつえきでたにゃ……」


「血液?」


「ケツ液にゃ!」


 あぁ、大きい方我慢してるとなんか出てるよな…………はぁ、もういいや


「面倒だからヒマワリと一緒に保健所に連れてって」


「にゃんでだにゃ!?」

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