第11話

「勇者が来たにゃー!」


 ヒマワリの叫び声が聞こえる


 うるさい、まだ昼頃のはずだぞ? もっと寝かせろ十時間は寝ないと無理だ無視しよう


「はやく行くわよ!」


 サンが俺の部屋のドアを開け、侵入してきた


 今度はサンが俺の眠りを邪魔するのか、ほんと勘弁してください


「何やってるのよ! 勇者は何をしでかすかわからないのよ!?」


「どーゆーことだよ」


 俺は顔だけサンに向けた


「例えば勇者が町の人を皆殺しにしたって話を聞いたことがあるわ」


 怖っ! 一気に目が覚めたわ


「それのどこが勇者なんだよ殺人鬼じゃん」


「強いからよ」 


 勇者ってもっとこう魔王を倒して平和をもたらす的なのじゃないのか? 俺がきた異世界は何かがおかしい


 勇者は広場にいるらしく三人で行ってみることにした、エルとヒマワリは怖いらしいからお留守番だ




 広場に行くとステージの上で勇者らしき人物が立っていた、町の人たちの話し声が聞こえてくる


「あれが勇者様か、なんで俺たちの国に来たんだ」


「お前知らないのかよ、国王が喧嘩売ったらしいぜ」


「それやばくないか? 皆殺しとか聞いたことあるぜ」


「わかんねぇ、とにかく刺激しないようにしないと」


 勇者が大きな声で叫び始めた


 声がでかい、魔法でも使ってんか?


「ここに来る途中魔王の幹部がいた、こいつだ」


 勇者はそういい手に持っているものを広場に投げた。それは俺たちの前、勇者との間に落ちた


 人だかりがそれを中心にわれ、落ちてきたものがわかる。魔王幹部だったらしいものの首から上だった


 こいつヤバイやつだわ! 


 サンが服を引っ張ってくるのでそちらを向くと


「あれ、魔物よ」


 …………勇者って魔物だったのか


「なんでわかるんだ? 俺には普通の人に見えるが」


「ドラゴンの目はごまかせないわ、魔物かどうかくらいはわかるの」


 俺たちが話しているとまた勇者が叫んだ


「お前たちもすぐにこうしてやる、恨むなら国王を恨め」


 何してんだこいつ、なんだこの状況、逃げたほうがいいのか?


「きゃー」


「に、逃げろぉおおお」


「助けてくれぇえええ」


 町の人達が蜘蛛の子を散らしたように逃げている


「はっはっ、逃げてみろカスども、メテオ」


 燃えながら大きな隕石が空から落ちてくるのが見える


 魔法!? 


 自分以外が魔法を使うところを初めて見た、予備動作などなく、いきなり魔法の効果が発現する 


 え? あんなのが落ちてきたら町の人たちが


「ダメぇえええええええええ」


 サンがドラゴン形態になり隕石に向かい体当たりをしていた


「ははははは! スラッシュ!」


 勇者がサンに向けて剣から斬撃を放つ、それはサンに向けて飛んでいきサンに当たった、サンのドラゴン形態が解け、体勢を崩したのか落ちていく


「サ、サン!?」


 ルナが叫びサンに駆け寄っていく、俺もルナの叫びで我に返りルナに続いた


「サン! 大丈夫か!」


 サンを抱き抱えた、見ると足から血が流れている


 町の人を守ったのか、……でもなんでサンがこんな目に遭わなきゃいけないんだ。いきなり攻撃するなんて


「なぜあんなことをしたんですか!」


「だって……あれを止めなかったら……町の人が」


 サンが苦しそうに言葉を吐き出した


 町の人を助けるため、でもそのためにサンが傷つくのはおかしいだろ


「あいつを殺してきます、サンのことをお願いします」


 ルナが立ち上がり、ドラゴン形態になったと思うと勇者に向かって突っ込んでいく


「お前もドラゴンか! 面白い、殺してやる!」


「サンに近づくなぁああああああ」


 勇者が剣を縦に振るうがルナは紙一重でそれを避け懐に潜り込む、勇者は後ろに下がりながら間合いを取ったりして、二人共上手く戦っている。剣を振るう速度が恐ろしく早いがルナは多少かすり傷ができる程度で、これならいつもどうり勝てると判断した。俺はサンに向き直る


「サン、大丈夫なんだよな?」

「大丈夫に……決まってるじゃない」


 俺はサンの足を抑えて血を止めようとする


 サンの血が止まらない


 嘘だろ? なんで血が止まらないんだ? ドラゴンの再生力は強いはずだろ? なんで血が止まらないんだよっ!


「血が止まらない……しっかりしてくれサン、今……回復してやるからな」

「忘れたの? ドラゴンに魔法は効かないのよ」


 じゃあどうしたらいいんだよ! どうしたらお前のこと助けられるんだよ! こんなに、血が! このままじゃお前……


「俺は……どうしたら……」


「ゴフッ」


 サンが吐血した


「お前なんで! 攻撃が当たったのは足だろ!?」


「トマト……食べ過ぎちゃった」


 だから苦しそうだったのか……俺のシリアスを返して欲しい……………


「俺は……どうしたら……」


「あれはたぶんドラゴンキラー、持ち主の身体能力を上昇させ、斬撃も飛ばせるようになるの。……そしてドラゴンキラーの呪い…………でも……」


「サン?」


「私のことはいいわ、逃げて……たぶんこいつには勝てない。私が足止めするからクスだけでも」


 そう言いながらサンは立ち上がろうとするがバランスを崩し、俺にもたれかかった


「あれ、力が入らない……」


「いいから寝てろ! 俺が倒してやるから!」


「ダメよ、危険だわ。お願いだから逃げて、ね?」


 サンが泣き出しそうな顔で、しかし微笑んでいる。それは自分のことなど顧みず、俺に心配させまいとして出た表情なのだろう


 なんで俺の心配ばっかりしてんだよ! お前、立てないくらいに弱ってるんじゃないのか?


 俺がやる、俺があいつを倒す。サンをこれ以上傷つけさせない


 俺はサンを座らせた


「ルナ!」


 ルナの方を見るが、どこにいるか一瞬わからなかった……ルナが倒れている


 ルナが、……負けたのか?


「ルナー!」


「こいつを殺さないと、呪いが、サンが……」


 そうか、ドラゴンキラーの呪いって……だからサンはいつもの回復力がないのか…………殺せば解けるのか


「はぁはぁ、このクソガキが手こずらせやがって」


 勇者がルナの頭に足を置いた


 は? このカス……サンも……ルナも……………………殺す


「なんだ? 次はお前が死ぬか?」


 ……その汚い足をどけろ


 俺は呪文を唱えた。突風が吹き、ルナからカスが離れた


「ほう、なかなかやるじゃないか」


 カスが斬撃を飛ばしてくる、俺は構わずに前に進んだ、そんな攻撃当たるわけがないだろ


 あのカスを殺す


 カスがまた斬撃を飛ばしてくる、前に歩き続ける


「な、なんで当たらないんだ」


 カスがメテオを唱え、隕石が降ってくる。俺も呪文を唱えた、隕石が見えない壁に阻まれたように砕け散った


「お、お前なにをした!」


 俺は前に進み続ける


 もうすぐあのカスを殺せる


「く、このクソがぁ!」


 あいつがまた斬撃を飛ばしてくる


 うざい


 俺は呪文を唱えた。カスの手に雷が落ち、剣を落とした


「な、なんだこいつは!」


 あと少しでカスに手が届く……


「お、おい、やめろ、やめてくれ」


 カスが何か言っている…………俺の手が届く位置まで来た


「ま、待ってく――」


 俺はカスの喉元に短剣を突き刺した


 カスが消えた……




 町の人や、騎士が来て何か言っていたがよく覚えていない


 はやく家に……帰してくれ………………


 サンとルナの傷が治るのを待ち、俺たちは無言で家に帰った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る