第10話

「クエストを受けに行くわよ」


 サンが不機嫌そうにそう言った、この家に来てからはだいたいリビングで話をしている


 俺とルナがソファに寝転び、エルがテーブルに置かれているお茶を飲んでいる、その横にはいつも同人誌がある。そこにサンが仁王立ちで現れ、クエストに連行される形だ。


「なんですか機嫌が悪そうですね、あの日ですか?」


 ルナはサンが来るときは座り直すが、俺が話しかけるときは寝たままだ 


「違うわよ!」


「あの日なんですか~? 大人の女ですね~、くんくん」


「だから違うわよ!」


 サンは近づくエルの頭をペシッと叩いていた


「はぁ、はやくドラゴンの事認めてもらわないとな、行くか」


 エルに偏見はないようだが、ドラゴンに対する町の人の恐怖はあるかもしれない。あるかもしれないのだ! きっと! だからは俺はだいたい手伝うようにしている


「私は~同人誌を読むので~お留守してます~」


「あ、私も読書をしますので今日は止めておきます」


 エルとルナは行かないらしい




 俺とサンはギルドに来た、受付嬢さんと明るい茶髪の、猫獣人が話している。猫獣人は盗賊の職業でも付いているのか短パンにスポーツブラみたいなのをしている、見た目は若そうだ


 十六くらいか? 高校生くらいだと思うが。こんな若い子も冒険者とかするのか


「あ、クス様おはようございます。あの時は申し訳ございませんでした。急なことで取り乱してしまいました」


 受付嬢さんが謝ってきた、サンがドラゴンになった時のことだろう。


 律儀な人だ


「えっと、ドラゴンって怖いですか?」


 俺はカウンターの近くに行った 


「いえ、サンちゃんですから大丈夫です。町の人も言ってましたよ」


 受付嬢さんの笑顔、これでどれだけの冒険者がやられたのか。でも二十代後半と聞いたことがある


 サンの表情が不安から笑顔に変わる


「よかった……」


 サンが安堵したのだろう、呟いた。ない胸をなでおろしている。ソファーに座るようだ


「その、いきなりで申し訳ないのですが、こちらの方とお話して頂いてよろしいでしょうか?」


 受付嬢さんがそう言うと猫獣人が話しかけてきた


「今ヒマ? 今日ヒマ? 明日ヒマ? みんなのアイドル、ヒマワリにゃ~ん」 


 ……え?


「あれあれ~? 元気出していくにゃん! ノリノリでいくにゃん!」


「は、はぁ」


 なんだ?


 耳の上に両手をグーで上げたり、首切りのジェスチャーをしたりしている、わけがわからない


「リピートアフターミー!」


「リ、リピートアフターミー」


「にゃんにゃん!」


「に、にゃんにゃん!」


「にゅぷー」


「にゃぷー」


 あれ、なんか……楽しいかも!


「にゃふふふふ」


「かわーいーいー!」


「ヒマワリにゃーん」


「わーい!」


「どうていさーん」


「はーい」


「インポさーん」

「あ? 殺すぞ馬鹿にしてんのかお前!」


 なぜかムカついてしまった俺はヒマワリの胸ぐらをつかんだ


「にゃ!?」


「だいたいその語尾なんだよ、普通に話せねーのか?」


「は、話せます」


「だよな、…………まぁ目立つキャラじゃないとアイドルって大変そうだもんな」


 アイドルのことはまったく知らないが大変そうだ


「そのとおりですにゃー!」


 胸ぐらから手を離すと


 ヒマワリは泣きながら俺にすがり付いてきた。


 なんだろう、……話くらい聞いてやるか


「むぅ、なによ……」


 サンがイライラしているのか、貧乏ゆすりをしている。しかし表情は寂しそうにしている気がした


「実は……お金がなくなったのにゃ」


 ヒマワリの尻尾が垂れている


 猫の姿でこれはずるいな。しかし盗まれたのか、それは可哀想だ、探すのを手伝うくらいならいいかもな


「手伝いましょう!」


 サンも人助けには賛成みたいだ


「どこで盗まれたんだ?」


「にゃ? 使い切ったのにゃ」


 このやろう! アホずらしやがって!


「帰るか」


「でも、困ってるみたいよ?」


 サンは助けたいみたいだが、俺はそこまでお人好しではない、ニートを養うなんてまっぴらごめんだぞ! …………いやこいつが悪いんだ!


「さすがに自業自得だろ、『使い切ったのにゃ』って言いきたんたぞ!」


「にゃー! 捨てないでくださいにゃご主人ー」


 お前の主人になった覚えはねぇ! 働け……とは強く言えないが


「生活が大変だったの? 何かあったの?」


「にゃ? お魚いっぱい食べたり宿で爪とぎしたらお金取られたりしたにゃ、お金取られたにゃ! もう所持金五百円しかないにゃ……あ、三百七十円だったにゃ」


 盗まれたみたいな言い方すんな! あとジュース買ってんじゃねーか! ……うん、こいつが悪いな


「帰ろう」


「にゃー! ご主人いい匂いがするにゃ! イケメンの匂いがするにゃ! イケメンにゃ!」


 ヒマワリが意地でも離すまいと思っているのか、両手に力を込め俺のことを抱きしめている……泣きついている


 イケメンかぁ…………こいつ悪い奴ではないかもしれないなぁ


「いつまでくっついてんのよ!」


 サンは怒っていたが家に連れて行くことにした




「あら~、猫さんです~」


「今ヒマ? 今日ヒマ? 明日ヒマ? みんなのアイドル、ヒマワリにゃ~ん」


「……なんですかこの野良猫は」


 リビングに連れてくるとヒマワリは自らエルの対面に座った、横にサンも座るようで、俺はいつものソファに行くことにした


 エルは大丈夫そうだが、問題はルナか……俺は事情を説明した


「いいですよ~、猫さんの尻尾をオマンコにブチ込んだらどうなるか、私気になります~」


 頬に手を当て顔を朱に染めながら、ニヤニヤしている


 輪っかになるんじゃないか? やんなよ?


「ふふ、本当に野良猫でしたか、哀れですね」


「にゃ!?」


 頑張れよヒマワリ、この二人はやばいぞ


「ヒマワリは普通の猫とあまり変わらない気がするんだけど、どうなの?」

「だいたい猫と同じにゃ!」


 サンの質問に両手を腰に当て胸を張っているヒマワリ


「ではゴキブリやネズミを取ってきて、しょーもないドヤ顔をしたりする畜生なわけですか」


「にゃ!?」


 猫好きを敵に回す気か!? 猫のことを馬鹿にするのはやめて! この猫はいいけど普通の猫はやめて! 俺は猫大好きだよ、可愛いよ、すべての行動が可愛いよ!


「……そういえばヒマワリ、ドラゴンに偏見とかないのか?」


「にゃ! ドラゴンとご主人の知名度にあやかるにゃ!」


 たくましいなコイツ、そして案外賢い


 これからはヒマワリが雑用を引き受けるとの話でまとまった


 ルナがイチゃもんを付けただけなような気もするが、エルの手伝いをしてくれるのは助かる、俺のダラダラできる時間が増えるからな




 夕食の時間になった。いつも通りエルが食事の支度をしてくれる、どうやらヒマワリは料理ができるようで手伝ったらしい


「ご飯ができましたよ~、上のお口でたっぷり味わってくださいね~」


 口は上にしかありません


「おいしいにゃ!」


「あらあら~、上のお口は正直ですね~」


 ……どういうことだ?


「猫には虫とネズミを与えておけばいいのでは?」


「にゃ!?」


 だから猫を馬鹿にしてるみたいな言い方はやめろ! この猫はいい! ……おいヒマワリこっちみんな




 俺は部屋で寝ていた、喉が渇きリビングに向かうと何やら話しているのが聴こえてくる


「好きなタイプはお魚にゃ!」


 好きなタイプだと? 恋バナか!?


 俺は静かにドラの隙間から覗き見ることにした、リビングには俺以外の四人がおり、ソファに座って楽しげに会話している


「私は、守ってくれる人かな……」


 サンは顔を赤らめて言っている


 お前ドラゴンじゃん、誰が守れるんだよ


「私はお金を持っている人ですね、もちろん定期的に稼げる人でないと意味がないです、地位や名誉があり、イケメンでないと話にすらなりません」


 お前は黙ってろ


「お魚にゃ!」


 お前も黙ってろ


「私は~、クスさんみたいなひとですかね~?」


 お前もだま……、きたわ! きたわこれ! 今晩こそいける!


「あ、あんたあんなクズのどこがいいのよ! 変態なんだからね!? まだ付き合いが短いからわからないだろうけどすぐセクハラしてくるのよ!? そ、そりゃあちょっとだけいいこと言う時もあるけど……」


「え~、かっこいいですよ~?」


 ふふふ、今はどんな罵倒も聞こえんわ! 


「サン? ……あなたもしかし――」


 さーて今日こそはエルが部屋に来るはずだ、準備しないとな!


 俺は急いで部屋に戻り、エルパンツとティッシュと近藤さんを準備した


 ………………そして朝方に眠りについた

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