第8話
俺が宿でダラダラしていると部屋のドアが勢いよく開いた、どうやらサンが飛び込んできたようだ
何もしていなくて助かった
「敵が来たわ! いくわよ!」
「何言って――」
「いいから!」
サンに手を引かれて町の外に走った、町の外、平原には魔物の軍勢と町の冒険者達が陣形を組み、睨み合いをしていた
俺は橋の上にたどり着いた、そこにはルナと受付嬢さんがいた、まだ冒険者達からは距離がある
「なんだよこれ」
「やっと来ましたか、魔人が私達を探しているようです」
ルナに続き、受付嬢さんも話しかけてきた
「王からのクエストです、どうかこの魔人を退けてください、国の騎士は町を守るので手がまわらないようです」
見渡してみると町を守るように町の周りに騎士たちが配置されている、アダムが指揮を執っていた
すると魔物の群れから一人の男が出てきて叫んだ
「お前らが噂に聞く強き冒険者か! 我こそは魔王軍が四天王の一人、魔物使いのパペット。さぁ力比べをしようじゃないか」
パペットは魔王軍幹部らしい、魔人の国があると聞いたことがあるから、たぶんそこからわざわざ来たのだろう。そしてパペットは俺が見た限りイケメンだ
イケメンかムカつくな。それにしてもふむ、力比べか。三人で勝てそうな気がする、冒険者って金剛力士像で驚いてたしな、危ないだろ
「みんなを下がらせてくれ受付嬢さん。俺たちで倒す」
俺のイケメンスマイルに受付嬢さんは惚れるだろう、そして一人で倒したりなんかしたら一晩限りの関係――
「クス様!? 魔王軍の四天王ですよ! 大丈夫なんですか? あのパペットは魔物使いで有名です、個人でも相当強く魔物を力で屈服させ操っているそうです。またパペットを倒しても魔物が暴走して安全になるわけではありません。ここは冒険者さんたちと力をあわせて戦わないと勝ち目なんて……」
「ははは、大丈夫ですよ」
俺は二人に魔物の相手をするように頼み、冒険者達の横を通ってパペットの方に歩いて行った
魔物たちが襲って来ると思ったが素通りしていく
「ほう我の魔物が手を出さんか、圧倒的強者であるな! しかし貴様一人で我を相手をするか! 面白い! 受けてた――」
「パルプンテ」
「んぁああああ」
大きな雷が上から落ちてきてパペットに当たった、しかしまだ立っている、さすが四天王
「パルプンテ」
「んほぉおおおおおおお」
んほぉ?
「パルプンテ」
「きもちぃいいいい」
「パルプンテパルプンテパルプンテ」
「んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「パルプンテ」
「あっあっあっ」
最後のパルプンテで変態の腰についているムチが変態を縛り上げた
「勝った……」
変態を引きずっていき受付嬢さんに渡した。
「この変態を拷問室にでも連れて行ってください」
「ふむ、拷問か、受けてたとう!」
受付嬢さんは引いていた
サンとルナを見ていたが冒険者の前に立ち魔物を蹂躙しているようだ。魔物が少なくなり二人から目を離すと、一匹の魔物、グリフォンが上から冒険者に向けブレスを吐いた
「しまっ、パルプ――」
間に合わない!
サンがドラゴン形態になりグリフォンと冒険者の間に割って入り、ブレスを吐いて相殺していた
助かった……
「ド、ドラゴンだァああああああああ!」
「サンちゃんはドラゴンだったんだァああああああ」
冒険者達が叫ぶ声が聞こえる
俺はサンの言葉を思い出していた。『ドラゴンはすごく強いわ。他の種族を倒している所を何度も見たわ』
この状況はまずい!
少しの間があった
「え? ドラゴンって可愛くね?」
「あぁ、ドラゴン……ありだな」
え?
「受付嬢さん、これは」
「ドラゴン……うそ……でもサンちゃんだし」
魔物を倒し終わった二人がこっちに来た、サンが悲しそうに肩を落としている
「やっぱり……ドラゴンって怖いよね」
「……そう、か?」
どうしよう、なんか言い出せない雰囲気だ
「うん……」
「とりあえず宿に行きましょう」
サンにルナが答える
宿に向かう途中、町の人たちの声が聞こえてくる
「やっぱりな、ただの嬢ちゃんが強いわけないんだ」
「そうですね~」
「もしかしてクス様も?」
「いや、クス様は魔法を使っていたらしい」
ルナが怒っているのか今にも飛び出していきそうだ
「サンを見ていてください、あのゴミを掃除してきます」
「やめてルナ! やめてよ……」
たぶんびっくりしているだけで町の人も怖がってはいないと思うが
宿に帰ってきた
部屋に入るとサンはすぐベットで横になってしまった、時々グスッ、グスッと聞こえてくる
「サン、この町をでましょう」
「う、うう」
んーむ、どうしよう、なんか言い出しづらいな
「サン、つらいならこの町をでたっていい、俺も付いていくぞ。ルナだってそうだ」
「でも、でも私……ここにいて楽しかった……こんなの初めてだった」
なんだよこの状況
俺はサンを説得した言葉を思い出した
「生きたいように生きよう?」
「生きたいように?」
俺はサンの泣いてる姿なんて見たくない、いつもみたいに笑ってて欲しい。ルナみたいに人を殺す……なんてことは出来ないかもしれないけど、俺は俺の出来ることでサンを守ってやる、だから頼むから笑ってくれ
「そうだ、サンが生きたいように生きたらいいんだ」
「うん、うん……グスグス」
窓に石が当たる音がする、たぶんこの町の人だろう
「またですか、殺してきます」
「あれは、ルナ待て!」
見覚えのある人が手を振っている
「サン、見てみろよあれ」
「……え?」
外にはサンが助けた迷子の幼女や、冒険者達がいた
「ほら、ドラゴンだって知ってもお前のことを理解してくれる人はいるんだ。よかったな、よかったなサン……」
目頭が熱くなるのを感じる
やばいな、ちょっと泣きそうだ
「みんな……うっう」
「手をさ、振り返してやったらどうだ?」
サンは精一杯の笑顔を作り手を振り返した、何かを決意したような力強さがある
「……私、決めたわ! この町で、ううん世界中の人に私を認めてもらうの!」
「そうか」
ええ話やなぁ
「私も手伝います」
「食べちゃダメよ?」
「食べませんよ!」
サンは吹っ切れたようだ、その時に見せた笑顔は一生俺の心に残るだろうほど可愛く輝いて見えた
俺もサンのようになれるだろうか
「ちなみに冒険者達は特に気にしてなかったぞ」
俺はありったけの勇気を振り絞り説明した
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