第7話

「冒険にいくわよ!」


「待って下さい、今日は休みましょう」


 宿の一室、俺たちはいつもここでサンの一声から今日の予定を決めていた


 たしかにダンジョン攻略とかクエストとか頑張っている気がする。でも休憩とってもなぁ


「気になることがあるんだけど」


「なんですか? もしかして私の事ですか? 嫌ですよ止めてください気持ち悪いです」


「あ、私も無理よ?」


 なんなんだよ、別にお前らのことが気になったわけじゃ……いや確かにパンツは見たいが……


 二人がベットに座り、両腕をクロスさせお腹に巻きつけていた、震え上がるような体制だ


 そこまでしなくてもいい気がする


「俺のいた世界だと週休二日で、疲れてても休めたりしないぞ?」


 サンもルナも驚愕している


 あ、これあれだな、元の世界の知識を披露して驚かれちゃうパターンのやつだな、よくアニメとかで見たぞ!


「え、あんたの世界ってそんなに働くの?」


 おっと、サンが引いている、おかしいぞ


 サンの顔が苦虫を噛み潰した時の顔になり視線も斜め下に逸らされた 


「ぷー、なんですかそれ、そんなに働きたいんですか? 疲れたなら休めばいいじゃないですか、人間って疲れたら普通休みますよね? なんでそんなに働くんですか? 働きたいんですか? もしかして奴隷の国なんですか?」


 こいつ!


「そういえば前に奴隷がほしいと言っていましたね、もしかして奴隷を雇ってエッチなことしようと考えてましたか? 元奴隷なら奴隷同士エッチなこと出来るんじゃないかって期待してました? 本当に滑稽ですね。そもそもエッチなことがしたいなら娼館に行けばいいのでは? 自ら望んでお金がほしい人なんていっぱいいますよ、まさかそんなことも考えつかなかったんですか?」


 奴隷呼ばわりするのはやめてくれ! お前にはいつか天罰が下るからな! 




 今日は休むことにした


「なぁ、俺の世界ではドラゴンがメイドしてたんだけど、お前らはしないの? してくれないの?」


「死んでも嫌」


「死んでから言ってください」


 いや、アニメの話だったけどさ。なんだろう、優しくない世界だ


「……休むならゲームとかしたいなぁ」


「げーむ? なにそれ、ちょっとあんたの世界のこと教えなさいよ」


 サンが前のめりになって聞いてくる、興味があるのだろう


 しゃーねーなー、驚かせてやろう


「例えばな、銃……弓を持って敵を倒すとかあるな! 顔も知らない人と対戦するんだ」


「うーん、わたしはいいかな、可哀想だし」


「面白そうですね、合法的に殺せるんですね。お金を奪いましょう」


 ……サンはいい子だな


「……まぁあれだ、うまくなると勝てるようになって面白い」


「わかります、何もできずにオロオロしてる初心者を狩るんですね」


 ……ゲームってこんなんだっけ、違う話にしよう


「あとそうだなぁ、誰が書いたかわからない掲示板とかあって、情報交換とかできるぞ」


「いいわねそれ、ギルド掲示板より役に立つかも知れないわね」


「絶対にバレないんですか!? じゃあイタズラし放題ですね! あぁどんどん罵倒する言葉が溢れてきます」


 こーゆーやつがいるから荒れるのか


「昔は誠死ねとかあったな」


「誰が書いたかバレてるじゃないですか!? ……なるほど情報交換して割り出したわけですね、これはすごいです」


「あんたの世界って、可哀想ね……」


 俺の世界も面白いからな!


「まって、可哀想じゃないから、面白いから。例えばスポーツが盛んでな、みんなで応援して勝ったら気分が高揚して川に飛び込んだりしてな、ははは」


「頭おかしい人が多いのかしら」


「危険な世界から来たんですね」


 ……そうなのかもしれない


 俺が落ち込んでいるとサンがソワソワしだした


 じっとしてるのが苦手なタイプなんだろうな、いつも突っ込んでいってるし


「……散歩でもいくか?」


「そうね!」


「まぁ、サンが行くなら」


 本を読んでいたルナも行くみたいだった


 サンの事が大好きなみたいだし離れたくないのか?




 ピクニックをすることにした、あのまま部屋にいても気分転換にはならない。


 町を歩いていると俺達三人は町の人たちに囲まれていろいろ聞かれたり、褒められたりした


「ダンジョンを二日で攻略したんですってね~、おばちゃん応援してるわよ~」


「あの金剛力士像を倒してくれたんだってな! あいつのせいで困ってたんだ、また頼むよあんちゃん」


「素敵抱いて!」


 最後のはおっさんだった


 しかし英雄になった気分がして実に素晴らしい、異世界はありだな、ダンジョンでは何一つしていないが


「ふんふふ~んピクニック~、おいしいご飯~♪」


 サンは上機嫌なようでスキップしている


「はぁ~、ダル」


 草原を抜け、森の近くまで来たところでルナが俺にしか聞こえない声の大きさで呟く


 ルナはテンションを下げようとしているのか? それにしても良い天気……曇ってるな、ちょっとルナの気持ちもわかった


「あ、魔物がいるわ! 私が倒してくるわね! おやつ!」


 サンが駆けていった、おそらく見つかった魔物はおいしく食べられるだろう


 ピクニックもいいもんだな、サンをみてるとこっちまで楽しくなってくる。ルナは……置いとこう


「……あ、雨ですね」


 上を見ると一層曇り空が暗くなっている気がする、手を出すと確かに雨の落ちてくる感触があった


 雨宿りできる場所がないか辺り見回すと、森の入口に小屋があり、雨宿りすることになった


「もうなんなのよ~!」


「宿から出るからですよ、やっぱり布団に包まって本を読むのが正解です」


 二人の服が濡れてる、引っ付いてる、狭い小屋の中、何も起きないわけがない! ドッキンバックン心臓の音が鳴り止まない、凹凸ががががが、なんで服透けないの!


「近づいて体温で温め合おう!」


 俺の意見はまったく届かず、サンが火をおこした


「あっち向きなさいよ、この変態!」


「こっちを見たら目をくり抜いて脳みそを引きずり出します」


 俺は壁の方を向いた、服を脱いでる音がする


 あぁやばい、小屋の中でテント張っちゃった、鏡ないのか鏡! なんで俺は用意してなんだ


「なぁ――」


「振り返ったら殺すわよ、あんたに見られるなんて死んでも嫌!」


「なんですかゴミ虫、まさかエッチな事考えてるんですか? 私の綺麗に整った胸は一億円払ってもチラ見しかできませんよ?」


 やめて痛い! テント張り裂けちゃう


 俺は悶々としたまま小屋の壁のシミを数えた、素数は難しいからな。服が乾いたらしい、夜になった


 俺は振り向くことが許され二人を見たが、どうやら布団があったらしい、二組みだけ布団が敷いてある。小屋の中を見渡しても布団は他になかった。


「なぁ布団って――」


「雨も止まないみたいですしここで寝ましょう……スピー」


 はやっ! のび太くんかよ


「あ、ちょルナ……」


 サンは少し震えているような感じで、寂しそうに掛け布団を抱いている


 俺は木で出来た硬い床に寝転がり目を閉じた 


「はぁ俺たちも寝ようぜ……スピー」


 ……


「きゃー!」


「なんだ!?」


 サンがビクビクしながら震えている、ルナは寝ている


「そ、外でガサガサってしたの!」

「なんだよ、風で茂みが揺れたんだろ?」


 耳を澄ましてみても何も聞こえない


「見てきてよ!」

「えー」

「お願いよ!」


 サンが震えてながら俺の方を見てくる


 ……なんだよ


「しゃーねーな」


 サンとルナを残し、小屋の周りを見回ってみても何もなかった


「大丈夫だった!? 何もいなかった!?」


「なんもなかったよ、……もしかして怖いのか?」


「べ、別に怖くなんてないわよ!」


 ガタガタと小屋のドアが揺れる音がする、おそらく風だ、外にはなにもないし、特に気配があるわけでもない


「ひっ」


 ほーう、これはこれは


「あ! サンの後ろになんかいないか!」


「うわぁあああん」


 サンの後ろを指差し、驚いたフリをした。するとサンが抱きついてきた! いい匂いがする


 うはははは、これはいい


「なんか黒い影に囲まれてるぞ!」


「やだやだやだやだぁ!」


 サンが顔を胸にグリグリしてくる


 あぁ気持ちいい幸せ


「私少女なんです! 食べてもおいしくないです! 胸もないです固いです助けてくださぃいい!」


 これは面白いなぁ……


 サンを見ると震えてるのがわかる、俺の腕を掴む手も腕も震えていて、体に直接伝わってくる


 …………やりすぎたかもな


「あ、消えたわ。よかったな大丈夫だぞ」


「ほ、ほんと? もういない?」


 サンの顔が近い、目元を潤ませ、見上げてくる


 サンの涙目可愛いですわぁ…………でも悪い気がしてきたなぁ


「ごめん、さっきの全部嘘だぞ」


 俺は笑いながら言った


「………………はぁ?」


 サンが顔を伏せたと同時に声が届く


「ん?」


 なんだろう、いつもより声が低い


「なに抱きついてるのよ変態!」


「え」


 サンに突き飛ばされてしまった


「最低このクズ! 外で見張ってなさい!」


 サンは俺を外に追い出し、ドアをしめて叫んだ


「ん~ムニャムニャ、私は食べてもおいしく、おいしいですけどダメですよぉムニャムニャ」


 俺は外でルナの寝言を聞きながら一晩過ごした




 町に帰る途中、大きなニワトリと大きなミノタウロスが戦っていた。二人があっさり倒した。俺は町の人に分けてあげようと提案しサンを説得した。二人に運んでもらい町の人にご馳走することにする。


「いやぁ~こんなに大きい個体を倒してしまうとはさすがです」


「大きい個体はおいしいです、私たちにご馳走してくれるなんてありがとうです」


「クス様達が町に来てくれてみんな喜んでいますよ」


「これからの活躍も期待してます!」


 町の人達は喜んでいた、褒められたり武勇伝を聞かれたりした、サンは明るく可愛いので人気者だ。ルナも一部から人気だ


 俺は昨日寝ていないこともあり一人で宿に帰り寝た


 サンはそれからも毎日町に出かけては、人助けやクエストを受けているようだ。ルナは知らない、たまに冒険者から苦情が来たり、飲食店の人が謝りにくるくらいだ


 俺は何日かわからない間、宿でゴロゴロしていた。


 二人がいない間は俺の時間だ、なんでもできる! そう、女の子がいない部屋でなんでも!

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