第5話
「だ、ダンジョンだ……」
「あんた昨日の威勢はどうしたのよ」
俺たちは地図を頼りにダンジョンの前まで来ていた、町の橋から町の反対側にあるところだ
平原の中にポツンと洞窟のような石でできたものがあり、その中には階段だけが見える、どうやら階段を降りた先がダンジョンの一階層のようだ。洞窟の周りに螺旋階段のような階段もあり、降りた先にボス部屋と繋がる扉があるらしいが、中からしか開かないらしい。壊せば? と言ったが魔法で無理とのこと、異世界の魔法だから仕方ない
しかし改めて考えると結構怖いな、ワクワクももちろんあるけど魔物強かったらどーすんだこれ
「さっさと行きますよ」
二人はどんどんとダンジョンの奥に入っていった
階段を降りると、ダンジョンの中は人が三人は並んで通っても余裕のある横幅で、高さは人ふたり分くらいだ。足元は土だが舗装されているようで平らになっており歩きやすい、凸凹しているわけでもなく走って大丈夫そうだ。おそらく魔物がしっかり整備しているためだろう。壁の横と上には光を発している魔石というものがハマっていて明るい、この魔石がいろいろな便利道具の燃料になるらしく、ダンジョンのボス部屋を攻略した後は騎士たちが回収してくれるらしい
俺たちはダンジョンを潜っていく
しかし…………おかしい、魔物が俺のところに全然こない、順番に先頭に立っているのだが、なぜか俺の番になると魔物が素通りしていく
「ちょっとそれも運なわけ!?」
「しっかり戦ってください、サンが少しでも傷ついたら指を切り落としますよ」
ヒェ、そんなこと言われても
「逆に危ないわ、私たちが交互に戦うから後ろに行っていいわよ」
サンは魔物を蹴散らしている
「ありがとうな、使えなくてすいません」
俺は軽く頭を下げた
「パルプンテ使いませんか? 大丈夫ですよそんな簡単に死にません、私はあなたを信じています」
その顔をやめろ、パルプンテ使うと死ぬかもしれなんだぞ? お前あれだろ、めんどくさいんだろ、俺の命より金なんだろ!
「勘弁してください」
結局二人が交互に戦うことになり俺は後ろをトボトボついていく
あー暇だわ、異世界ダンジョンってこんなに楽なんだな
俺は両手を頭にやり、あくびをしながらダラダラ後をついていくだけだ
「やっ、とう」
サンは軽快に殴ったり蹴ったり時々ブレスをはいて簡単に魔物を倒していく。走って殴る、その勢いのまま奥の敵を蹴る、簡単そうだ
魔物は倒される時にスっと消えるから罪悪感もない
「ふふふふふ、痛いですかどうですか? そんな攻撃じゃ傷一つつきませんよ、あぁ仕方ないですねそろそろ消してあげます」
ルナは軽く攻撃した後に相手の攻撃を受けて効かないことを確認し、相手が絶望の表情をしたあとになぶり殺していた。なぜかルナの時だけ魔物の表情がある気がする
うわー、ないわぁ
「次はどっちなの?」
「こっちかなぁ」
分かれ道にくるたび、サンもルナも俺の意見を求める、このダンジョンはどうやら迷路になっているらしい、アダムに聞いただけなので他のダンジョンは知らない
運が良くても道なんてわかんないぞ
「もう次の階段ですか、運だけはいいですねゴミ虫」
はい、運はすごいです
俺は戦っていないのでなにも言い返せない
「あ! 宝箱があるわ!」
「!」
サンの番になり、歩いていると曲がり角の先に宝箱があった、よくゲームで見る見た目のあれだ
ルナが突然走り出し、宝箱の前で座り込んでジィーっと宝箱を見ている
「どうかしたのか?」
「パルプンテを使ってください!」
俺達がルナに追いつくとルナが振り返って必死の形相をしている
金の絡んだルナは怖い、いや、いつも怖いが
「……は? やだよ死ぬかも知れないじゃん」
「見てくださいここですここ! パルプンテを使わないと開かないみたいです! はやくさぁさぁ」
ルナの指差す先を見ると宝箱には『パルプンテを唱えよ』とだけ書いてあった
「宝箱ってこんなんなん?」
「そう、なのかしら。たまに開くのに条件がある宝箱はあるみたいだけどさすがにこれは……」
「だよなぁ、パルプンテって死ぬかもしれないんだろ? 普通こんなのできないよなぁ」
「そうね、さすがに命がかかってるし」
サンは苦笑いをしている
「何を言っているんですか! 宝箱ですよ宝! お願いです開けてください! 私はお金のために冒険するって決めたんです! あっ、よくみたらクス様ってイケメンですね、イケメンのクス様ならやってくれますよね!?」
サンのためじゃなかったのか? でもイケメンは嬉しい
ルナは最終手段の土下座をしていた
「でもルナ、さすがにこれはやめたほうが」
「嫌です嫌です宝を前にあきらめるなんてできません、どうかイケメン様この宝を!」
サンはパルプンテを使うことに反対してくれているようだが……イケメンか、そこまで言われちゃやるしかないか、ルナも動かなそうだしな
「はぁ、やるわ。パルプンテも使ってみたいとは思っていたし」
「そ、そう」
俺はパルプンテを唱えた
……あれ? 宝箱は空いたみたいだけどなにも起きないぞ?
サンとルナの前になにかがひらひらと舞って落ちてくる
「さいってい」
サンはスカートを抑えながら俯き、顔を真っ赤にしている
「このゴミ虫を殺しましょう、今すぐに」
ルナは立ち上がり俺のことをゴミを見る目で見てくる
あ、やっぱりそれ、パンツですよね
「あ、あの。すいませんっしたー!」
俺は土下座した
宝箱の中には『いいことあった?』と書いた紙が入っていた。
十階層のボス部屋到着、扉の前
「いろいろあったな、仲間との出会いと別れ」
「なかったわよ?」
サンはキョトンとしている
「魔物との死闘」
「なかったわよ?」
「そしてパンツ事件」
サンは顔を赤くしている
キョトンからの恥じらい、可愛い、セクハラって最高だ
「ほんとにゴミクズですね」
「俺たちの戦いはこれからだ!」
「さくっと狩りましょう」
……でもボスは強いはず! 死闘の始まりだ!
俺たちがボス部屋の扉を開けるとそこにはミノタウロスがいた、部屋は高く広く闘技場のような観客席もある、観客は誰もいなかったが魔物同士で戦っているのだろうか。ボス部屋だ、ここで下克上でもしているのかもしれない。心なしか天井の魔石も多い気がする、ダンジョンのボスはいい暮らしをしているのかもしれない。そんなところの中心にミノタウロスはポツンとたっていた
「おやつよ! 私がやるわ!」
「では私は本でも読んでます」
本なんてあるんだ
「うぉおおおおおおおおん」
ミノタウロスの雄叫びが木霊する! サンはそのままブレスをはいた! ミノタウロスはこんがり焼けた
上手に焼けました~♪
「……もう終わり?」
サンは四つん這いになり、ミノタウロスにかぶりついた!
「ちょまっ!? やめて!? ドラゴンになって食べて!」
「? なんでよ? ドラゴンだと体力使うのよ?」
「女の子が這いつくばって床のもの食べるとか見たくない!」
「死んでも嫌!」
まじかよコイツ、異世界にマナーはないのか残念な子だ、あれ? そういえば
「なんでこいつだけ消えなかったんだ?」
「食べたかったからよ?」
頭がおかしいのか?
「なにいってんだ?」
「魔物は一定のダメージを与えると消えるの、食べたかったりすると消えないのよ」
へー異世界はよくわからん
サンが食べ終わるとルナも読書をやめた
「あ、終わりましたね」
「待たせてごめんね? おいしかったわ!」
「では宝物庫に行きましょうすぐ行きましょう」
ルナが奥の扉をあけ、宝箱も空けていた
「はずれですね、なにもありません、このダンジョンはゴミです」
「まだそんなにできて間もないダンジョンなんでしょう? 仕方ないわよ」
悲しそうにしているルナをサンが慰めていた
サンとルナの後を追い部屋を出た
二十階層のボス部屋到着、扉の中
「お金です! 私がやります!」
「私は外で待ってるわ!」
なんだ? 危ないのか?
サンが扉の外に行くのを見送りルナが退治している魔物を見る、宝石人形という魔物で珍しいらしい、宝石が体に散りばめられた人形だ、宝石以外は木で出来ているように見える。部屋はミノタウロスがいた部屋と変わらない
「うぇひひひひ、可愛い女じゃねーかよぉ、いたぶってやろうか? ん? ん?」
口なんてないのに平気で話し出す、さすが異世界だ。なんだかんだ初めて魔物が話すところを聞いたが別に普通らしい
「では行きます!」
ルナが素早く近づき、宝石人形の体に手を伸ばすと、……片手片足をもぎ取った
「ぎゃぁああああああああああああああ」
宝石人形よ、俺は何もできない
俺は目を閉じ、耳をふさいだ、きっとサンもこんなところを見たくなかったから外に行ったのだろう、俺も外で待っていれば良かった
すぐに肩に手が置かれた、目を開けてみるとルナがニッコリ笑っている
「もう終わったのか?」
「なんですか? もっと見たかったんですか? グロいのが好きなんですか? でしたらダルマにでもして引きずり回せばよかったですか?」
「いや――」
「いえいえわかりますよ、私も泣き叫んだり命乞いをしてるのを見るとキュンキュンします」
「そーゆーのいいから!」
ルナはすっきりしたような表情で宝石を抱えていた
でもゲス顔はやめてほしい、だんだんゲス顔の中にも種類があるような気がしてきた
二十階層も宝箱は空だった
三十階層のボス部屋到着、扉の前
「次は俺がやってみたい、でもなんかあったら助けてくれ!」
「いいわよ!」
「はぁ、そうですか」
扉をあけるとそこには綺麗なお姉さんがいた、黒のビキニを着てうつ伏せに寝転んで棒アイスを舐めている、すぐに目があった。
下にブルーシートが広げられ、他にもお菓子などがあった気がするがそんなことはどうでもいい
「あ! あれはサキュバスよ! 気をつけるのよクス!」
「ふーん」
サキュバスか、いいじゃん、綺麗な黒い目に吸い込まれそうだ、しっとりとした黒髪はずっと触っていたい、なぜダンジョンなんかに入ったのだろうか、そうか、お姉さんに会うためだ、戦いは何も生まない、争い何て無意味だ。大きな胸だ。はやく、はやくあの胸に近づかなければ
俺はサキュバスに近づく、なぜか足が千鳥足になっているような気がした
「あらいい子ね、お姉さんと遊びましょ」
「はい、全裸になって語りましょう、争いはダメですよね」
はい、もう何をして遊びましょうか、決まってますよねにゃんにゃんしたいです、でもお医者さんごっことかどうですか? 俺が患者やります、お姉さんはきっと素晴らしい名医です俺の体を全てさらけ出しますよ?
「あんた待ちなさい! 今冷静なの!?」
サンが何か言っている、俺は二人に向かって手のひらを向けた、大丈夫の合図だ
大丈夫、冷静かって? 冷静だよ、冷静にお姉さんとにゃんにゃんしたい。はやく近くに行かなきゃ俺の息子がそう言っている気がする、もう歩いてなんていられるか走らなきゃ
俺は全力でお姉さんに近づいた、お姉さんは手を出して微笑んでいる。そしてついに、ついにお姉さんの手に触れた
幸せだ、手に触れただけでこんなに幸せだった事が今まであっただろうか、次は、次はなにをしよう、なんでもできる、きっとお姉さんは俺になんでもさせてくれる、だってこんなに笑顔なんだから
「うふふ、……なにしたい?」
「あんた正気!? サキュバスに触れたのよ! 大丈夫なの!?」
「あ、あれはもうダメですね、クズの顔です」
なにか聞こえた
正直うるさい。
俺は再度二人に手のひらを向けた。
お姉さん、ああお姉さん、お姉さん。ふ、良い詩が浮かんでくる。この世界には俺とお姉さんしかいないのだ。大きな胸から目が離せない離すもんか。あぁこれに挟まれてパフパフしたらどんなに気持ちいいんだろうか、触りたい、この手で揉みたい、この胸には夢と希望が詰まっているに違いない。そうだ、俺はなんて幸せ者なんだ。お姉さん、俺と一生すごしましょう俺がお姉さんを幸せにします、誓います誓いました。もう触っていいですか?お姉さんは俺のものなんですから触っていいですよね? はぁはぁ、だめですもう止まりません。その胸! もらいます!
「お姉さん――」
「ちょっとクス!!!」
またなにか聞こえた
ほんとうるさい
「うっせぇだれだよ!」
誰かが俺の邪魔をする、マジで空気読めよ、消えてくれ
「えっ……」
「あ~、もう無理ですねあのゴミは、完全に落ちてます」
「この馬鹿はもぅ~!」
気がついたらサンがお姉さんの胸を奪っている
こいつ、俺の胸を返せ!
サキュバスが消えた
あれ?……俺なんであんなにお姉さんに惚れてたんだ? なんだろう、考えがまとまらない
「なぁ俺、サキュバスに操られてた?」
「ほんとあんたは変態ね!」
あぁ、俺はクズだったかもしれない
二人が進んでいくので後を追いかけた
宝箱の中にはサキュバスの髪の毛がびっしり入っていた
怖っ! ……あ、でもちょっと
ギルドの前
「あのダンジョンをもう三十階まで攻略ですか!?」
「え、……はぁ」
ダンジョンから出てきた俺は二人を先に宿に返し、街をぶらついていた。するとギルドの前でアダムに出くわし、ダンジョンの進み具合を報告した。
びっくりするだろ声がでかいわ
「ええと、疑っているわけではないのですが一応ギルドで確認してよろしいですか?」
「はぁ」
ギルドでわかんのか?
アダムについていくとカウンターで水晶玉の上に手を置くように指示された
「す、素晴らしいです、さすがはクス様です!」
受付嬢さんが驚いている
「はぁ……どうも」
水晶玉でダンジョンの進み具合やクエスト達成がわかるようだ
魔法ってすごい
「やはり私の見立ては間違ってはいなかったようですね」
「はぁ、そうですか」
疲れてるし、アダムの声はでかくて周りの人もざわざわしてるし、もう帰りたいんだが
それから一時間くらいアダムに褒めちぎられていた。
「ありがとうございます! 私は王に報告してきます! ダンジョン攻略お願いします!」
やっと解放された、もう宿に戻ってダラダラしよう
ギルドや、宿に戻る途中でも町の人は俺の方を見て何やら噂していた
「おかえりなさいませ、噂になっておりますよ」
今度はイケメンロリコンエルフか、お前に二人はやらんぞ
「そうですか……噂?」
「はい、なんでもあのダンジョンをもう三十階層クリアしたとか」
「それってそんなにすごいことなんですか?」
「ご冗談を、ダンジョンをこんなに早くクリアできるとは、今まで聞いたこともございません。あのダンジョンの魔物は強い個体も多いらしく町中の噂になっておりますよ」
マジかよ、俺なんもしてねぇぞ。ああでもまぁ今日はいいや、もう寝よう
「そうか、疲れてるんだ」
「はい、おやすみなさいませ」
俺はサキュバスのお姉さんの夢を見た、異世界はいいところなのかもしれない
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