第3話

「負けました」


 騎士はそういうと力を抜いたようだ、馬がどいたあとも片膝を付いている


 ……なんかやりすぎてしまったかもしれない。さすがにあんな馬鹿にしたような勝ち方は悪い気がしてきた


「強かったよ……」


「俺はこう見えてもこの国で一番剣の腕が経つと自負している、もちろん他の国のやつにだって負けないと思っている」


「でもあんたあっさり負けたのよ?」


 サンよ、やめてあげてくれ


「俺は今まで負けたことがなかった、この国でも騎士団長の座をずっと続けている。しかしあなたは俺の怒りを煽り、馬がくるタイミングに合わせて俺と勝負を開始していた、戦う前から俺はあなたの手のひらの上で踊っていたんだ!」


 こいつやべぇな頭とかとくに。この国は大丈夫なのか?


 騎士は地面を殴っている、悔しそうに見えた


「騎士さんも強かったよ、ギリギリだった……」


 いかん、自分で言いながらも笑いそうになっている堪えなければ俺まで非常識な人になってしまう


 俺は騎士の肩に手を置いた


「まだまだ余裕がありそうですね。申し遅れました、私は騎士団長のアダムです」


 これは危ない、笑ってしまってはせっかくの仲直りが台無しになってしまう。


「俺はクスです」


「手合わせしてみてクスさんの強さを確信しました、依頼があるのですがよろしいですか?」


 これが手の平クルーってやつだな


「話しを聞いてからでもいいなら」


「ではギルドの会議室を借りましょう」


 俺たちはギルドの二階にある会議室に行った、そこにはテーブルと椅子が並んでおいてあった




 なんでもこの町の近くにいきなりダンジョンが出現したらしい、もともとこの世界のダンジョンは長い時間をかけ魔物がダンジョンの拡張をしていくようだ。このダンジョンは異常で突如として現れたにも関わらずその深さが一階層だけではなく調べただけでも二階層以上はあるそうだ。


 この世界のダンジョンは一階層から始まり十階層ごとに強力な個体の魔物が巣を作り存在するらしい。だいたいは一階層が発見された時点で国から騎士を出しダンジョンの拡張を防ぐらしい。なんでも過去に攻略された最高階層は四十九階層までだそうだ

 ダンジョン十階層ごとの強力な個体は下位の階層の魔物に命令をだし、お宝を集めさせているようで、冒険者や財政のためにいくつかのダンジョンはそのまま放置されているらしい

 しかし今回出現したダンジョンからは他のダンジョンと違いモンスターが溢れ出てきており、国も焦っているようだ。そこで騎士団長自ら優秀な冒険者にダンジョン攻略を依頼しに来たそうだ。

 ついでにダンジョンから湧き出る魔物退治も冒険者ギルドに依頼するらしい。




「どうでしょうか? ぜひ引き受けて頂きたいのですが、もちろん報酬のほうは国からの依頼ですから期待してください」


 騎士が立ち上がり頭を下げてきた


「少し相談します」


 俺はダラダラ休憩していたルナと寝ぼけているサンに向き直る


 ダンジョンも冒険っぽくていいなぁ、運強いし、俺強いらしいし、いけるでしょ余裕でしょ


「いいんじゃない? 毎日行くわけでもないし、人助けは冒険の基本よね!」


 こいつは半分寝ていたクセに理解できているのだろうか


「報酬が多いことは良いことです、サンが行くなら行きますよ」


 お前は金が入ればなんだっていんだろ?


 二人は俺が何か言う前に賛成した


 だが、ふふふ、負ける気がしねぇ運最強! 


「この依頼受けましょう」


「ありがとうございます!」


 アダムに周辺の地図とダンジョンの場所を書いてもらったあと、軽く挨拶してから町中に繰り出す


「ダンジョン攻略するぞー! おー」


 テンションが上がり右手をあげたのだが、二人共冷たい目で俺のことを見ている気がする、あれ?


「で? どこいくのよ?」


「ダンジョン」


 はぁ、というため息がルナの方から聞こえてきた気がする


「馬鹿ですか? 宿の確保とか良いのですか? そもそもダンジョンの詳しい事などはご存知ですか? どうせあなたは馬鹿だから知らないでしょうね」


「……知りません」


 仕方ないじゃん知らないんだもの! ダンジョンって潜って敵倒すだけだろ?


「ダンジョンは夜になると強力な個体が出ます、馬鹿一人なら行ってもいいですがサンを危険な目に合わすのは許しません」


「ほ、ほぉ」


 確かにテンションが上がっていたせいで冷静ではなかったかもしれない、ダンジョンのことは入ってから聞けばいいとして、……装備だって整えないとな


「では次に、宿の確保をしましょう」


「は、はい」


 ルナの言うとおりにしよう


 アダムに書いてもらった地図を見ながら、おすすめ予約済みと書いてある宿に向かうのだった。宿の心配はいらなかったようだ




 地図を見ながら宿にたどり着くとなかなか立派な建物だった。


 約百万もあることだしいいとこ泊まるか。安全面でもそうだが固いベットで寝たりなんかしたらダンジョン攻略に支障が出てしまうし、気を抜けるのは嬉しい。


 宿の中に入るとガリガリエルフの男がいた


 ガリガリのくせにイケメンかよ、エルフはずるい


「アダムの紹介できたんですけど」


「でしたら国に依頼を受けた冒険者様ということですね、一番いい部屋に案内いたします。ささっ、こちらです」


 エルフは階段の方に歩いていく、どうやら部屋まで案内してくれるようだ、ついていくことにする


 丁寧な接客に悪い気はしない


「ここの宿はいくらなんだ?」


「国の依頼を受けた冒険者様からお代を頂くなどとんでもないです」


「じゃあただなんですか? さすがにそれは悪い気が」


「いえいえ、国のほうからお代は頂けますのでご心配は無用でございます。なによりたくさんある宿の中からうちを選んで頂いただけでも光栄でございます」


 悪い気はしないな、なんというか気持ちいいくらいだ


 エルフに部屋のドアを開けてもらい中に入った


 部屋の中に入るとフカフカのベットが三つに、高そうなテーブル、椅子、水差し、クローゼットがあった。


 ベットが三つあるだと!? お約束はどうしたんだ!


「無料とは良いものです」


 ルナは機嫌が良さそうに窓際のベットの上に座った


 ここはドアに一番近い位置で俺が寝よう、美少女と同じ部屋で眠れるってだけで俺の息子は元気になっていた


 べつに下半身を隠すためにすぐ座りたかったわけではない


「そろそろ夕食の時間ね!」


 サンは水差しの水を飲み干していた、喉を通ればなんでもいいのかもしれない、今度石でも食わすか


 もうそんな時間になっていたのか、少し薄暗くなってきた気もする


 ダンジョン攻略は明日からでいいか


 コンコンとノックがされ夕食の準備が出来たと伝えられた、どうやら部屋まで運んできてくれるようだ。楽な方がいいに決まっている、配膳が終わるまでベットでゴロゴロしていた


「食べるわよ!」


 サンに呼ばれテーブルの席についてみると


「……なんか俺の料理よりお前らの方がデザート五品くらい多くね?」 


「エルフのお兄さんがくれたの!」


 なんで俺にはないんだよ!? あの野郎ロリコンか! 二人に悪い虫が付かないように気をつけなくては


 俺はプリンに手を伸ばした


「ちょっとくれよ」


「死んでも、嫌!」


「食事が足りないんですか? 床に落ちてるホコリでも食べたらどうです?」


 こいつら! ……ふぅまぁいい、落ち着こう。あとで俺だけプリン買ってきてやるからな!


 二人はまったく俺に気にかけることもなく食事をしている


「なぁ、ダンジョンに行く前に装備とかほしいんだけどさ、やっぱそーゆーのあるんだよな?」


「そりゃあるわよ、私たちには必要ないけどね」


 は? あぁドラゴンだから肉体とかで戦うのかな


「ふーん、じゃあ明日装備整えてからダンジョンいくか、服とかもないしな」


「! そんなお金はありません! 全裸で行けばいいじゃないですか!」


 こいつ何言ってんの!?


「いやいやいやいや装備ないと俺素手じゃん!」


「だからどうしたのです? 私たちは素手でも強いですし服もドラゴン特性で作っているので問題ないです」


 ドラゴン特性ってなんだよ! いやいやそんなことはいい


「俺の心配もしてよ!?」


「はぁ……、仕方ないですね」


 チリーン、そういうとルナは百円玉だけ床におとして恵んでくれた。俺は泣きながら眠った




 まだ日の出前の時間に、俺は朝だれよりも早く起きた。そして二人を起こさないように宿から出た


 運があるんだ! 金だ、装備だ!  


 俺はアダムからもらった地図と、ルナの横に置いてあった約百万を握り締め、魔物闘技場に向かう




 たどり着いたそこの中には、まだ日が昇っていないにもかかわらず大勢の人がいた。


 この世界の娯楽は少ないのかもしれないな。魔物闘技場、魔物同士を戦わせて金をかける賭博のはずだ。


 闘技場は東京ドームのようだった。観客席から見下ろすように広間があり、奥に半円を描くように鉄格子が四つあった、そこから魔物が出てくるのだろう。


 俺はあたりを見回し受付っぽいところに行くと、説明をきいた。どうやら魔物によって賭け金の倍率が違うらしい、思ったとおりだった


 賭け金、百倍だと!? 運があればなんでもできるはず! 超大穴を狙おう


 俺は再度、ルナの横にあった約百万円を握り締め、受付に渡した


「倍にして……返すからな」


 賭博はすぐに始まった


「朝一の魔物はこちら! スライム倍率百、ネコスライム倍率二十、イヌスライム倍率十、ミノタウロス倍率一・二です!」


 倍率はだいたいの強さを表すらしい


 スライムが百匹いてもミノタウロスに勝てる気はしないが、なにが起こるかわからないのがギャンブルだ!


 頑張れスライム! 俺のために!


「さぁ今、鉄格子がひらいていくぅ!」


 実況のお姉さんだろうか、観客席の真ん中、先頭でノリノリに解説している


 鉄格子の中から水飴みたいな丸いスライム、猫の形と犬の形に作られたような水飴のようなスライム。三メートルくらいあるだろうか、ムキムキボディビルダー人間の筋肉をした顔は牛のミノタウロス、が出てくる。


 いやこれ出来レースだわ


「うぉおおおおおお!」


 ほかの観客たちも盛り上がっているようだ


 お、俺だって応援してるぞスライム!


「おおっとぉ、スライム達が協力してミノタウロスを倒しにいくようだぁ!」


「おおおおおおおお、いけぇネコスライムゥ」


 そうだスライム! みんなで行けばきっと勝てる! そして漁夫れ!


 スライム達が一丸となり、ミノタウロスに近づいていく


「あぁっと、おしい!ネコスライムとイヌスライム、ミノタウロスにワンパンだぁ!」


「くそう、母ちゃんにシバかれる」


 全然おしくねぇじゃん!? でもまだあきらめるには早いぞスライム! 俺が付いてるんだ勝てるさ!


「なんとスライム怖いのかぁ!? 壁際に逃げてプルプル震えているだけだぁ」


「誰もスライムなんかにかけてねぇよ、今まで勝った事もねぇし」 


 え、マジ? ダメなのかスライム


 スライムは確かに壁際で震えているように見える


 俺はスライムの勝利が信じられず下を向いてしまった


「な、なんだあれわぁ!」


 実況のお姉さんが叫んでいる声が聞こえた、釣られて上を見てみると。赤いドラゴンがすごい速度で急降下してきた、そしてミノタウロスを捕まえ、街の外に消えていった。


 あ、勝った……


「え、ドラゴン?」


「そんなわけないだろ」


 何人かの観客達が驚いているが


「だ、だだだ、大逆転だぁあああああああ!」


「うぉおおおおおおおおおおお」


 闘技場が熱狂の渦に包まれている中、そそくさとお金をもらい闘技場を後にした 


 宿に戻るとサンが起きていた


「なぁサン、お前どこか出掛けた?」


「え? おやつ探しに草原まででかけたわよ? でも結局ミノタウロスの匂いがしたからそれにしたけど」


「あ、うん、そっか……」


「?」


 ……イカサマじゃねぇか!!!

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