第2話

 朝日が昇ってきた、サンとルナがなにやら相談を始めたので俺は黙って立っていた 


 やっぱり殺そうとかにならないよな? 逆にこのまま上手くいけば二人の美少女と一緒に冒険できる、お願いします神様


 俺が心の中で神に祈っていると、二人の話は終わりそうになっていた、注意深く聞き耳を立てる 


「しかし、本当に死なないんですね、これなら身代わりくらいには役立つかもしれませんね」


「でしょ!? 私も殴ったのよ! 一応大人に見えるし、きっと冒険の役に立つわ!」


 身代わりとか一応大人とかひどい言われようだな


 話を聞いているとサンがルナを説得してくれたようだ。ドラゴンの攻撃は強いらしく、それに耐えたことで一応は認めてくれたのかもしれない


 パンツの事はもう忘れたのかな? 怒っていたようだけど、子供だしなきっとそうだ。


 俺はルナに近づき手を差し出した


「これからよろしくなルナ」


「町にでも行きましょう」


 パンツの事を根に持っているのかもしれない。


 ルナに無視され俺の右手は行き場をなくした。少し悲しかったが俺はパンツのことを思い出す、少し大きくなった


 サンたちが町に向けて歩き出したので俺も慌てて後を追った




 町が見えてくる、石のレンガだろうか立派な壁が高く積まれていて町の中が見えない。壁が側面に円を描くように覆われており大きな町のようだ、壁の外側には堀があり水が溜まっている。そこに一本だけ橋が架かっており橋の前には小さな小屋が一つだけあった。銀の鎧に身を包んだ人が立っている、おそらく騎士だろう。


 サンが軽く会釈をすると騎士も軽く会釈を返すだけで町にはあっさり入れた。特に問題はないようだった。魔物や獣だけを通さないように見張っているだけだろう。


 俺も会釈をしたが不審者を見るような怪しんだ目で見られた。美少女二人の後を追うようにしていたからだろうか、失礼なやつだ


 町の中に入ると入口から一番遠い所には立派な城が見える、まっすぐに道が伸びており、道の脇にはいろいろなお店があった。木で出来ていたが外観は綺麗で立派なものが多い。日本で見た下町のようだ


 しかし人がいない、洋服屋の中をガラス越しに見たが誰もいないようだった、店も閉まっている


「確かフギの国だっけ? ここに王様が住んでるのか?」


「そうよ」 


 それだけ言うとサンはクンクンと鼻を鳴らしている。くぅ~っと音が聞こえた。サンは少し顔を赤くするとうつむいてしまった


 サンの腹が鳴ったのか? 俺も腹減ってきた、しかしこれは可愛いな、ちょっとイジワルしたい気分になる


「なんか聞こえたな?」


「サンは食いしん坊ですから」


 ルナはニヤニヤしている


 パンツの事はもう忘れたのか? それともサンをいじるのが好きなだけか? 二人にはひもじい思いをしてほしくないな、でも金がない、ご飯を食べさせてあげることもできない。とりあえず町の中を回ってみるか。ちょっとわくわくするな、異世界だから冒険者ギルドとかあるのかな


 考えながら歩いていると、サンがすごいスピードで走り出した。急いで追いかけてみると広場にたどり着き、そこには人集が出来ていた。


「大食い大会受付中でーす!」


 エルフっぽい人が叫んでいる


 ……うぉぉぉ、エルフだ! 獣人だ! ……町の人たちはここにいたのか。 


 そこには獣人、エルフやドワーフなどがいた。見た目から間違いないだろう。獣人には獣の耳や尻尾が、エルフは耳がながく胸がなかった、ドワーフは小さいおっさんだった。一段高いところに目をやるとステージが作られており、サンが参加者として座っていた、目の前にはテーブルとなにかの果物がある、リンゴのような見た目をしていた


「ちょ、少し目を離したスキにあんなとこに」


「良いではないですか? サンの食欲は化物ですよ、あぁほんとにサンは可愛いですね」


 うん可愛いね、ルナも可愛いけどな……ルナは変態なのか? キマシタワーなのか? しかしそんなことより金だ! 金があるわけでもなくあてもない。お腹を空かせたのを見ているのも可哀想だし、大会なら賞金とかでそうだし、いいか。


 鼻から息を吸ってみたがまったく匂いなんてしない、サンはテーブルにある果物の匂いを嗅いでここに来たのだろうか? ドラゴンは鼻のいい種族なのかもしれないな


「ドラゴンは鼻がいいのか? 俺にはまったく匂いなんてしないんだが」


「サンと一緒にしないでください。サンの食欲は化物だと言ったでしょう? 食べ物にだけ嗅覚が働くのでしょう」


 なるほど、サンはドラゴンではなく犬なのかもしれない


 とりあえずサンの食欲に頼ることにした


「大食い大会今から開催しまーす。参加者の目の前に七色の実が十個置いてありまーす、最初に全部食べ終わった人の優勝となりまーす。ちなみに優勝者には賞金百万円が贈呈されまーす」


 ちょうど今から大会が始まるらしい。見たこともない果物がテーブルの上に置いてある。リンゴのような果物は七色に光っている


 それにしても賞金百万円って単位が円なのか、ここ異世界だよな。あの果物は見たことがないし


「あの果物みたいなのってなんだ?」


「あれは七色の実ですね、個体によって味が全然違うので私は食べたくありません。初めて食べたときは苦く、次に食べた時は辛かったです。ちなみに私はあれを食べている人をみるのは好きですよ」


 ルナは笑いを堪えるようなニタニタした顔をしながら七色の実を見ている


「お、おう」


「では、みなさん用意はいいですかー? よーい…………………………」


 ためがながい!


「すたぁとぉー!」


 参加者が同時に七色の実にかぶりついた、そしてつり目の猫耳女性が


「ぐにゃあああああああああああああああああああ!」


 床に倒れ転げ回った。そして柔和な笑顔を振りまいていたエルフの女性は七色の実を


「ブッフォ!」


 吹き出した


 汚い、異世界に夢はなかったのか


 だが驚くことにサンは平気な顔をしながらもくもくと食べていた、まさに圧倒的である。これがチート能力というやつだろうか


 サンは果物を一つ一口で食べ終えてしまう、噛んでいるのかもわからないスピードで次々を口の中に消えていった


「おぉーっと! すごい、大会レコードを一時間も上回り今ここに勇者が誕生しましたー!」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 歓声がすごく耳の鼓膜が破れるかと思った


 あれ食うのに一時間以上かかるのか、異世界の食べ物には気を付けよう


「ひどい大会だったな」


「そうですね、醜い生き物です」


 ステージ上は阿鼻叫喚の地獄絵図だった




 無事に大会を優勝したあとはまともなご飯を探し町を散策していた


「ふふ、百万円」


 ルナはお金を大事そうに抱えてブツブツとつぶやいていた


 この子ちょっと怖い


「ルナはお金が大好きね!」


 サンが胸を張って威張っている、しかし胸はない 


「な、お金の大切さをご存知でないのですか? そもそもドラゴンと財宝とは切っても切り離せないくらいの……」


 ルナが金の大切さについてサンに熱く語りながら詰め寄っていた


 俺は辺りを見回し、店を見つけた


「お、出店発見。パパッと飯でも食おうぜ」


 俺の指さす先に焼き鳥屋があった、縁日でよく見かける作りをした焼き鳥屋だ


 サンと目が合うが、ルナはこちらに意識が向いていない気がする


 俺の足取りは軽く、すぐに店の前にたどり着く、たれの焦げたいい匂いがする


 オッチャンは団扇で匂いを送ってきているのではないだろうか


 サンとルナはまだこちらにこない、俺の声が聞こえたサンが走り寄ってくるがルナは動かなかった


「これを使うだなんてとんでもありません!」


 ルナが叫びだした


 え? 買わないの? 


 ルナの財布の紐は固いようだ。お金を大事そうに抱えている


「なんでよ! ルナは馬鹿なの!? お腹が減ってたら冒険なんてできないわ!」


「サンはさっき七色の実を食べたでしょう? まだ食べるんですかどれだけ食べるんですか」


 まぁルナにも一理あるな、サンはさっき食べただろう。でも俺は腹が減っているんだ!


 黙ってサンが勝つのに期待して待つ


「あんなのじゃ足りないわよ! それに目の前に焼き鳥があったら食べなきゃ焼き鳥に悪いわ! 食べてほしそうにこっちを見ているわ!」


「サンは食べ過ぎなんです、そんなに食べたいならその辺にいる人間を食べればいいじゃないですか。あんなゴミいくら食べてもまた増えてきますよ食べ放題ですよ」


 ルナ……お前ってやつは


「いやよ! 私はおいしいご飯が食べたいの! 七色の実もいろいろな味があっておいしいけど、焼き鳥だっておいしいの!」

「サンに味なんてわからないじゃないですか、なんでもおいしんでしょう? そんなに食べてるとまた下剤をしこみますよ。あの時は大変そうでしたね」


 ルナはゲス顔で笑っている


 ルナ……お前ってやつはなんてひどいことを。サン頑張れ! 俺も焼き鳥が食べたい、ダメだったら援護してやる!


「……」


「私の勝ちですねイェーイ、どうですか? くやしいですか? 謝るなら許してあげますよ? イェーイ、イェーイ」


 こいつの煽りは一人前だな


 ルナは人目をまったく気にせずダブルピースでサンの前を飛び跳ねていた


「……じゃあいいもん。使わないならお金なんていらないもん」


「え、ちょ、や、やめてください。なんでちょっと火をだしてるんですか?」


「……焼けばお金も食べられるかもしれない……」


「どれだけ腹ペコなんですか!? 目が座ってますよ、はわわ、お金お金が燃えちゃいます、すいませんすいませんやめてくださいお金だけは、なんでもするので許してください!」


 サンがルナの方に歩いていくとルナは土下座した


 金の力ってすごいな……異世界でも金の魔力は変わらないらしい


 焼き鳥をいっぱい買うと店の前にあったテーブルで食事をすることになった


「おいしいわ!」


 サンが焼き鳥を一口で頬張った、串ごとだ


「……そうだな」


 こいつは本当に味がわかるのだろうか、大会参加者が倒れたり吹き出したりするなか平然と食ってやがったからな、味覚が信用できない


 ルナが屋台の近くで泣き崩れているが、無視して俺も焼き鳥を食べてみる


 しかし焼き鳥は普通においしかった、日本に住んでいた頃と変わらない


 異世界だから食事が少し心配だったが普通に食べられて良かった、不味かったら開発とかしたのかもしれないが食事にそんな興味もないし上手くできる保証も知識もない


 俺はこれからのことを考えた


 とりあえず異世界だし冒険者ギルドとかあるだろう。そこで宿とか聞いて装備整えてお金を稼いで、いや、聞いたほうが早いな


「冒険者ギルドってあるのか?」


「あると思うわよ」


 ふむ、なら目的地はそこだな 


「じゃ、そこ探してもいいか? 冒険するなら冒険者ギルドって俺の世界では決まっていたぞ」


 アニメやラノベの中の話だがな 


「そうなの、まかせるわ」


 サンは食事に夢中なのかおざなりな反応だった


 食事を終えるのを待ちルナをなぐさめた、手を引こうとすると払われ、肩に手を置こうとすると払われる。仕方がないので金を稼ぐことを約束するとしぶしぶ立ち上がった


 なんだろう、この二人めんどくさい




 冒険者ギルドはすぐにわかった。看板に大きく『冒険者ギルド』と書いてある


 大きく円柱の形をした建物で、三階くらいはありそうだ。テキサス映画に出てきそうな扉を開け、ギルドの中に入ってみると人がカウンターにしかいなかった。ギルドの中はカウンター、掲示板、ソファーが置いてあり、カウンターには綺麗な受付嬢といかつい男性がいた。


 ここがギルドか、冒険してる感じがするな。……おっさんが怖すぎるけど誰が男のほうにいくんだ?


 俺は掲示板でとりあえずクエストをみてみた


 掲示板には紙がいくつか貼り付けられており、そこでクエストを選べるようで、すべて日本語だ


 ……字とか言葉とかわかるな、俺がわかりやすいように神様が脳内変換機能でもくれたのか?


 ギルドのドアが勢いよく開かれ騎士の格好をした背の高い筋肉質の男が入ってきた。


「王の使いだ! 冒険者はいるか!」


「ぼ、冒険者のみなさんはお昼前にクエストに行ってしまいました。でもまだあちらに……」


 受付嬢は涙目で俺たちの方を見た


 泣き顔ってやっぱ可愛いな、若くなさそうだから俺のストライクゾーンではないがな


 受付嬢さんの見た目は二十代後半だ


 せっかく異世界に来たんだ、十代でハーレムがいい! 受付嬢さんとは一晩限りの関係が――


「あんなひ弱そうな奴に王の依頼が務まるものか!」


 騎士はふんぞり返って俺たちの方を見た


「なんですって!? クスは変態だけど弱くなんてないわ!」


 おや、かばってくれたのかな? 


 自分がぶん殴っても死なない俺に一定の評価はしてくれているようだ


「ちびっこ、さすがにそれはないだろう」


 騎士は馬鹿にしている笑みを浮かべながらサンを見下ろす位置に歩き出した


 これはいけませんよ、喧嘩はよくない! 結構怖いけどサンを守らなくては! 


 俺は騎士とサンの間に割り込み二人を落ち着かせようとする


「まぁまぁ落ち着きましょうよ、子供の言うことです」


「でしたらクスと木偶の坊で決闘をしたらよろしいのでは?」


 ルナがゲス顔になりながらも冷静な声色で発言した


 ちょっとまて煽るのをやめよう、そしてゲス顔はやめろ


「ほ、ほぅいい度胸だ、こっちに来いひ弱」


 あ、これ俺が戦うんだ、運がいいはずでは?


 騎士はまたドアを勢いよくあけギルドの外に出ていった


「ぶっ殺すのよ!」


 サンは興奮状態のようだ


 俺は仕方なく騎士の後を追った




 ギルドの外に出ると、騎士はある程度の距離を離している状態で腰から剣を抜き放って構えていた、正眼の構えだ


 これマジのやつですやん、騎士さん殺す気満々でこっち睨んでますやん。叫んでますやん


「うおぉおおおおお!」


 あ、無理無理俺死ぬんだ、やばいなこれ……さよなら異世界


 騎士がいきなり馬に引かれた、剣は吹っ飛んで転がっている。そしてそのまま馬が騎士の上でお座りしてしまった


「…………」


 う、運つええええええ


「貴様なにをしている!」


「すいません。急いでいたもので」


 騎士が必死の形相でもがいているが馬はびくともしない、馬には荷台がつなげてあり、後ろには荷物のようなものが積んであった。おそらく商人が馬車を操っていたのだろう


 商人さんありがとう! マジで怖かったです! ………………でもなんかムカついてきたな、なんで俺がこんなことになってんだ? なんで俺がビビらなきゃならないんだ?


「動けないんでしょ! これで私達の勝ちね!」


 サンが俺の後ろで誇らしげに胸を張って威張っている


「ふふふ、滑稽ですね」


 そしてお前はゲス顔をやめろ


「こんなことで、こんなことでぇ!」


 騎士はまだ暴れているが剣も遠くにある、馬に乗られて身動きがとれない騎士に向かって俺は騎士にゆっくり近づき耳元で囁いた


「ねぇねぇ今どんな気持ち? ひ弱に負けたんだよ? どんな気持ち?」


 きもちぃいいいいいいいい、異世界楽しぃいいいいいいいいいい

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