第24話「舞台は絶島、最後の地」
【ブライダリア】に海はない。
それは単に、ゲームデザイン的な『想定された接続ユーザー数に対応出来るクエスト用地を確保するため』という理由だと今まで言われてきた。無論、公式の運営チームからのアナウンスではなく、プレイヤーたちの
しかし、世界を
モンスターと戦いクエストをこなすでもなく、ただひたすら【ブライダリア】を旅行するだけの生活へ
つまり、その真ん中に浮かぶ【
「サユキ殿、初めて解放されたダンジョンだが……恒例の
多くの
「何? 【エンシェントハング】を倒したら、ドカーン! って飛んで帰ろうって訳? 今日は純粋に長期戦対応のアイテム構成だから、そんなの持ち込む余裕なんてゼンッゼン! なかったわよっ」
最終決戦の地、絶島コーラルナリアで緋瑪達冒険者を待ち受けていたのは、
そんな殺風景な中でも、ヒメがいつもの調子でサユキに笑いかける。
「サユキさん、せめてもう少し歩きやすそうな
「
どうやらサユキは、体力面ではそこまで高レベルなキャラクターではないらしい。頭脳労働に特化した賢者という上級職の、それは宿命みたいなものだとエンデウィルが推しててくれた。彼女の気遣いに緋瑪も、気付けば自然と言葉を返す。
「マスターは平気ですか? もう半分は登ったと思いますけど」
「うん、大丈夫。
ぶーぶーと文句をたれながらも、サユキは緋瑪とヒメに追い付き、その間を抜けて追い越していった。その足を包むのはやはり、白いレースの踊る漆黒のパンプス。緋瑪はヒメと
「何か思い出しちゃうわ、私ね……すっごい昔だけど、とんでもない人達と【プレイシェアリング】したことあるのよね。セキトくんには話したっけかな?」
「え、えと、どんなお話でしょう」
「ああ、あの話かな。まあ、ホントに色々な世界があるよね、【ブライダリア】ってさ」
先頭を歩くアルが振り返り手を伸べる。その手をとってサユキはスカートを
「まだ私がセキトくんと同じ
サユキの言葉にエンデウィルが声を弾ませた。
「あ、私その世界知ってます! 剣とか弓だけで戦うんですよね……ふふ、それもまた創造主がこの世界に
「そそ、全モンスターの被ダメージ時のエフェクト設定を、よりリアルにって……一応全年齢対象のゲームなんだから、血がドバドバ出るのはマズイでしょって話になったのよねん」
エンデウィルとサユキの話では、紆余曲折を経て尚、魔法の存在しない【ブライダリア】は今も
「まーでも、魔術士が入ったらやることないでしょ? だから生活スキル上げつつね、
「軍師……素敵、です。でも、あ、あの……ど、どうしてサユキさん、そんな世界の人と……【プレイシェアリング】したんですか?」
緋瑪が素朴な疑問を投げかければ、サユキが足を止めた。忽ちその
「んー、まあ、その……ちょーっちイイ男だったのよね、彼。あとまぁ、それなりに楽しかったし」
「は、はぁ……確かに、少し、楽しそう」
まるで
「今日はでも、そんな連中とも再会するかもね……イベントクエストは言ってみれば、あらゆる分岐した【ブライダリア】が統合されて一つの目的を共有する、特別なクエストですもの」
そう言ってサユキは、少し
「会いたくないんですか?」
「んー、まあセキトくんももう少し大きくなればわかるかな? 昔の男に会うってヤなものよね……しかもイベントクエストだから、参加しちゃうと終了まで分岐できないし」
「うむっ! だが誰もが望んで【ロード・ブライダリア】の元へ集うだろう……逃げる者などもはや、いる
いつもの調子で声をかげらせて、遠くへと視線を放ってアルが右手を押さえる。そのキャラ作りももう御馴染みのもので、緋瑪はアルの『右手の古傷』とか『怨敵』とかが少し気になりだしていたりもするのだが。人の事が気になる自分に少し驚く一方で、ヒメやサユキからは、余り突っ込まぬよう言われていたりもした。
「わあ……随分、上まで来た。これが【ブライダリア】なんだ。……
「どうですか、マスター。ログイン時に落ちながら見るのとはまた、違った景色でしょう」
腕組み遠くを見詰めるアルの
こうして自分達が【エンシェントハング】を目指す今も、静かに最後の瞬間を待つプレイヤー達の
同時に、目には見えぬ分岐した無数の【ブライダリア】にも、それは確かに存在する。
「待っていたよ、諸君」
不意に
正午へ向けて
「あっ、あの……昨日はありがとう、ございました。今日も、そのっ、エンデウィルのこと、宜しく、おねがいしま……します」
「……さあ、来たまえ」
周囲からざわめきが起こった。
当然だ、
こうして緋瑪達は、遂に最終決戦の
視界が開け、緋瑪はブライダリアの中心にして頂点へと立った。
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