2029/07/15(日) - ゲームを終了しますか? -
第23話「決戦の朝」
――昨夜、
点と点でしかない記憶が線を結んで、徐々に
緋瑪は確かに半年前、
それは緋瑪にとっては、人として当然のことだった。そのことを思い出して、やっと
峰人はその時のことをずっと胸に秘め、自分の中で
「そしてヒメが生まれたんだ。この【ブライダリア】に。エンデウィル、わたし解ったよ」
一筋の光となって、緋瑪は決戦の朝に舞い降りた。混雑する王都の中央広場は、不思議といつにない静けさに包まれていた。誰もが
「おはようございます、マスター。わかったって、なにが……あ、やっと気付きました?」
右手の中の声は落ち着いていた。今日という日のためにただ、
「見ててずっと、ヤキモキしてました。で、マスターはどうするんですか?」
「わからない、けど……
「ただ?」
「ヒメが……
今日を起点に、明日から新しい日々が始まる。それを受け入れ、峰人は立ち向かっていくんだと緋瑪は思う。だから自分も、踏み出してみたい。失敗を恐れず、失敗すると
「どうなるかわからないけど、やってみるつもり……峰人くんにも、ちゃんと向き合う。こっそり
「マスター、随分とお強くなられましたね。この世界で二人の結末が見られないのは、私は少し寂しいですけど……でも、どんな結果であれ、それが一番だと私も思います」
「ありがと、エンデウィル。じゃあ、行こう」
「はいっ! いざ、最終決戦の地へ……最終クエスト【
一人と一本がささやかに、しかし確かに
「……で、エンデウィル。そのクエストもやっぱり、
「【結実への意思】はイベントクエストなので、ちょっと違うんですよ。それで皆さん、こうして広場で船を待ってるって訳で……あ、今サユキさんが降りてきました」
先ほどから散発的に光が舞い降り、中央広場に集う冒険者達は増えてゆく。緋瑪はその中に、
「サユキたんインしたお! おはようございます、サユキさん」
「おっ、おはようございます」
「あら、二人ともおはよ、お疲れちゃん。んー、
そう言って緋瑪に目を細める、サユキの姿も今日は普段とは違った。普段とはネガポジ反転したように、今日のサユキのドレスは黒が
「ところでセキトくん、公式アナウンスで私達のこと、何か言ってなかったかしらん?」
「えと、わたし達も今さっき来たところですけど、まだ、ないみたいです」
「そう。現地で直接、私達の事を発表するつもり……そういう演出を試みてるの、か」
サユキは一人
そんな緋瑪を見て、サユキはいつもの笑みを浮かべるだけだった。
「ん? ああゴメンね、ちょっと昨日から気になってるのよ。【ロード・ブライダリア】の昨日の言葉が、ね」
「あ、あの、わたし達のことを、
「そ。だからてっきり、公式のアナウンスがあるんじゃないかと思ってたんだけど」
周囲を見渡し、サユキはそれがまだなされていないことを察したようだ。もし、アナウンスがあったなら……落ち着かない様子の緋瑪は、一気に【エンシェントハング】を倒す切り札として認知されてしまうだろう。こんな場所でうろうろしていようものなら、あっと言う間に
「あるいは……アナウンスできないのか。本当に運営は、事態を把握したのかしらん?」
「そ、それって、つまり」
「んー、まあ考えすぎだとは思うけどね。でも、なーんか引っ掛かるのよねん」
そう言うとサユキは、いつもの知的な笑みを浮かべた。しかし今だその優雅な
サユキが案じていることとは、いったい?
思い切ってそのことを聞いてみようと緋瑪が口を開いた瞬間、天からもはや
『皆様、大変お待たせいたしました。これよりイベントクエスト【結実への意思】……第八次【エンシェントハング】攻略戦に向けての移動を開始していただきます。指定された船で、目的地に【
同じアナウンスが二度、ゆっくりと繰り返された。しかし、それ以上は何も言わず、天からの声が止むや辺りは騒然として誰もが
やはり、エンデウィルや緋瑪達に関しては一言も触れられなかった。
「ふーん、ナルホド……ま、行ってみるしかないか」
そう言ってサユキは、一瞬だけ表情を引き締めた。普段の陽気で
「あの、サユキさん」
「うん、今の公式アナウンスでも、私達のことについては何も言わなかったじゃない? それってやっぱり、運営チームは――」
その先をサユキは言わなかった。
緋瑪はただ、不安げにその
ただ、エンデウィルだけが緋瑪の
「【ロード・ブライダリア】は誰よりも、この【ブライダリア】を……【
全プレイヤーの王にして
「ま、結局は出たトコ勝負って感じかな? 運営チーム的にはもう、それしか手がないってとこまで
サユキは緋瑪の背後に同意を求めた。
舞い降りる光が赤毛の
自らサユキの次に【石花幻想譚】に詳しいと
「とりあえず【ロード・ブライダリア】が優秀なGMってのは確か、かな? たった一人で、この広く無限に
ポン、と緋瑪の肩を叩いて、ヒメが話の輪に加わった。
「いつでも二十四時間、休む事無くこの世界の秩序を守るGM……それが【ロード・ブライダリア】。普段は絶対にプレイヤーに直接干渉することがないから、だから昨日はみんな驚いたって訳さ」
「なるほど、じゃあ、やっぱり……」
「きっとセキト君、最終決戦に参加する全プレイヤーの前で【ロード・ブライダリア】に紹介されちゃうわよぉ! 『最終決戦の切り札こそが彼である』とかなんとか言ってね」
サユキの言葉を想像してしまい、緋瑪は血の気が引くのを感じた。今も多くの冒険者達が港へ向っており、【ブライダリア】へ降りてくる光は止む気配がない。
いつもの調子で
「わたし、今日は大丈夫、だと思います。エンデウィルの願い、
「そう、美しき婦人のために戦ってこそ騎士!」
不意に聞き慣れた声が響いて、
彼は
「【ロード・ブライダリア】の
「ええと……
「まあ、エンデウィルは適当に付き合ってあげてね。あれでテンション上がるらしいから」
「だって。ふふ、しっかりね、エンデウィル」
「はい、マスター! では、えー、ゴホン! お待ちしておりました、蒼雷の騎士殿」
こうしてアルの小芝居に付き合いながら、いつもの四人は揃って港へ向う。緋瑪は普段の緊張や恐怖、心細さとは全く違う興奮を
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