第22話「最後の買い物、最後の結論」
【交易都市プロイリス】――【ブライダリア】でも最大のアイテム流通ジャンクションは、最終日を明日に控えて冒険者達で
「そうか、武器はエンデウィルがいてくれるから買わなくてもいいけど……」
「はい! 防具はそろそろ買い換えたほうがいいですよ、マスター……むしろ、どうして今まで初期装備で放置してたんですか」
「いや、だって……その、着替えるんでしょ? この、【ブライダリア】でも」
「そですよ、当然じゃないですか。ほら、あっちに
緋瑪は混雑する店内を、相変わらずおっかなびっくり身を
「ちなみにマスター、午前中にガッツリ稼いだので、今までの貯金と合わせればかなりいい防具が買えますよ!」
「今、わたしっていくらくらい持ってるの?」
「フェルで200k、不要なアイテムを全部売却すればさらに50kは増やせますが、こっちは明日使う消費アイテムの
kはキロ、つまり1,000である。エンデウィルが言うには緋瑪の総資産は、現金に換算すれば25万フェル
「うーん、さっきお昼ご飯のついでに、ネットで検索してくればよかったな」
ズラリ並んだ、
防具、と言うからには防御力が高いものほど優秀ということになるのだろう。緋瑪は
「この防御力ってのが高いといいんだよね? ……どれも似たり寄ったりじゃない?」
「基本的に魔術士自体が、
エンデウィルの言葉尻を拾って、ヒメが現れた。
「ただ、能力値へのボーナスや特殊効果のついた物もあるので、その辺をよく
ヒメはすらりとした手を
「ふふ、似合いますね。性能も重要ですけど、見た目も大事ですし。どうですか?」
「ええと、少し、派手かな」
「もっと資金と時間があれば、サユキさんみたいにオーダーメイドもできるんですけどね」
「あ、あれはやっぱり、そうなんだ」
長い三つ編みを手に
「まあ、このお店はユーザーズショップなんで、商品も大半がオーナーの生活スキルで生産したものですけどね。ええと、これで派手となると……」
返されたローブを元の位置へ戻して、ヒメが再び緋瑪の為に防具を選び始めた。まかせっきりにする訳にもいかず、緋瑪も改めて商品とにらめっこ。
その時、視界の隅に緋瑪の興味を引く一着が飛び込んできた。
「どうせなら、こっ、これ……これは、どうかな」
緋瑪は背伸びして手を伸ばすが、セキトの身体は小さく届かない。すぐに背後からヒメが、一着の魔術士用防具を取ってくれた。それはどこか、
緋瑪の大好きな三国志に登場するような、軍師っぽい格好である。
「性能は……充分か、ちょっと値段が高いけど。たぶんデザイン料だろうな……結構手がこんでるし、意外と。多分、探せばこーゆーのを来た人ばかりの世界観に分岐した【ブライダリア】もありそうですよね」
「だ、駄目かな」
「や、そんなことはないですよ。セキトさんは中華風のデザイン、好きなんですか?」
「う、うん、好き……かも」
身体に当ててみる。
「決めた。これに、する」
「いいですね。あ、待ってくださいセキトさん……それ、この
再度身を伸ばして、ヒメが同じ色合いの帽子を手にした。それを両手でそっと、緋瑪の頭に乗せてくれる。小さな
――その瞬間、緋瑪の中に眠る記憶がヒメに
緋瑪は、今のヒメと全く同じことをしたような気がするのだ……
「帽子はアクセサリ扱いか。あ、凄い、魔力+5だって……セキトさん?」
緋瑪の中で何かが今、
ヒヤリと冷たい冬の空気。
床を打つ硬貨プラスチックの渇いた音。そ
れを拾ったのは自分で……そう、今目の前でヒメがしてくれたように。
だが、それを
「セキトさん? それセット品なんで、一緒に買うことになりますけど」
「予算オーバーですよ、マスター!」
「え、あ、ああ、うん……」
――今のフラッシュバックは何だろう?
ふと我に返って、緋瑪は
ヒメはエンデウィルへと、そっと唇を寄せて声をひそめる。
「エンデウィル、いくらくらい足りないのかな?」
「5,000フェルほど足りません。今着てるのはもう、下取りにしてもお金にならないので」
ふむ、と
「セキトさん、足りない分は僕が出しますから……それにしましょうよ、防具」
「えっ、え、ええと……えっ!? それは、
真っ赤な鳥が店内に飛び込んできた。ヒメの【ファミリア】、ミーネが
「でも、明日が過ぎればフェルは価値無くなっちゃうし。文字通り、電子の
「それは、そう、だけど……」
「ヒメさん、クリアボーナスは狙わないんですか?」
エンデウィルの一言に、緋瑪はこのゲームの……【
そして今、緋瑪達がエンディングに一番近いプレイヤーだった。
「ああ、クリアボーナス。そっか、すっかり忘れてた……んー、あんまり興味ないかな」
「でっ、でも、わたし達が一番、それに近いし……それに、お金までは、助けられ過ぎ」
しかし、笑ってヒメは自分のファミリアにフェル
「手助け、お助け、お手伝い……どうするか色々考えた
ピシ、とヒメは5,000フェルを緋瑪の
「【ロード・ブライダリア】は今日、セキトさんに偉そうなこと言ってたけどさ。僕はこうも思うんだ……結局はでも、自分が良かれと思うようにやってみるしかないって」
そう言ってヒメは、緋瑪の手を取り
「
思わずじっと
「げっ、現実でも、そうしたいし……そうするって決めたんだ。このゲームが終ったら……みんなとエンディングを見たら、少し寂しいけどちゃんとお別れして、次は現実に
そう言って、真っ赤な瞳に光を
「わ、わっ、わたしも……そうしたい」
「うん。じゃあまず、会計して
「待ってましたっ! マスターの全財産、ただいま実体化させますね」
主人の声を待たず、ヒメに元気良く応えてエンデウィルがデータを実体化させ始めた。同時に緋瑪は、前より少しだけ強く、このゲームの終わりを……決着を望む自分を感じていた。それを確かめるように、目の前に現れた薄い
そうこうしていると、
「あらぁん、セキトくんいいじゃない。素敵よ、早く着てみせて……あ、ヒメはこれどう? これよ、これ!」
「サユキ殿、それは……友よ、先ほど
サユキは緋瑪が手にする防具をちらりと見て、己の視界にだけ展開される詳細な性能を読み取っていく。
そんなサユキの手には、見るも
「な、なんですか、サユキさん。それ」
「いやもう、私ってばこーゆーバカっぽいの大好きっ! ねえヒメ、これ買って装備して!」
緋瑪にはそれは、水着に見えた。
むしろ、
その大胆な股間部の切れ込み具合を目にして、緋瑪は真っ赤になってしまった。
「だっ、だだだだ、
「あらそぉ? 見た目に反して、防御力や各種パラメータのボーナスがすんごいのよ、これ。……それにセキトくんも喜ぶかなー、ってお姉さん思ったんだけど」
「うむ、確かに恐るべき性能が秘められている……装備できるなら我輩が装備したいくらいだ」
それもつい想像してしまい、緋瑪は慌てて頭上で手を振り妄想を消す。
自分と同じ姿のヒメが、こんなきわどい水着を……冗談じゃない。しかし、予想に反してヒメは好奇心の目を輝かせている。彼女にとっては……彼女を動かす峰人にとっては、見た目もそうだが性能も大事で、むしろそっちのほうが気になるらしい。
「へー、じゃあ試着だけでもしてみようかな。あ、ホントだ凄い、冗談みたいな性能だ」
「ヒメッ! 駄目……やめて、お願い……その、着替えとか、やっぱり」
そして何とかヒメの好奇心を断念させて会計を済ませた緋瑪は……【石花幻想譚】がブライダリアに生み出すプレイヤーの分身が、いかに精密に出来ているかを更衣室でまざまざと見せ付けられ、それはヒメも同じなのだと知れれば
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