第19話「鮮烈、賢者サユキの妙技」

 不死の化物達アンデットモンスター一様いちように運動性が低い反面、驚く程に耐久性は高かった。緋瑪ヒメはポケットから体力回復用の飴玉あめだまを取り出すや、もどかしげに包み紙を破って口へほうる。同時に身をよじって、くさった死人しびとの攻撃から逃げ回った。


「ちょっと前衛ぜんえいのお二人さん! 敵に抜かれてるわよん? まあ、まださばける、けどっ!」


 サユキが魔法の実行準備に入った。恐らく今、彼女の脳裏のうりでは高レベルの魔法を実行するべく、緋瑪の何倍もの文字や記号が乱舞しているはず。手順通りに緋瑪は、サユキの一撃に続くべく術式じゅつしきを組み立てる。基本的に高レベルの魔法になればなるほど、実行に必要な公式は長くなる。かざしたエンデウィルの先に集束する炎に、手放した飴玉の包み紙が燃え散った。


「サユキはギルティグールEに魔法を使った! 【ライアットシード】、発動――ステッチサクセス! マスターは続いて魔法を使った! 【ブレイズレイ】、発動!」


 鈍重どんじゅうな動く死体が、当れば致命打ちめいだの一撃を振りかぶる。グズグズにくさって骨ののぞく拳より速く、サユキと緋瑪の魔法が連鎖れんさして炸裂さくれつした。

 突如とつじょ大地より発芽はつがした植物が伸びて花咲き、瞬時にみのらせたたね散弾さんだんごとくばらまく。まるであはちのように風穴だらけになった対象を、獄炎ごくえんの熱線がつらぬき焼き尽くした。


「ギルティグールEに693のダメージ! ギルティグールEを倒した! お二人ともグッジョブですっ! マスター、かなり【ステッチ】も安定してきましたね」

「セキトくん、今のが最も基本となる【ダブル・チェーン・ステッチ】よ。そして――」


 間髪入れずにサユキが、上級職である賢者セージならではの、スペックをフルに引き出す妙技を解放した。

 同時に、前衛の二人が気勢を叫ぶ。


「ぬおおおっ! 無天流奥義むてんりゅうおうぎ! 【狼牙絶衝砲ろうがぜっしょうほう】っ!」

「ごめん、一匹抜けてそっちに……って倒しちゃったか、良かっ、たっ!」


 アルが練り上げ解き放った剣圧けんあつが、真空しんくう砲弾ほうだんとなって巨大な骸骨がいこつのバケモノを襲う。その横では、ヒメが全身をバネに宙に舞うと、しなやかな回し蹴りを放った。

 アルの剣技がちた骸骨を荒々あらあらしくくだき、その横でわずかに遅れてヒメが別の頭蓋ずがいを蹴り飛ばした。二人が別々のモンスターを攻撃する、その微妙びみょうなタイミングの攻撃にサユキはしっかりと【ステッチ】してみせる。


「マスター、これは凄いです! かなりの上級テク――ステッチサクセス! サユキは続いて魔法を使った! 【ダイヤモンドスプラッシュ】、【ピラニアンガーデン】、発動!」


 二体の骸骨は片方が金剛石ダイヤモンドつぶてきにされ、もう片方が地よりあふれたいばらの中へと飲み込まれていった。両方同時に派手なエフェクトをほとばしらせて消滅する。


「おー、上手くいったいったわん? 今のが【ディレイ・サーフェイス・ステッチ】って感じ。んもー、さっすが私!」

「凄い、二体同時に」

魔術士マジシャンじゃ無理だけど、範囲攻撃魔法はんいこうげきまほうとかで代用できるから。色々チャレンジよん?」

「は、はいっ! ――凄い、みんな、強い」


 すでに緋瑪達は、亡霊ぼうれい達が支配する死都しとの、その最奥さいおうへと足を踏み入れていた。直ぐ間近に、天へとそびえる尖塔群せんとうぐんが迫る。

 休まず走る緋瑪は、右手の中でパラリポラリラン♪、とレベルアップのファンファーレを口ずさむエンデウィルの声を聞いた。しかしその祝福の声色は、空気を沸騰ふっとうさせる咆哮ほうこうえた。

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