2029/07/12(木) - ゲームを続けますか? -
第10話「日常よりも、非日常」
普段なら自分の世界に閉じこもれる、安らぎのひととき――なのだが。
半透明に浮かぶ歴史小説に集中できず、緋瑪は
「
「いつも悪いな、伊勢谷。じゃあ……チキンナゲット、ソースはマスタードで」
「こう
かく言う緋瑪も
「はいダッシュー! 走らねぇと昼休み終っちまうぞ、伊勢谷ぁ!」
「うわー、加賀野も鬼だねぇ。ま、よろしく伊勢谷くん」
クスクスと笑う女子生徒達や、
「嫌なら嫌って言えばいいのに」
小さく呟きながらも、自分にできないことを人に言うものではないと緋瑪は心に結ぶ。
もし自分が峰人の立場なら、どうなってしまうかは明白……顔が
そして、きっと
「じゃ、じゃあ行ってくるから。ええと、加賀野くんがまたチーズバーガーで……」
「あ? 手前ぇ、またってなんだコラ? 悪ぃかオイ、いいから黙って行けっつーの!」
イライラしながら加賀野が峰人の背を蹴った。前のめりによろける姿に、加賀野の取り巻きが笑いを浴びせる。
瞬間、頭の中でなにかが
凍りつく教室の空気。
たちまち周囲の視線が殺到した。加賀野がとりわけ厳しい
「は? 何? ええと……
「え、や……別、に」
この場の中心にいる自分が、突然いたたまれなくて身が
峰人と目が合った。
瞬時に、いつもの対人恐怖症とは別種の熱量が頬を染める。訳もわからず気付けば、緋瑪は教室の外へと走りだしていた。
ざわめく教室を置き去りに、
その脳裏を、
今の峰人に、緋瑪の知るヒメの
「はぁ、はぁ……逃げて、きちゃった」
息が上がるまで緋瑪は、全力で走った。渡り廊下を駆け抜け、階段を転がるように降りて――気付けば一人、学生食堂のホールで膝に手を突く。昼食時の混雑もピークを過ぎ、人影はまばらだった。
周囲を見渡し一息ついて、両耳のターミナルを掛けなおすと、緋瑪は自動販売機へと歩を進めた。
開きっぱなしだったファイルを閉じ、壮大な中国の大陸史に別れを告げる。自動販売機を視界に入れれば、自然とターミナルがクレジットリンクのサインを点滅させた。なにげなく並ぶ飲み物を
紙パックを片手に、自動販売機の横に寄りかかる。
――こんな時、エンデウィルがいたら。
ふと、唯一気のおけない存在が思い出された。それは人間ですらない、膨大なデータと会話ログの
【プレイシェアリング】がどうとかよりも、緋瑪にはエンデウィルが一番身近な人間に感じる。最も、そうして接することができるのは、恐らくエンデウィルが本当に人間ではないから。姿もそうだが、彼女は
「あと四日、か……それまでに」
それまでに、エンデウィルを連れて行ってあげたい……ゲーム内でも最強にして最後のモンスターである最終ボス、【エンシェントハング】の前に。
同時に、ヒメこと峰人の真意をどうしても緋瑪は確かめたかった。先程、自分の中で芽生えた不可思議な感情の正体も知りたい。
「でも変なの、どうしてこだわるかな? ……気持ち、悪いのかな」
一人呟く自問に答えは返らず、冷たい豆乳コーヒーを飲み干し緋瑪は予鈴の音を聞いた。
ペコン、と潰した紙パックをゴミ箱に
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