第3話「ファースト・コンタクト」
空一面の
周囲をキョロキョロと
「あと一人募集! 攻撃魔法使えて、
「来週からどのゲームで遊ぶ? フレンドまるごと移動するっしょ? 安いソーシャルネットゲームねーかなー」
「明日からリアルで忙しいから、今日で最後なんだ。みんな、今までありがとね」
「王都名物ベコまん、ベコまんはいらんかねー! 一つ100フェル、安いよー」
「引退するんでアイテム売ります、見てってください!」
「誰か一緒にBランクで稼ぎに行きませんか? 当方は
緋瑪はおろおろと立ちつくした。その小柄な身体が、
「助けて、ください。私を――」
「だ、誰?」
先程と同じ、消え入るような叫び。
すぐ近くから声がした。緋瑪が辺りを見回せば、背後で一条の光が天へと走る。
振り返ればそこには、ログインの光から歩み出た少女が立っていた。その姿は今の自分と同じローブ姿だが、心なしか女性キャラクターなせいか、
「あーあ、いまさら新キャラ育てるのも面倒なんだけどな。ま、いっか……ん?」
少女は振り向く緋瑪に気付いた。
もしや先ほどの声は……そう思う緋瑪はしかし、
「アンタも育てなおしするクチ? まー、あと
言葉に
「つーか、公式SNSで有名なプレイヤーも全員やられてんのよ。こりゃ、きっちり対策立てたパーティじゃないと勝てないね。アンタは? 前は何やってたのさ?」
「え、あ、えっと」
「? ……あー、無料ってことではじめた
「レベル上げ希望、
冒険者達の何人かが足を止めた。その何割かが歩みよってくる。一度に大勢の人間の注目を集めてしまい、緋瑪は
「えっと、二人まとめて? 初期キャラ二人抱えんのはキツイなぁ」
重々しい
口ごもり
「あ、別口で。ってか、知り合いじゃないし。オレだけお願い」
「別キャラの装備って、職業は?」
「
「わかったわかった。とりあえず話がてら、軽いクエストなら付き合ってやるよ」
交渉成立、少女は不敵に笑って
やはりゲームの中、仮想現実とはいえ相手は人間だから。勝手のわからぬ場所であることも手伝って、緋瑪はむしろ現実世界以上に他人と話す自信が持てない。
そんな彼女に、先ほどの少女が振り返った。
「アンタも急いでどっかのパーティに混じれば? 時間ないっしょ、あと六日だし」
「えと、その」
「まあ、人のキャラや遊び方にケチつける気もないけどさ。せっかっく【エンシェントハング】の
目を白黒させる緋瑪は、
「ク、クリアボーナス?」
「っちゃー、マジで初心者なんだ。めんどくさ……ま、いっか。簡単に言えば、ラスボスを倒したプレイヤーは、このゲームにつぎこんだ時間や、稼いだ経験値、その他諸々……ゲーム内の財産を、現実世界で現金かネット通貨に
辛うじて小さく頷く緋瑪。やれやれと少女は、隣の男に急かされ再び歩き出した。
「とりあえずアンタ、もう少しコミュニケーションスキル使ったほういいよ? なにがしたいんだか知らないけど」
少女の姿は
緋瑪は再び、騒がしい広場に取り残される。
しかし、彼女は安堵の溜息を零した。
危機は去った……見知らぬ人間との会話は、現実同様に酷く疲れる。
膝を抱えてぼんやり
瞬間、再び耳を
「先ほどの方みたいなプレイヤーさんもいますけど、気にしないでくださいね。
周囲に人影はない。しかし声はすぐ側で響く……確かに聞こえるのは肉声。
「それより、あの、もう少し【ブライダリア】にいてもらえませんか? 私の話を聞いて……できれば、助けて欲しいんです。マスター」
声は右手の杖から発せられていた。
にわかには信じがたい事態に、思わず緋瑪は驚き手を
簡素な
「え、えっと……ゲ、ゲームだからかな」
「
杖が
「まず、驚かせてしまったことと、巻きこんでしまったことをお
エンデウィルと杖は名乗ったが、それよりも緋瑪が驚いたのは……ゲームのエンディングとは? 今、右手から離れないこの杖が? いったい何を言っているのか、もはや緋瑪には
その
「正確には、【エンシェントハング】
「ん、つまり……あなたはプレイヤーじゃ、人間じゃないの?」
「定義にもよりますが、【ユニバーサルネットワーク】の中にしか私という存在は
「ええと、ごめん……ちょっと意味がわからな――欲求?」
「目的を達成したいという、強い
か細い声で頼りなげに、切々とエンデウィルは語る。その言葉の半分も理解出来なかったが、緋瑪は気付けば耳を傾けていた。
「私の目的は、【ブライダリア】の全プレイヤーへと
「む、無理なの? どうして?」
「本来、私は【エンシェントハング】と同一の存在なのです。しかしイベントの開始時に私だけが
緋瑪は腕組み首をかしげながら、エンデウィルの話を整理してみた。
――つまり、エンディングのデータが欠けてしまい、倒せないラスボスが暴れている。
「でも、ええと……エンデウィル?」
「はい」
「このゲームって、もうすぐ終るんでしょ? その、エンディングってそんなに大事?」
緋瑪の
「エンディングには、私には創造主の願いがこめられています。同時に、この世界を生きて、生き抜き、生き
「願い……未来……」
「運営チームはまだ、この事態に気付いていません。このまま【エンシェントハング】が倒されない場合、運営期間の延長も視野に入れてます。でも、それでは根本的な解決にはなりません。そこで……」
エンデウィルが
緋瑪はそっと彼女を地に突き立てる。杖の宝石が頭上から切実に
「助けて欲しいんです、マスターに。私を連れて、【エンシェントハング】を目指してください。この世界の、全てのプレイヤーのために……創造主の定めたエンディングのために」
「……というゲームのおはなし、ってことはないんだよね」
「私もなぜ、マスターの杖に圧縮されたのかは解りません。しかしこれは、本来の
エンデウィルの言葉に、緋瑪は思い出した。この世界に、【ブライダリア】に来た目的を。
クラスメイトの真意を、こっそりと知るためだが……同時に今、気付けば緋瑪は素直に言葉を交わしていた。不思議とどもることも、
緋瑪の前に今、困っている人がいる――エンデウィルが人と呼べるなら。
こんな時いつも、緋瑪はおせっかいな気持ちになる。
なかなか行動はできないが。
「ん、とりあえず。続き、話してみて」
「はい。すみません、突然のお話で。時間もないんですけど、
「そう。まあ、私の目的はまた、ちょっと複雑で……あと、そのマスターっての、くすぐったいな。私は緋……セキト」
「申し訳ありません、マスター。私は【エンシェントハング】から切り離された瞬間までの、プレイヤーの会話
「もっとこう、他に呼び方は――」
「ええと、
結局、しぶしぶ緋瑪は今後もエンデウィルがマスターと呼ぶことを
「まあ、いいか……あ、ちょっと待って、確か。それなら
「え、えと、そそ、それは! ……そんな事よりマスター、レベル上げ! 冒険しま――」
軽い気持ちではじめたゲームで、何やらスケールの大きな話に巻き込まれてしまったが。緋瑪はエンデウィルで肩をトントンと叩きながら、
この手のゲームに
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