第3話 独りの夜

 深夜、ユウの部屋。

 ユウが10年以上を寝起きするその部屋は、よく整頓された学習机とベッド、クローゼットが置かれ、枕元にはぬいぐるみ、カーテンなどにはピンク色が用いられた、「いかにも」な女子高生といった部屋だ。そして机の一番目立つ場所には写真立てに収められた写真――初デートの遊園地での、ユウとカイのツーショット写真が飾られている。

 今、ユウは勉強机に向かい、その写真立てをじっと見つめていた。既に入浴後、ファンシーな寝間着に着替えていた彼女。チッ、チッ、という時計の音だけが聞こえる深夜1時、みじろぎもせず、ひたすらに写真を凝視する。写真の中の2人は中学生、幸せそうにピースサインを見せている。

 突然、ユウは右手を伸ばし、筆立てにあったハサミを掴んだ。

「う……うわあああああっ!」

 ユウはいきなり悲鳴に似た声を上げると左手で写真を握り、椅子を跳ね飛ばしながら立ち上がった。そしてハサミを持った手を掲げ、まるで憎い相手に突き立てるかのように写真へと振り下ろした。

 だが――その手は写真に近づくことに遅く、弱くなっていく。やがてハサミの刃は写真に触れることもなく止まった。中空でむなしく止まった自分の手を見つめながら、ふーっ、ふーっと荒い呼吸を辛うじて抑える。瞳からは涙がこぼれていた。

「……っくそぉ……」

 ユウは顔を覆い、泣き崩れた。写真とハサミが床に落ちるのを気にする様子もなく、声を殺し、夜に独り、自分の部屋で泣き続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る