第22話

ルトは、カイが岩の下で顔を洗っていることに気がついた。

「ブラン、お願いしてもいい?

カイをここに連れてきてほしいの。」


『大丈夫?

いいんだね?』


「もちろん、私がお願いしてるんだもの。

どうしようもないこの関係を終わらせるだけ、、でも、ブランには、横にいてほしい、、、勇気がほしいの。」


『わかった。

呼んでくる。』











岩の上に白い狐がいて、その横には見たことのある本が積んであった。


「なんでこの本がここに?」


本のページをめくる。

一番最後のページには、やはり父が直筆で書いたメモがあった。

これは、ルトと初めてあったときにルトに取られたカイの父の本である。


「ルト?」



当たり前のように返事はなかった。

「だよな、、ははっ、、、、」


ルトに取られたはずの本を手にとって眺めていく。あのときは全く意味のわからなかったはずなのに、中身がどれだけ貴重なものかわかった。

自分が大きくなったことを感じる。父との日々、ルトとの日々に思いを馳せながら本のページをゆっくりめくっていく。


次の本を開いたとき、中から白い1枚の紙が落ちた。

カイは紙を拾う。そこには何も書かれていなかった。






ルトは呪文を唱える。

難しいものじゃない。ほんのかんたんな初歩的な魔法。

魔法が成功した証のようにルトが魔法をかけた紙は光をまとった。


「カイ?」



カイの持つ紙に文字が浮かび上がってきた。

【カイ?】


【これ、読めるかしら?】



カイの紙を持つ手が震えた。

「る、、と、、、?

ルト、そこにいるのか?ルト!」



ルトは、震えそうになる声を必死に抑えて、まるでカイの言葉が聞こえてないみたいに話を続けた。


【カイ、元気?

きっとずいぶん大きくなったのでしょう?

長い間、会えていないものね。】



「ルト?

そこにいるんじゃないの?」


カイは、紙を握りしめたまま、必死にあたりを見渡した。しかし、周りには、白い狐が見えるばかりで人の影は見えなかった。



【私、カイなら、ここへ来ると思っていたの。

この石、覚えてる?二人で、よくよじ登って日が沈むのを眺めたの。

懐かしい。

思い出の場所だから、カイもこの場所にまた来るんじゃないかなって。】



「覚えてるよ!当たり前だろ!!

それに、何回もここに来たよ!

毎日毎日、ルトのこと探してここに来てた。

でも、一回もルトに会えない、、、。」



【カイの無事をずっと祈ってたわ。カイと一緒に行かなかったことを何回後悔したことか、、、。だから、カイがけが無く帰ってきて、とても安心しているの。


いまは、、、理由があってカイと合うことができないの。】


「今はってどういうことだよ!

いつになったら、ルトと会える?

俺は、ルトと一緒にいたくて、、、、」


【ごめんなさい。今だけじゃないわね。

私も会いたいけど、もう会えないのよ、、、どんなに頑張っても、もう、きっと、二度と、、、】



「そんな!!何でだよ!

この本だって!直接返してくれればいいじゃないか!

それに、、、

まだ話してないことがあるって言ってただろ!」


【もう、直接会えないから、こんな形で本を返すことになっちゃってごめんなさいね。


この戦争が、こんなに長引くとは思ってなかったから、、、、タイムリミットが来ちゃったの。あと、5年早かったら、、、そんなこと言っても仕方ないわね、、】


「ほんとに、もう会えないのか、、?あと5年早かったら、何が変わったんだよ、、」


ルトはここまで来て迷っていた。自分の正体を告げるべきか。悔しそうに歯を食いしばりながら、声を出さないように泣いているカイを見て上手く次の言葉が紡げなかった。


正体を知ったら、カイは気持ち悪がるだろうか?カイには気持ち悪いと思われたくない。でも、ルトとカイが結ばれる運命は訪れない。

このまま正体を知らせず、悪い女と思われていたほうが、カイは次へ一歩を踏み出せるのではないか?

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