第13話

次の日もルトが島の上で眠っているとカイが結界の中に入り込んできた気配がする。


ルトは、カイはもう二度とこないだろうと思っていただけに驚いた。

何故来たのか聞きたい気もしたが、昨日の今日で顔を合わせにくい。島の上で、何も知らないふりをしてブランと一緒に再び眠る。


それからも毎日、カイは結界の中まで訪れ、何かを探し回って、夜になると帰っていった。荒し回る様子もなかったため、ルトはカイを放置することにした。



ある日、カイは訪れなかった。ルトは少し不審に思いつつも、単に飽きただけであろうと結論づけた。それから、約1週間ほど、カイの訪れはない。


久しぶりにしたカイの気配が気になったルトは、物陰から、カイの様子を見ることにした。


久しぶりに見たカイは、初めてあったときと比べて大きくなっていた。大きくなったカイは切り株に座り、泣いている。ルトは、他人の涙を初めてみた。


カイの涙は、美しく、淋しかった。

ルトは、最後に話したときのことを許そうと決めた。本当は、ずっと前に許していたけど、一度意地を張った手前、言い出せなくなっていた。それをカイに伝えようと思った。そして、カイの横に座って、カイの涙をぬぐってあげたいと思った。


ルトは、物陰からふらりと出ると、カイのそばに立った。


泣いていたカイは、顔を上げる。


「きみは、あのときの、、、、」


「私の名前はルトよ。

ねぇ、なんで泣いているの?」


「、、、泣いてなんかない。」


「嘘よ。

私見たもの。とても美しくて、悲しい涙、、


あのときはごめんなさい。

つい、カッとなってしまって、、、」


「いいよ。

あのときは、俺が無神経なことを言ったのが悪いから。

君が怒るようなことを言っちゃったんだろ?」


「ええ、、」


「、、、、、」


「、、、、、」


「、、、カイは大きくなったわね、、」


「そりゃあそうだよ。

あれから、5年経ったもの。僕ももう、10歳だよ?」


「あれから、そんなに経つのね」


カイは、自分のことを10歳だといったが、ルトにはもっと大人びて見えた。


「そういう、君は全然変わらないね」


「ルトよ。わたしの名前はルト。

そうね、たった5年しか経ってないから。」


「、、、、、ルト、、、

さっき、もうって言ったのに」


「そういうものよ。」


「そっか、、、。」


「そうよ。

それで、さっきはなんで泣いてたの?」


「泣いてないよ」


「じゃあ、そういうことにしといてあげる。

それで、なんで?」


「、、、、、、

父さんが死んだんだ。

結局、薬は見つからなかった、、、」


「そう、、、、

ずっと薬を探してたのね、、、」


「うん、、

でも、薬だけじゃないよ。

ルトのことも探してた。謝りたかったから、、、」


「、、そう、、、もう、いいわ、、」


「うん、、、」


カイにとってルトのとる微妙な距離が心地よかった。村にいた大人たちみたいに変な目で見るくせに、偉いねなんて言わない。

カイは、父さんを放って森に来る自分が偉いだなんて一度も思っていなかったから、そんなことを言う村の人は苦手だった。

だから、カイの周りに泣ける場所はなかった。でも、ルトの横では安心してしまった。

次から次に涙が溢れてくる。


ルトは、ラウラが死んでしまい、ブランが横にいてくれたときのことを思い出した。ブランが横にいるだけで安心して、くっついてくれるぬくもりは心を癒やしてくれた。

ルトは、カイの横に腰を下ろし、肩が触れ合うくらいまで近くによった。


ピトッ


カイの涙は引っ込んだ。さっきまで安心していたのが嘘みたいに、心臓がバクバクした。顔に血が集まってくるのがわかる。


「カイ、どうしたの?

顔が真っ赤」


「な、なんでもない!!

だ、大丈夫だから、ちょっと離れて!!」


「?なんで?

くっつくと落ち着くよ?

カイは体温高いね」


ギュッ


カイは自分が何で泣いてたのかも忘れるくらいに混乱して、頭が真っ白になった。


「な、な、、、、、」


スースー


次に聞こえてきたのは、ルトの寝息だった。

カイは、ため息を1つつく。なんだか、不思議な気分だった。

ルトは、見た目的にカイよりも年上のはずで実際に、お姉さんみたいだったのに、今はなんだか、妹とか、猫みたいだと思ってしまう。


ルトの頭を撫でる。蒼い髪は、柔らかくってさらさらで冷たそうな色なのに、なんだか温かかった。


カイも泣いていて疲れていたのだろう。ルトの寝息を聞いているうちに、カイも寝てしまった。



ブランは、まったくという気持ちもありながらも、二人を見ていて温かい気持ちになった。どこからか持ってきた毛布を二人にかけて、二人の足元に丸くなるのだった。

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