第12話
ルトがいつものように本を読んでいると、何者かが結界の中に入ってきたのがわかった。
ルトは結界を厳重にかけていたし、人間、特に悪意のあるものは絶対に入り込むことはできないはずであった。
不思議に思ったルトは、物陰に姿を隠して、様子を見に行くことにした。もし、何かおかしなものであったら、すぐに攻撃して、撃退できる準備を備えて。
ルトの視界に映ったのは、5歳くらいの人間の男の子であった。大量の本を抱えて歩く少年は、ビクビクしながら周りを警戒して歩いているようだった。
見た感じ、悪意を持っているようには見えなかったうえ、少年の持っている本には興味を覚えた。
ルトは、少年の前に姿を現すことにする。
『ルト、やめておけ。
あいつが何を考えているかなんてわからないし、急に攻撃でもしてきたらどうするんだ!』
「シッ!!
静かに!大丈夫よ。心配しないで」
ガサッ
ルトが動いた音を聞き、少年はビクッと震え、ルトを一目見ると、持っていた荷物をすべて放り出し走って逃げていった。
ルトはなぜ逃げられてしまったのかわからなかった。ルトは少年と話してみたかったし、ここへ来た理由について聞きたかった。
でも、それを気にとめる以上に、新しく見たことのない本に夢中だった。
人の本だとわかっているのに、ついつい手が伸びてしまった。
本の中はやはり興味深いものであった。パラパラ読んだだけだが、これは時間をかけて読み解きたいと思うものばかりであった。
次の日、ルトが島で寝ていると昨日と同じように何者かが入り込んだ。昨日と同一人物にまちがいがなかった。
昨日、逃げ出した人間が、再び訪れたことに疑問と興味が湧いた。
人間からされた仕打ちを考えれば、人間を恨んでもおかしくないような気もするが、ルトもそこは妖精であった。
妖精の基本的な思考は、「興味関心、面白いこと大好き」である。
今度は驚かせてしまわないように、ゆっくりと慎重に近づいた。
ここでも、ブランの忠告はルトの耳に入っていなかった。
ガサッ
少年はビクビクしながらもゆっくりと振り返り、ルトを見た。何かにおびえているような様子であることに変わりがなかった。
「おまえは、誰だよ!
なんで、こんな山の中に女がいるんだ。
危ないから、早く家に帰れよ。」
「あなたはだれ?
なんで、こんな山の中に子供がいるの?
ここは危ないわよ?お家にお帰り?」
「俺の真似をするな!!
それに、俺の本をどこにやった!返せ!!」
「名前を教えて?」
「、、、、、
俺はカイだ。
あの本は、父さんの本なんだよ、、
返してくれ、、、」
「なんでこんなところに来たの?」
「、、、、、、」
「ねぇ、教えて?」
「、、、、」
「じゃあ、いいわ。
あなたのお父さんの本は返さない。」
「なっっっ!」
「それが嫌なら、答えて」
「、、、、。
父さんは、この森について研究してるんだ。よく、この森には何でも治す薬があるって俺に聞かせてくれたんだ。
でも、父さん病気になっちゃって、、、。
おいしゃさんは、死ぬって、、、、、」
少年は泣きそうだった。唇を噛み締めて、泣くのを必死に我慢しているようだった。
「お父さんが大好きなのね」
「好きに決まってんだろ!
父さんはすんげーんだぞ!
いろんなこと知ってて、いろんなことを教えてくれんだ!
母さんはもういないから、その分も俺のこと面倒みてくれて、、、、」
少年の話を聞いていたら、ルトはラウラのことを思い出す。
ラウラも口ではブーブー言いながらもいつもルトの面倒を見てくれた。いろんなことを知っていて、聞けば知ってることは何でも教えてくれた。
「ここに来れば、父さんの言ってたなんでも治る薬があるんじゃないかって、、、、
そしたら、父さんも元気になるじゃんか?
だから、、」
「なんで、あんなにたくさんの本を持ってきてたの?」
「ここは、普通の森じゃないって、父さんが、、、
500年くらい前には、迷いの森じゃなかったって、
薬が見つかってから、
森の中に人間は入れなくなっちゃったから、薬は作れなくなっちゃったんだって、、、
だから、薬の材料が何だったかわからなくなっちゃったから、昔の本なら、何か書いてあるんじゃないかって、、、」
「調べてくればよかったじゃない」
「そっか!たしかにそうだよな、そうすれば、あんなに重い本を持ってくる必要もないし、まず、俺文字読めないじゃん、、、、、、」
カイはブツブツ話し始めた。
ルトは、カイは少し大人びていると思っていたが、少し年相応なところを見た気がした
「でも、なんでそんなにビクビクしてたの?」
「森には昔から妖精が住んでるから、森に近づいちゃだめだって
妖精は悪さするから、子供はさらわれちゃうって
大人は言うんだ!
でも、そんなこと言ってたら、父さんが死んじゃう、、、、
だから、、、」
「妖精は悪さなんてしないわよ。
妖精に悪さをしたのは人間の方。」
「え?」
「それに、今、妖精はこの森にいないわ。
人間が全て殺してしまったもの。」
「じゃあ、危険じゃないんだ」
「だから、妖精は危険じゃないって言ってるでしょ!!」
ルトは、話の通じないカイにイラッとしてそのまま森の奥の島の方へ行ってしまった。
「おい!待てって!」
少年は、声をかけてもルトが振り返ることはなかった。
日はもう落ちてきて、あたりは暗くなってきていたので、少年は諦めて帰っていった。
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