第11話

ルトは、きれいに蘇った湖に浮いた島の上にいる。


結界を張ったルトは一度洞窟に帰り、必要なものや、本を持って湖に戻ってきた。



ルトにとって、洞窟はラウラとともに過ごした大切な場所であったが、自分の生まれたこの湖や、仲間たちの生まれてくる周りの森はルトにとってもう二度と壊されたくない所になっていた。


まるで、ルトのその気持ちを表すかのように、ルトの張った結界が人間を通すことはない。

人間は、その後の森の様子を見に、何度か湖を訪れようとしたが、様々な障害に阻まれ、一度としてたどり着くことはなかった。

結界を通れないのは人間だけで、虫や動物といったものたちは通過できた。

それだけでなく、自然が豊かで、人間に追われることのないこの空間は動物たちの集まる楽園となる。



ルトは、一度失われてしまった同胞が、再び生まれてくるのを島の上で、本を読みながらゆっくりと待つことにした。


「ブラン、私はここで少しとどまろうと思う。だから、ブランは好きなところに行って、好きなことをしなさい?

ここにいたいのは私のわがままだから、ブランも好きに生きて?


ほら、あなたの家族を探すのだっていいと思うわ」


『はぁ、ルトのわがままなんて今更だろ?


それに、普段そんなに話さないルトが饒舌なのは、嘘をついたり、ホントのことを隠しているときだってもう知ってるんだから、、、


一人じゃ寂しいって言えばいいじゃないか。僕が離れたら泣きそうに顔をくちゃくちゃにするだろ、、、、



好きにしていいんだったら、ルトのそばにいる。

それが今の僕のしたいことだ。』


「ブラン、、、

別に寂しくなんてないけど、、、、

でも、、、、

、、、ありがとう、、、、、」


ブランは、湖を離れたくないルトの代わりに洞窟の本を持ってきたり、儀式を行ったり、食料をとってきたりしている。


ブランもルトも生きるために食べる必要はないが、ラウラと暮らす中で、毎日食事を取ることは日課になっていた。

その日課を二人は大切にしていた。

だからといって無闇矢鱈と食べるわけではなく、人間が一日に1回おやつを食べるような感覚である。



そんなこんなで、ルトが島にとどまってから、季節はめぐり、1年が過ぎ、10年が過ぎ、更に月日は流れ、気がつく頃には、ルトは16歳ほどの少女へなっていた。


ラウラだけではなく、ブランも体がふた回り大きくなった。今では、5本もの尻尾の生えた立派な妖孤になっていた。体の大きさはゆうにルトを超えていたため、夜は、ルトの布団となり、移動のときはルトを乗せ、普段は小さくなってルトから離れなかった。


自分がルトから離れた隙に怪我でもしたら、今度こそルトが壊れてしまう気がしていたブランは必要最低限の外出しかしなかった。たとえ、ブランを傷つけることのできるような魔物がそうそう存在しなくなっているとしても。



それだけの月日が巡ったにもかかわらず、妖精が再び生まれてくることはなかった。

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