第10話
久しぶりに帰った故郷は地獄のようだった。
ルトには何がどうなっているのかがわからなかった。
ルトの生まれた湖はほとんど枯れ果て、水溜りほどの泥水が残っているのみ。
周りに茂っていた木は倒れ、枯れ、朽ちている。
その周りにはルトの同胞である妖精たちが羽をもがれ、ミイラのように干からびて地面に落ちている。
いつでも実っていた丸々とした果実は、地面に落ち、踏みつぶされていた。
「、、、、、、なんで、、、、何があったの?、、、、誰がこんなに酷いことを、、、、」
『、、、ルト、、、、、』
ふらふらと歩き出したルトはまるでミイラのようになった仲間をひとりひとり丁寧に集め、一つのところに寝かせていった。
仲間を集める中でルトは一枚の紙を手に入れた。そこには、妖精の羽を集めてこいといった命令が書かれており、羽を集めて薬にするために必要だとあった。
何でも、国王が不治の病にかかったのだとか。これを機に迷惑な隣人を片付けようといった意図も書かれていた。
ルトは愕然とした。まさかそんな理由で仲間が殺されていったなんて信じられなかったし、妖精の羽の薬効なんて聞いたこともない。
一人の人間を助けるために、妖精の命が全て刈り取られたなんて許せなかった。人間の大人には見ることのできない妖精は、きっと、人間の子供によって殺されたことだろう。そんなことをした人間の大人も子供も許せない。
ルトは一箇所に集めた妖精たちに言葉をかける。
「《治って、、、》《、、、治ってよ、、》
ねぇ、あんなに騒がしいくらいに元気だったじゃない。いつものように楽しいお話しを聞かせて?《起きて?》目をさましてったら!」
『、、、ルト、、、、ルト、この子達はもう、、、、、』
寝かせられた妖精は、ルトがあったことのない子達ばかりだった。ルトがラウラのもとで過ごしているうちに、世代交代したのだろう。でも、一人だけ知っている妖精がいた。もう、同一の妖精であることがわからないくらいに様変わりした姿であったが、紛れもなく、同じ時を過ごした子だった。
この現状を受け入れがたかった。
ルトは、地面に座り込む。
「ブラン、知ってる?妖精の最後って、素晴らしく美しいのよ?
寿命が来た妖精は、夜に自分が生まれたところに帰って、光となって消えるの。
そして、朝にはそこにひと粒の朝露が残るのよ。
そのひと粒は、仲間の妖精によって、湖に返されるの。私達の命は、世界から生まれて、世界に帰っていく。そう決まっている。
だからね?仲間の死を悲しいなんて思ったことはなかった。
でも、こんなことになるなんて、、、、」
『ルト、、、、』
「この子達は、もう世界に帰れなくなってしまった。こんなに辛い死に方をするはずじゃなかったのに、、、」
『ルト。
それじゃあ、この子達を世界に返してあげよう?
せめて、彼女たちが静かに楽しく眠れるところを作ってあげるのはどうだろう?』
ルトは、少しでも早くみんなを世界に返してあげたかった。
フラフラと立ち上がり、周りで朽ちている木に回復の言葉をかけてまわった。
ルトが、《治って》と告げるだけで、生きているものはもとの姿に戻っていった。
倒れていた木や枯れかけていた木は青々とした葉をつけ、
枯れてしまった草花は色とりどりの美しい花を咲かせ、
落ちて潰れた果実からは新しい命が芽生え、
木には、再び丸々とした果実が実った。
ルトは泥水のようになってしまった自分の湖に近づいていく。
『ルト、少し休憩しよう?
流石に力を使いすぎだ!
このままじゃ、ルトが倒れるよ。
そしたら、元も子もないじゃないか。』
「ブラン、でも、ここだけはしっかり治さなくっちゃ。
ここは、みんなが生まれて帰る場所で、
それに、私の湖だから、、、」
『、、ルト、、、、、、』
ルトは、さらに湖に近づく。
ルトは自分の着ているものが汚れることも厭わずに泥水の中に入っていった。
ルトが腰を下ろし、水に触れるのと同時に湖の中心からきれいな水があふれ出し、短い時間でまるで今までのように美しい湖が復活した。
流石に、あのときのように泳ぎ回る魚はいないが、川と繋がった湖に魚が戻ってくるのも時間の問題だろう。
ルトは、湖の真ん中に小さな島を作って、そこに同胞たちを埋めた。島には、色とりどりの花が咲き乱れ、いかにも、妖精が好きそうな景色になった。
湖の周りはルトがいた頃と同じような美しい景色が戻った。
しかし、そこで何年待っても妖精が生まれてくることはなかった。
ルトは自分の力不足を感じる。自分が本当にどうしても治したいものは治すことができなかった。ラウラも、妖精も、、、。治そうとしたときにはすでに手遅れで、壊れてしまった。
ルトは同じことを繰り返さないように、この湖の周りに厳重に結界をかけた。結界は古代魔法だから、使えるのも解除できるのも今ではルト一人だ。よって、ルトの許可なき、悪意を持った人物の立ち入りは今後一切不可能となった。
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