第6話
ルトは、いつものようにうだるような暑さの中、本を読んでいた。ブランを拾った時期よりは幾分かマシであったが、それでもまだ、空気が張り付くような感覚と溶けてしまいそうな暑さは健在であった。
ブランが足に擦り寄ってきた。ルトがブランの方に視線を落とすと、膝にのせてほしそうに見上げている。
ルトは、毛の長いブランを膝に乗せたら、ブランケットをかけるようで更に暑くなる気がしたが、甘えるブランを無下にはできなかった。そっと抱き上げ、自分の膝の上に乗せると本の続きを読みはじめた。膝にのせてもらったブランは満足気に膝の上でお昼寝を始めるのだった。
しばらく経って、一冊の本を読み終わったルトはふと、いつものようなまとわりつくような暑さがないことに気がついた。心地よく、むしろ、
「、、、なんか涼しい?」
『そりゃあ、そうでしょうよ!
仮にもその狐、氷狐なのよ?
氷の魔法の扱いに長けてるんだから、身の回りくらい涼しくできるんじゃないの?
私にも涼しいの分けてほしいわ、、
暑くてフラフラよ、、、
、、、、!』
同じく本を読み終えたラウラが、ふらふら飛ぶというよりは舞いながらルトの方へ近づいてきた。
それに気づいたブランは、はっと目を覚まし、ラウラを見ると、駆けていった。
その瞬間、ルトを包んだのは、いつも悩まされていた暑く、ムワッとした空気だった。
『ちょっと!なんでこっち来るのよ、ブラン!!あんたは大人しく、ルトの膝の上にいなさいよ!ちょっと、ルトも止めてよ!こっちはフラフラなんだけどぉ?』
「ブラン、程々にね」
ブランに、ラウラは食べてはいけないと教え込んでいたルトは、ブランを放置した。この暑い中、ラウラを追いかけ回すブランを追いかける気にはならなかった。
ぼーっと、ブランとラウラの鬼ごっこを見ていた。ブランが『キュイ』と鳴くと、小さな氷の粒がラウラを襲う。
『ちょっと!
痛いってば、やめてよ!
というか冷たいって!ほんとに痛い!
やめなさいってば!』
ラウラが怪我をしてしまうと思ったルトが、ブランを止めようとすると、ブランはまた『キュイ』と鳴いた。
嫌な予感がする。慌てたルトの予想は当たったが、間に合わなかった。ブランの声と同時に発生した小さな炎の龍が、ラウラに向かっていったのである。
『ギャーーー!』
ラウラは悲鳴を上げたがルトは呆然と立ち尽くしていた。龍はラウラを囲むと姿を消し、驚き腰を抜かしたラウラは地面にへたり込んだ。落ちたラウラをブランは嬉々として捕まえ、ルトの元へ連れてくるのだった。
「何が起きたの?
ブランって氷狐なんじゃ、、、」
ラウラをルトの前においたブランは、褒めろとでも言うかのように座るとしっぽを振るのだった。
腰の抜けたラウラは、ルトに拾い上げられると、ブランから隠れるようにルトの頭に抱きついた。
『あたしだって知らないわよ!
これだから魔物は、、、
ひぃ!こっち来ないで!よらないで!、、、あんたには遊びかもしれないけど、こっちは命がけよ!!、、
、、そんな目で見たってダメなんだからね!
なんで、あんたがそんな顔するの、、、、』
さっきまでほめてもらえると思っていたブランは、二人の様子から何か悪いことをしたのだと悟った。
怒られたことが悲しかったブランは、しっぽを垂らし、耳を伏せ、すっかり意気消沈しているようであった。
『はぁ、仕方ないわねぇ、、
今度やったら承知しないわよ?
どんなにルトが可愛がっていようと、
ここから追い出してやるんだから!』
なんだかんだで、ラウラは優しいのだ。
『でも、たしかに不思議ねぇ、、、
ルトが名前を上げたから、進化したのかもしれないわね!』
進化という言葉に心当たりのあったルトは、ラウラから目をそらした。
『なによ、その反応、、、
まさかだけど、ほんとに進化したの?
いやに、色艶がいいから、ルトが洗ってやったんだと思ってたわ!そういう大事なことはすぐに言わなきゃダメじゃない!』
ルトは、痛いところをつかれ、何も言えなかった。
『進化したんだったら、
氷狐であっても、もう氷狐じゃないわね、、
あんまりその辺の本は読んだことなかったけど、調べてみましょうか!
ブラン!いつまでもウジウジしないの!あんたのことを調べるんだから、手伝いなさい!』
しょげていたブランは、なんだか嬉しくなって、しっぽを振りながら、ラウラとルトの後ろについて駆けていった。
調べた結果、わかったことは多くはなかった。途中で飽きてしまった、ブランは、ルトの首に襟巻きのように巻き付き、その場所が気に入ったのか、眠ってしまった。
ルトとラウラが調べてわかったことは、
・魔物は魔法が使えること
・進化すると使える魔法の属性が増えること
・大抵の場合増えた属性は同系統であること
・もしかしたら望んだ系統を得ているかもしれないということ
である。
ここから二人がした推論で、
ブランは、氷狐で、氷属性の魔法を使っていたが、進化し、火属性の魔法を望んだことで火の魔法が使えるようになった。
ということになった。
ブランがどうして、火属性の魔法を望んだのかはわからなかったが、どれほど調べてもこれ以上の情報は得られなかった。
調べものをしている中で、ルトが、興味を惹かれたものがあった。古代魔法の本である。今使われている魔法は、一部の種族の中で魔力を持つもののみが使えるもので、妖精は、その種族には含まれていない。
しかし、その本を読む限り、古代の【魔法は体外の魔素を体内に取り込み、魔力に変換して使うため、種族や、魔力の有無に関わらない。】との事だった。
この本が書かれた時代は、古代魔法が使われていた太古のようであるから、事実なのだろう。
だとすると、ルトにも魔法が使えるということになる。
魔法を使える。となると、ルトは今まで以上に正体が不明の生き物になるが、それでも、ルトは魔法というものに憧れていた。
特に、近くに魔法の使えるブランが来てからはそれが一層強くなっていた。
不可能だと諦めていただけに、このチャンスは、ルトにとって大きなものだった。
「ラウラ、この本を貸してほしいの。読み終わったらちゃんと返すから。」
表情の乏しいルトの瞳はどっからどう見てもキラキラと輝いていたし、興奮しているのが伝わってきた。
『いいわよ!むしろ貸すなんて言ってないで、あげるわ?あたし、そんなに魔法に興味ないし、一度読んだもの!好きになさい!』
ルトは、ラウラの言葉を聞くと、いつもの椅子まで駆けていき、暑くて集中できなかったことを忘れたように本を広げて読みだした。
『はぁ、あの子も私とおんなじね!集中すると周りが見えなくなっちゃう!ブラン、あの子が倒れたら大変だから、さっきみたいにあの子についててあげなさい!ほら、さっさと行く!』
ラウラは、ルトが読みたいであろう、続きと、古代魔法に関する本をピックアップし、机の上に積んでおくのだった。
もちろん、本を読むだけでは、魔法は身につかない。
このあと、ルトは大変な苦労をすることになるのだが、ブランのしっぽがさらに増える頃にはルトは、一流の古代魔法の専門家であり、使い手に成長することになる。
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