第3話
『出かけるわよ!準備しなさい!』
「は?」
ルトがラウラと暮らし始めてから、数ヶ月経ったよく晴れた日の朝、ルトは、ラウラの言葉で目を覚ました。
ルトは頑張っても読み切れないようなを量の本を少しでも読みすすめたいと思っており、出かけたいとは思わなかった。
「一人で出かけたらいいのに。わざわざ、私が行く必要ある?」
『必要があるから、言ってるのよ!ルトがいたほうが、便利、、、、じゃなかった、、、助かるから、連れて行くの!ほらほら早く!顔を洗っていらっしゃい!』
なんのなく腑に落ちなかったが、なんだかんだで、いつもお世話になっている(世話しているとも言えるが)ラウラに言われたのだから、わがままを少しくらい聞くのもありだろう、と思った。
面倒だと思いつつも、ルトの好奇心が少しくすぐられていたのも確かであったが、、、
ラウラは、ルトを連れて人里の近くまで出てきた。その村の端の方には大きな祭壇があった。ルトはラウラに連れられるまま、祭壇の脇まで歩いて行き、近くの茂みの影に隠れた。
祭壇には、大きな机と何故か、本棚があった。不思議に思いつつも、言われるがままに茂みから覗き込んでいた。
しばらくすると、村の人たちであろうか?大勢の人間が集まってきた。集まってきた人々は、本を大きな机や、本棚の中に入れていった。
本をしまい終わった人々は、地に膝をつき、代表と思われる女性が出てきた。女性は、白と赤のコントラストが美しい着物を着ていた。髪を一つに結い上げた彼女は、朗々と詠い上げる。
『知の神様よ、
またこの季節がやって参りました。
我らは新たな知を授かり、
この地を発展させました。
貴方様は素晴らしい。
我らには、
たどり着けぬ叡智を
貴方様は見ていらっしゃる。
我らが得た貴方様の知識を
今日はお返しさせていただきます。
貴方様の目に映る叡智の一部を
また、我々に授けてくださいますよう。
、、、、、』
ピーーーーーーーーーーー
ラウラが、代表の言葉を遮るように一声あげた。すると、地に膝をついていた人々は、立ち上がり、祭壇に向かって一礼すると背を向けて、村の方へ帰っていった。
人々は少し興奮しているようだった。
ルトは訳がわからなかった。今、この場では何が起きていたのだろうか?
人々の後ろ姿が見えなくなると、ラウラは祭壇の方へ飛んでいった。ルトは、ラウラの方まで走って行くと、
「なにやってるのよ。これは人々が知の神に捧げたものでしょう?人々に見られたら、悪戯してると思われて、何されるか、、、。早く隠れなきゃ!ラウラ!」
ルトは、人生で初めて出すような大きな声で、ラウラを叱りつけた。しかし、ラウラは飄々としており、
『ルト落ち着きなさいよ!そんなに大きな声出したら、人間が戻ってきちゃうでしょう?ほら、ここ見なさい?知の神って、あたしのことらしいわよ?
【森の中では珍しい、青と緑の羽を持った鳥の姿で、尾は自身の体ほど長く先は白である。人の手の上に乗れそうなほど小さな体で、三ヵ月に一度シーナ村の祭壇を訪れる。よく晴れた日である。その日、シーナ村には学者が世界中から集まり、自身の研究成果の書いてある本を祭壇に捧げ、巫女と呼ばれる女性が、詔を唱えると知の神は一声鳴き、我らに知の恵みを約束する。次の日祭壇へいくと、祭壇へ捧げられた本はなくなっており、次の季節も、知の豊作となる。】
ってね!はじめは、あたしも半信半疑だったんだけど、他の書いてある本を読んでも、あたしなんじゃないかって記述ばかりだし、この周りを探し回ったけど、他に動物の影も見えないものだから、でも、雨が降ってきて本がダメになるのはもったいないじゃない!だから、ここで毎回本をもらってるのよ!!』
なるほど、ラウラの示す記述を見れば、まさに、ラウラの容姿が描かれていた。現人神ならぬ現鳥神である。この小さな鳥は、知的好奇心が活発なゆえに、神として崇められるようになったのであろう。
「それで、私を連れてきたのは?」
ルトは大体予想がついていたが、嘘であってほしいという意味も込めて聞いてみた。
『この本をあの洞窟まで運ぶのを手伝ってほしいのよ!今までは、私一人で運んでたんだけど、やっぱり難しいの!この小さな体だと、本を一冊運ぶのも精一杯!一旦、祭壇の下に避難させて、後でとりに来るって書いた紙を置いて、次の日の朝まで、ずっと往復よ、、、それでも、運びきらないから、次の日も、人の目をかいくぐってって大変なんだから!でも、ルトがいれば、今日中に運びきれるかもしれないわね!よろしく!』
予想通りであった。ルトは、目眩がした。軽く100冊を超えるような本を洞窟までひたすら運ばねばならないとは、なんて気の遠くなる作業なのか。
ラウラの洞窟まで、抜け道を通って2時間。ルトが飛べば、1時間ほどでたどり着くことができる。ラウラは飛ぶのがうまいので、もう少し早いだろうが、一回で運べる量は、ルトの半分にも満たない。
ルトは家に帰って布団に入りたくなったがそういうわけにも行かない。やるしかないのだ。
2人は、ただ黙々と本を運び続けた。
本を運びきった時には、日がすでに沈んでいた。よくも、まあ、運びきれたものである。
ルトはその場に寝転がった。ラウラはルトのお腹の上に降りてきて、野生動物かと疑いたくなるような格好で、寝転がった。二人ともクタクタだった。
ルトはそのまま眠りについてしまった。
『あらあら、寝ちゃったのね、、、
まぁ、お疲れだろうし仕方ない、、
手伝わせちゃって悪かったわ、、、、、
おやすみなさい、、、ルト、、、、』
ラウラは一度飛び上がり、掛ふとんを持ってくるとルトの上にかけ、自分はその中に潜り込んで眠りに落ちた。
次の日、ルトは、運んだ本の整理に駆りだされるのであった。
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