これはすべて夢オチなんだから大丈夫!

ちびまるフォイ

この小説の評価もぜんぶ夢オチ!!

「これは夢オチスイッチ。どんな嫌なことも夢の出来事にしてしまいます」


「買った!!」


とある商人から買った夢オチスイッチ。

さっそくボタンを押してみる。




……という夢だった。


「はぁ……夢か……」


ベッドの上で目を覚ますと、手にはスイッチが握られていた。

夢だけど、夢じゃなかった。




……という夢だった。


「まったく夢の夢を見るなんて……」


ベッドから出ると、手にはスイッチが握られていた。

2回スイッチを押して2回とも夢オチにすることができた。


「ふふ、なるほどなるほど。いい使い方を思いついたぞ」


その日は、理性のタガを外して暴れまわった。


犯罪に犯罪を重ねがけしまくった極悪人として町で暴れまわる。

最後に警察に強引に捕まった瞬間にスイッチを押す。




……という夢だった。


「はははは。いやぁ、すごい夢だったなぁ」


体にはまだありありと犯罪の感触が残っている。

これまでのはすべて夢だったのでもちろん俺の経歴には傷ひとつない。


何度か犯罪ライフを楽しんでは夢オチにして繰り返す。


「……意外に、悪いことってすぐ飽きるんだな」


わりと早い段階で飽きが来てしまった。

そこでこれまで通り普通の日常を過ごすことにした。


ふらっと気分転換に仕事へ行くと、上司の怒号が待っていた。


「佐藤くん!! 君ね、仕事ひとつまともにできないのかい!!

 この書類まちがいだらけじゃないか!! どう思ってるんだね!!」


「うっせハーゲ」


言った瞬間、俺はスイッチを押した。




……という夢だった。


「夢オチスイッチ、最高だな。年も取らないし今日をずっと遊び続けられる」


よくあるループもの小説の主人公になったような気分。

たいがいは"自分の意思では戻れない"があるがこっちはスイッチひとつで今朝にタイムリープ。


大量に金を使っても夢オチで元通り。

これほど都合のいいことはない。


「よーーし! どんどん夢オチにしまくるぞ!!」


思いつく限りの遊びをしまくった結果、ついにはネタギレになった。

観念したように普通の日常へ戻ることを決めた。


「……ま、そのうち夢オチにすればいいかな」


スイッチは持ちつつ、また仕事に向かうと体は眠くて死にそうだった。

これじゃとても仕事なんてできやしない。


「な……なんだこれ……眠くてたまらないのに……全然寝れない……」


会社の仮眠室に行ってみても、まるで眠れない。

ぼやけた頭じゃミスは連発するし、かといって寝てしゃっきりすることもできない。


これじゃまるで不眠症。


「……不眠症!? まさか!!」


ここに来て夢オチリセットの代償に気付いたがとっくに手遅れだった。


夢オチを繰り返すほど、俺はすでに寝ていることになるから眠くならない。

でも体は眠るサイクルになっているから、休もうとする。


眠いのに絶対に眠れないという拷問に等しい状態が完成した。


「これも夢オチにすればどうにかなるけど……。

 次はもっと苦しくなっていくんだろうな……。スイッチ押さないようにしないと」


とにかく夢オチにしないようにして、失われた睡眠を取り戻す必要がある。

そうでもしないと普通の日常に戻れなくなる。


「よしがんばろう!! スイッチは禁止だ!!」


堅く心に決めて、仕事に向かう。

待っていたのはやっぱり上司の怒号だった。



「またミスしたのか!! たるんどるぞ!!

 こんな初歩的なミスをするな――」






……という夢だった。


「ああああ……!! つい、いつもの癖でスイッチを!」


上司に怒られるストレスに耐えられなくなって押してしまった。


何もかもリセットされたが、体にまとわりつく睡魔と

絶対に眠れなくなっている体だけはキープされている。


これじゃ拷問の時間を伸ばしただけだ。


「うう眠い……辛い……でも眠れない……」


体は重いし、頭は回らない。

なのに目はさえてどうしようもない。


睡眠薬をいくら飲んだところでそれは同じだった。


追い詰められた俺が頼る人はもう最初の商人しかなかった。


「た、助けてください……夢オチのやりすぎで……眠れなくなったんです……」


「ふふふ。そんな夢オチだと思っていました」


「これは現実なんですよ!! なんとかしてください!!」


「それじゃこれはいかがですか?」


商人はまた別の夢オチスイッチを出した。


「山田さん。これは新・夢オチスイッチです。

 これを押せば、あなたの睡眠を削ることはもうありません。

 いままでのがすべて夢オチになります」


「それはすごい!! ぜひください!!」


俺は商人から新・夢オチスイッチを買い取って、迷わずスイッチを押した。











……という夢を見た。



「……はぁ。さっきの夢なんだったのかしら。

 山田なんて別人になる夢を見るなんて、疲れてるのかな……」



新・夢オチスイッチは、俺の睡眠を削ることはない。


だって、俺の存在自体も誰かの夢オチにされてしまうのだから……。

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