弟子の恋

@kyou_official

第1話


玄関を開ける音と共に、


「御主人様のお帰りだぞー。」


大きな声を出して、我が弟子の高槻渉が帰宅すると俺を抱きあげ、食事のコーナーへ…


『早くしろよー。俺、腹減って減って…』


と催促しても、弟子の耳には『ウニャー』としか聞こえない。


「お前、明日大人しくしててくれよ?俺の好きな人が飼い猫を連れてここに遊びに来るからな!」


いつもとは、違う笑い声が、逆に怖い…


『お前、弟子の分際で俺より先に女が出来たのか?生意気な!俺にもいるがな。』


「真っ白な猫なんだって。お前は、黒だから2匹揃ったら、オセロみたいだな。」


『オセロ?んだ、そりゃ!』


機嫌がいいのか、今夜はいつものカリカリではなく少し高い缶の飯に鰹節をかけてくれ、俺はいつもより早くに食べ終え、毛繕い。


弟子の渉は、妙な歌を歌いながら、部屋を片付け始めた…



次の日…


「こんにちは。お、お邪魔します。」


髪の長い綺麗な女が、部屋に入ってきて小さなケースを床に置いた。


『ん?この匂い…』


「大丈夫かな?出しても…。」


『シャル?』


『あっ!ローク?』


俺の声に気付いたシャルが、騒ぎだした。


女が、ケースを開け俺は小走りでシャルに近寄った。


『ローク!』

『シャル!会いたかった…』


弟子と女が驚いた顔で俺達を見て、笑った。


「珈琲でもいい?」

「はい…。」


慌てて弟子が、台所に立ち、何かゴソゴソした途端…


ガチャンッ…ブハッ…


一気に台所が、臭い珈琲とやらの匂いで充満し、俺とシャルは、部屋の隅に逃げた。


「ご、ごめん…。」


弟子は、謝り女と一緒にまたゴソゴソし始めた。


『舞衣ちゃんね、いーっつもロークのおじさんのこと話してるんだよ。ニコニコして…』

『あいつは、時々小さな四角いのをみながら、不気味な笑い方してたな。昨日は、ほんと怖かった。』


俺とシャルは、台所でなんか楽しそうに笑いながら喋ってる弟子と舞衣ちゃんをみながら、毛繕い…


「飲みましょ。お口に合うかわからないけど、クッキー作ってきたし。」

「はい。一生大事にします。」


真っ赤な顔で、わけのわからん事を弟子が言い、俺達も側でおやつを食べさせてもらった。


『もしかしたら、もしかするかも…』


シャルは、少し笑って舞衣ちゃんの膝に乗って丸くなった。俺は、弟子の隣で…



「良かったわ。シャルが、大人しくしててくれて…。」

「そうだね。うちのロークも…」


(今だ。今しかない!!言うんだ!!)


「あ、あの、神田さん。」

「はい…」


『触んなって。寝たいんだけど!!』


弟子の手が、妙に背中に当たる…


「き、今日は、いい天気ですね!!」

「えっ?」


『馬鹿ねー。雨が降ってるじゃないの…。』


雨が窓にパタパタとあたる。


「そう?雨…」

「えっと…あのっ!!……」


『なに弱気になってんだよっ!!昨日あんなに練習してただろっ!!俺を相手に!!シャル?』

『んー?なーにー?』


怒られそうだったけど、二人で折り畳みテーブルの上に乗って…


「あ…」

「だめだって…ロー…」


俺は、シャルの顔を、シャルは、俺の顔を互いに舐めあった…。それこそ、しつこいくらいに…。


バンッ…


『うるさいなー。いいとこなのに!』


弟子がいきなりテーブルを叩いて、身を乗りだし…


「好きです。付き合ってください!!」


とテーブルに頭をゴンゴン打ち付けた。


『ね、あれ絶体痛いよね?』

『たぶん…』


「だ、大丈夫ですか?頭…」

「い、いえ。大丈夫です。はい…」


『嘘つけ。クラクラしてるだろ!』


「で、あの…」

「はいっ!!宜しくお願いします。」


舞衣ちゃんは、頭を普通に下げて…


『???』

『あれれ?』


ふたり顔を近づけて、なんかしてた。何度も何度も…


夕方近くになって、シャルは舞衣ちゃんに連れられて家に帰り、俺は弟子に抱き付かれながらゴロゴロに付き合った。



それからは、毎週のように俺はシャルに会えたし、一緒にお留守番もし…


何度も何度も交尾をした結果…


「えっ?赤ちゃん?出来てたの?」


なんと舞衣ちゃんのお腹に弟子の子供がいるのがわかった。


「うん。見る?」


なんか紙を弟子に見せたら、泣き始めた。


『男が、んなことで泣くなよ…。』


「シャルもなんだよねー。」


『はぁーっ?!嘘つき!!』

『へへっ。驚かそうと思ってね…』


シャルのお腹に、俺の子がーーー!


ドタバタ…ドタバタ…ドタバタ…


嬉しくて周りを走り回って、怒られた。



それから、数ヵ月後にシャルは、4匹の子供を産んだが、2匹は少ししてから舞衣ちゃんの友達に引き取られ、2匹は手元に残った。


『オセロとゲーム。ふたりもまた黒と白。』

『可愛いでしょ?』


それから、更に数ヵ月後に…


「どうだ?可愛いだろ?緩菜って言うんだぞ。」

「シャル、ロークもオセロにゲームも、緩菜と遊んであげてね!!」


と舞衣ちゃんは、そう言ったが…



今は、俺達が遊ばれている…


ま、家も広くなったし、逃げ場だけは、充分に…あるからな。


『きたぞ!逃げろー!』


みんな一斉に思い思いの場所に避難しては、転がってくる天敵・緩菜と戦って?いるのである。

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