第5話 疑いの男
意味が分からない。なぜ俺が曖とか言う突然魂湯に入ってきたあのよく分からない生身の女の悩みを解決しなければならないのか。曖を二階に誘導し、汐実は、清に提案を持ちかけた理由を尋ねた。
清によるとこうだ。突然入ってきたこの子の素性を探れば、立ち退き業者やその差し金かどうかも分かる。それに汐実は最近外に出ていないし、たまには外に出た方がいい。それに悩み相談は毎日幽霊の話を聞いている汐実には向いているとのことだ。確かに素性を調べることで立ち退き業者の一員であるかどうかは調べることはできる。でも好きで家にいるわけだし、わざわざ外に出る必要は無い。霊と話をしているのは、霊の話が面白いからであって、何も悩みを相談されているという認識も持っていない。しかし、聞かないとおばあちゃんが納得しないだろう。そう思うと、魂湯の掃除をしている汐実は、以前自営業の飲食店を営んでいた今は霊となってしまった店主の、“店は客を選べない”という一言を思い出した。
「色々とあったみたいね」
霊のミキコは、怪訝そうな顔で考え事をしている汐実に普段通りの優しい口調で声をかける。
「俺の人生史上で一番面倒なことが起き始めたよ」
「そう、幽霊と話せてしまうことのほうがよっぽど面倒だと思うけど」
「幽霊の思い出話はもう死んでるからどうすることもできないけど、人間の場合は行動したり物事を考えなおせば解決すると思う。どうにかできてしまうから面倒なんだ」
「なら分かってるのね。何とかなるって」ミキコは微笑みながら汐実に言う。
「そうだ、その子の悩みを解決し終わったら、良いこと教えてあげる。何かあれば私達も手伝うわ」そう言ってミキコは魂湯から姿を消した。
これはやるしかなさそうだ。しばらく魂湯の掃除は丁寧にできそうにない。汐実はいつもより入念に掃除を行った。魂湯の入り口に札を張り直し、湯気と静寂を包む魂湯は時刻は午前三時を迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます