第3話 生身の珍客
「あんた、どうやって入って・・・」
生身の派手な女に話しかけようとした途端、目の周りを黒くして泣き始めた。
「人の裸を見て泣くなんて困るなあ・・・ちょっと出てくれないかな」女は聞く耳を持たない。
どうしたものか。湯で濡れた服を着た人間を担ぐには自分にはできないと察した汐実は、この目の前であられもなく泣きじゃくっている女を横目に、冷静になるまで待つまで湯に浸かることにした。
霊達は各々で予想を立てていた。いつもより魂湯は騒がしい。湯船の底に見える自分の足を見ながら、汐見もなぜこの女がここまで辿りついたのか推測することにした。
通常の営業時間は既に終わっている為、鍵がかかっている扉は開かない。おばあちゃんが鍵を閉め忘れたのなら他の客も入ってくる可能性はあるが、外が騒がしいような気はしない為、鍵を閉め忘れたということは考えにくい。この女は魂湯の場所がわかってこの場に来たのだろうか。だとしたらこの女はとても脅威だ。もしかすると扉が壊されているのかもしれない。こう泣いているようでは、おそらく酒でも入っているのか。だとしたら余計にタチが悪い。化粧もきついし服も派手だ。この場にカラスがいるのなら、この女を狙って飛び込んでくるだろう。
こいつはキャバ嬢だな。汐実は確信をした。昼の営業時間に来たことはあるのだろうか。日頃通っている際に会計口の隣にある扉を不審に思っていたのなら、この場所は理解していたのかもしれない。だが、酒も入っており、泣きじゃくっている状態で意図してここに来ることは考えにくい。汐実は、女の巣城の推測というよりも、なぜ魂湯が他の者に暴かれてしまったのかを推測していた。
「すみません」厚化粧の女は言う。
「何でここがわかったの」汐実は問いかける。依然として、湯に浸かっている。
微かに聞こえる恥ずかしそうに放つ、謝罪の一言を耳にした汐実は、その女を睨み付け、追及を始めた。するとモーニングコールをした霊が言う。「ここはまず、風邪引いちゃうし彼女を湯船から出した方がいいんじゃない?それにしーちゃんも今裸なんだよ」
「そうだね」このままだと自分がのぼせてしまう。
「誰か他にいるんですか?」化粧の崩れた女は言う。
しまった。この大浴場には通常生身の男女二人しかいないことになっている。「場所を移して話を聞くからとっとと出て」汐実はタオルを巻き、彼女を脱衣所の廊下まで誘導した。汐実は振り向き、湯気で霞がかった霊たちに、掌を扉に翳し、“札をしておく”ジェスチャーを行い、浴場を後にした。湯船の掃除はこいつを帰してからにしよう。
時刻は二時三十分。霊たちは心なしか生身の二人の様子を見た後、会議を始めた。
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