第4話 思い出喫茶店

 K 氏は仕事帰りの夕方、ふと気になる喫茶店を見つけた。

[あなたの思い出のひとこまをよみがえらせます。コーヒー付き千円]

少し高いと思ったけど、店に入ってみた。

「では、ここにかけてください」

ゆったりとしたソファーに座ると、香りのいいコーヒーがでてきた。頭に半円形の装置がかぶせられた。そこからは静かな音楽が流れ、コーヒーを飲んでいると気持ちがよくなって一瞬意識が薄らいだ。

「なんだ、ただこれだけか」

 K氏は少しすっきりしたからいいかと思い、店を出た。あたりはもう薄暗くなっていた。K氏は電車に乗って郊外の家へ向かった。家は大きな団地の中にあり、駅から坂道を歩いて近くにきた。

 B-3号棟212 K氏は階段を2階に上がるとドアホンを押した。

「ただいま」

「おかえりなさい」

ドアが開くと、美しい若い女性が立っていた。

「遅かったわね、ケンちゃん。ごはんもできてるよ」

家の中からは懐かしいカレーライスのにおいがしていた。

 その瞬間、連続したアラーム音が聞こえてきた。K氏は喫茶店のソファでうとうとしていた事に気がついた。コーヒーもまだ半分ほど残っていた。

「またのおこしをお待ちしています。次回は一割引になります」

小さなアナウンスが聞こえた。

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