第4話 夢を見る
夢というものは概してよく覚えていないものだ。夢から醒め、微睡んでいるうちはまだ覚えている。しかし、目蓋が軽くなるにつれて、その裏側に映っていた情景は色褪せ、消えていく。幸福な夢であればあるほど、その傾向は強くなる。
「儚い」
この言葉は非常によくできている。人の見る夢はすぐに記憶から薄れ、どこか見えないところに影を潜めてしまう。手に届かないもの。すぐに見えなくなってしまうもの。我々はそういった儚いものに美しさを感じる。花は散るから美しい。夢は叶わないから美しい。
「将来の夢」というのも、また儚いものである。いったい、どれほどの人が「将来の夢」を叶えているのだろう。小学校低学年の頃、先生に将来の夢を聞かれ、ウルトラマンと答えたら笑われた。自分は本気でウルトラマンになりたかったし、なれるとも思っていた。
意外と将来とは不自由なものだ。何にでもなれるわけではない。あまりにも大きな目標を掲げてしまうと、「お前には無理だ」と笑われる。馬鹿にされるのが恥ずかしくて、ハードルを少し下げる。巨人が使うハードルを、人間サイズへと小さく作り直していく。夢という、手に届かず、すぐに見えなくなってしまうものを、目に見える形にしていく。大人になるとはそういうことなのかもしれない。途方も無い夢を語ると、「いい大人なんだから」と窘められる。
それでは、夢を見ることは悪いことだろうか。ウルトラマンにはなれないかもしれない。しかし、傷付いた怪獣を優しく宇宙へと送り帰すウルトラマン・コスモスを見て、憧れを抱いたあの頃の自分の気持ちは嘘ではないのだ。彼のように、強く優しいヒーローになりたかった。劇場版ウルトラマン・コスモスのエンディングソングを今でも思い出すことができる。
夢を追いかけて 全ては変わる
いつだって君を 心は見ている
僕はいつも大きな夢を描くことを決めている。自分の気持ちに嘘をつかない範囲で、できるだけ大きく。そして、途方も無いその夢をひとまず追いかけてみる。今まで、それが達成されたことは一度もない。しかし、それでいい。夢は儚い。儚いからこそ、我々はそれが惜しくなり、また見たいと願うようになる。花は散るから美しい。夢は叶わないから美しいのだ。
大きな夢を見ている自分を、未来の自分が振り返ったらどう思うだろうか。よくぞここまで巨大な夢を描いたものだ。そう未来の自分に思わせれば、今の自分の勝ちである。
今の僕の夢を打ち明けよう。法科大学院に進学し、司法試験の狭き門を突破する。助けを求める人を法の盾で守り、邪な思いを抱く悪者を法の剣で貫く、強く優しいヒーローになることだ。いつだって君を、心は見ている。
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