第1話 ごめんなさいの代わりに花束を

沢山迷惑をかけた。それは分かってる。無理矢理家を飛び出して、出来るわけもないのに「独りで生きる」なんて言った。そんな私が家に帰ることを決めたのは、大切な人が出来たから。そのおかげで、たくさんの事に気付けたから。

「どうした?」

考えこむ私を心配してくれる人が隣にいるから。

「今更、合わせる顔がないなって」

そういう私に、彼は一つの広告を差し出した。

「花屋…?」

「なんでも、伝えきれない気持ちを伝えるとか何とか?」

「なにそれ」

そう言って笑ってその時は終わったけれど、後になってその広告が気になってきた。

『ごめんなさいの代わりに花束を』

そう書かれた広告は、私の心にどこか残っていた。


仕事帰りにふと立ち寄ったその花屋さんは、路地の一角にとても小さく佇んでいた。

「いらっしゃいませ」

奥から出てきた女性は、とても優しく微笑んでいた。

「結婚、するんですけど。お父さんとお母さんに、謝りたくて。でも、勇気がなくて。」

そう言って口ごもる私に、女性は「少し待って下さいね」と言って奥へと戻って行った。

戻ってきたその女性は一つの花を持っていた。そのピンクの花はとても可愛らしく、自分が目劣りするくらいに見えた。

「この花の花言葉は家族愛。そしてこっちが…」

そうしてもう一つ、今度は綺麗な紫色の同じ花を差し出した。

「紫の方の花言葉は後悔。普通ならあまりオススメ出来ないのですけれど…」

そう言いながらその二つの花を一緒に持つ。

「きっと貴方は、結婚を控え、たくさんの事に後悔をしたのでしょう?だからこそ、家族の愛に気付いた。」

だから一緒に添えるのだと。

「それ、何ていう花ですか」

「バーベナ、と言います」

バーベナ……そう呟く私を、女性は待ってくれていた。

「これ、包んで貰えますか?」

これがあれば、ちゃんと謝ることが出来る気がした。


両親を目の前にして、片手に花束を抱えて、後ろには彼が立ってくれていた。怖いものなどもう何もないような気がするほど、心強く暖かいものに包まれているような気さえした。

「沢山わがまま言ってごめんなさい」

そう言って渡した花束のことを、父はよく分かっていないようだった。でも、それでよかった。花束が大事なんじゃなくて、花束に背中を押されて言葉にすることができた謝罪が全てだと思うから。


これから私は、隣に居る優しい人と共に、両親にも負けないくらい優しく強い絆を紡いでいく。

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