さよならの代わりに花束を

葉月蒼依

序章 あなたの代わりに花束を

もし、あなたが気持ちをうまく伝えられない時、背中をそっと押すようなそんなものがあればいい。ただそれが、あなたの重荷になってしまうかもしれない。そう思うと、いつも足が竦む。

「いらっしゃいませ」

意を決してその言葉を発するまでは、あなたの残してくれた言葉を反芻することしかできないのだから。

「君はとても綺麗な言葉をたくさん知っているから」

そう言うあなたは私なんかが連ねる言葉よりも、もっともっと綺麗だった。

「その、綺麗な言葉を、僕は独り占めはできないよ」

それでよかったのに。あなただけのために、言葉を紡いでいられたらそれだけでよかったのに。

「待って!居なくならないで!」

どんなに叫んだってもう、届くことはないのに。

あなたの残していったたくさんの花たちは、寂しげに揺れることしかできないみたいで。


だから、あなたの代わりに、背中を押す花束を。



「いらっしゃいませ」

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