第一章 第一話 戦いを終えて
北暦1999.1.4 シルエット戦争が終わって4日後
「それでは皆さん。このアリア・フォーミュラー、フェン・シェルス・ゼクタポルテ、エヌ、セリカ=ヴェトヴィシカ=バードウォン、ルヴェーナ・フェクリプス。この五人のヒロインに。乾杯!」
「乾杯!」
司会者の言葉に合わせて右手に持つ飲み物を上げる。ここにいる人たち皆が幸せそうな顔をしている。それが見れるだけで私は幸せ者だ。
「アリア、国のトップ達がそろっているな。」
「ええ。」
見渡す限り、国の代表者が集まって談笑している。それだけではなく、世界的な著名人たちも見えている。私達が世界を救うことによってこれだけ動かされるなんて。いや、動いて当たり前なのかな…。こんな世界は始めてみるからわからない。
「へっ、こいつらは私の下僕ってことか。」
「それは言いすぎよ。」
そういって私とフェンは飲みながら周りを見渡す。皆綺麗なドレス姿にスーツ姿、私達がいままで生活してきた時とは大違いだ。
「ねぇフェン、私この格好が慣れなくて…どう振舞えばいいのかわからないのだけど。」
「しるか、私も知らないんだ。こ、こんな服装動きづらいったらありゃしない。」
「あら、私が用意した服装は気に入らなかったかしら?」
セリカが悠然と私達に近づいてくる。さすが国王の娘、完璧に振舞っている。
「そういうわけじゃねぇんだけどさ。どうもこの服動き辛いというかさ。」
「あら? 庶民にはわからなかったかしら? それでは世界のトップは難しいわよ。」
「やってやろうじゃねぇか! 振る舞いってやつを!」
フェンはセリカの挑発に乗ってきた。何か問題にならなきゃいいけど…。それにしてもこのケーキ、すごく美味しそう。
「さて、スープの飲み方からね。」
「食い物は全部同じだろ? こうやってさ。」
フェンが皿を持って口に直接持っていく。確かにあれは私から見ても豪快というかなんというか…。
「全然ダメよ! こうやって、まずスプーンを使いなさい!」
「なんでそんなもの必要なんだよ! わっけわからねぇ! 美味しいからいいじゃねぇか! それならルヴェーナ見てみろよ!」
私はフェンが言う通り、ルヴェーナを見る。
「んえ?」
ルヴェーナはまるで動物かのように肉を食いちぎって食べていた。これ、フェンよりもヤバいやつだと思う…。
「なんてこと…! ルヴェーナ! はしたなさ過ぎるよ!」
「いやーこの肉うめーよ! フェン! 食ってみなーよ。」
「ご覧の通り、自由な食い方だろ?」
なんだか三人のやり取りが漫才に見えてきた。それにしてもケーキ美味い、これは手が止まらなくなる。
「アリア! 貴方も!」
「ん?」
私は頬張っている口を押さえながら返事をする。その返答した瞬間にセリカはガックシと肩を落とす。
「はぁ、何で皆…。」
セリカは疲れた様子でフェンとルヴェーナを見ている。セリカも自由人だけど、こういう場はキッチリしたい派なのかな…。
「よう、お疲れ様。」
「シーブレン、生きていたのね。」
聞き覚えのある男の声に私は思わず反応した。シーブレンは怪我している腕をギプスで止めながら握手を求めてきた。
「あの幹部との戦いの後も戦い続けたのね。」
「ああ、強敵ばっかりでほんとしんどかったわ。おかげで左腕は折れたし。でも新技術の医療ですぐ治りそうなんだぜ。」
「無事で本当に良かったよ。」
「そういや、ゼルダン姉妹もやってきてるぜ?」
笑いながらシーブレンは親指で後ろを指す。私はその方向を見るとエコーとユーコの姿があった。
「セリカ! 久々ね。」
「こんばんはー。」
「エコー! ユーコ! 久しぶりですね!」
三人は嬉しそうに握手を交わしている。かつての戦友たちとも会えることが出来て内心ほっとしている。こうやって仲間達に私達は支えられてきたんだのだと実感出来る。
「あっ、あの…。」
声のする方へと振り向くと、後ろから袖を引っ張りながら下をうつむいている少女がいた。
「あれ…? どっかで見覚えが…。」
「あの…、助けてもらった…。トワンナ…です。」
その顔を見て私は思い出した。敵幹部のヘルとの戦闘で助けた少女だ。彼女もまた傷を負っていた。
「私、アリアさんを見て…、悪と戦うことを誓いました…。これからも…平和を守り続けてください…! 私も強くなって、世界を守りますっ…!」
「ありがとう、私も貴方みたいな人に出会えて嬉しいよ。何かあったら助けにいくから、頑張ってね。」
「はいっ!」
私達の活動が、こんな少女も助けることが出来るできるなら、本当にこの世界の平和を守れて本当に良かった。きっとこの少女は…世界を守れるようになるはず。
「おーい、アリア。ちょっと聞きたいんだが。」
フェンが手招きで私を呼ぶ。私は歩きづらいこの服装のすそを持って小股走りで向かった。
「どうしたの?」
「アリア、これからはどうするんだ?」
フェンが真剣な表情で問うと、セリカとルヴェーナも表情を変えた。確かに、私達はシルエットを倒すためにこの仲間達と戦ってきた。でもその目的を遂げることが出来た私達は何をすれば良いのだろうか。でも私の中では答えは決まっている。
「私はこの後もこの世界の平和を守り続ける。それが大きなことであっても小さなことであっても。この世界の平和を守り続ける。それで私についていくのも、それぞれの目的に向かっていくのも私は任せる。」
私は自信を持って仲間に伝えた。それを聞いた仲間たちはほっとした表情を見せてくれた。
「ああ、私も別の目的はある。だが、お前の目的があるからこそ達成できることだ。私はついていくよ。」
「私は国に戻った所でまた束縛されるだけだからね。だから貴方についていくわ。けど少しは自由に動きまわろうかなと思うわ。」
「俺はアリアといれば何か敵と出会えたときに戦えるからいいぜ、それに俺はみんなの家族だからな。」
フェンもセリカも、ルヴェーナも答えは一緒だった。私についてきてくれる、それがどれだけ嬉しいことか。後は、エヌだけ。
「そういえばエヌはどこにいるの?」
「向こうにいるわ、外を眺めてる。」
セリカが位置を教えてくれた。私はエヌのいる方へとゆっくり向かう。エヌの姿が見えるようになると、エヌは手すりに座りながら外を眺めている。
「パーティ楽しまなくていいの?」
私は優しい声でエヌに問いかける。
「ええ、ここからの景色が素敵だから。」
「そう…。」
そういってエヌは外を眺め続ける。確かに綺麗な景色だ、この景色はずっと守っていきたい。綺麗な森林に海、そして光輝く町並み。パーティーが開かれているこの小さな町にある会場が、こんなにも素敵な街だなんて。
「ヤッキネンとは会った?」
「ええ。…落ち着いたら二人で暮らそうって。」
その話をするとずっと無表情だったエヌの顔が優しい顔へと変わっていく。
「恋人がいるなんて素敵ね。」
「そうね。」
「この後はどうするの? 二人でゆっくりと過ごしていくの?」
「それもいいと思うね。でも…私には帰れる場所はまだない。向こうは任務がたくさんあるから。」
そういってエヌは少し寂しそうな顔へと変わった。右手には飲み残っているコップを持っている。私はそんなエヌを見て笑う。
「何言っているの、帰る場所はここにあるよ。」
そういってエヌを迎え入れるように問うとエヌはようやく私の目を見てくれた。そして後ろも見る。私も振り返るとフェンとセリカ、ルヴェーナが笑顔で迎え入れている。そう、私達がいる限り帰れる場所はある。
「ふっ、本当にいい奴らだよ。」
そういってエヌはまた笑った顔を見せて、手すりから降りる。そうして私達の所に向かってきた。
「これからもよろしくな。」
「こちらこそ。」
私はエヌと握手する。ほっとした表情を見せるとセリカが近づいてきた。
「さて、一緒にダンスでもしましょう。」
「うぇっ!? ダンスなんてわからないよ。」
「ほら、いきますわよ。」
セリカはエヌの手をとって引っ張る。本当に仲間に恵まれている。これだけ良い仲間たちと出合えることが幸せだ。これからも…ヒロインとしてではなくて、仲間として。
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