HEROINE
@RickaHotaru
プロローグ
「正義」とは何か。 「悪」とは何か。
その答えなんて私達は存在しないと今、思う。
私達から見ればこの世界は「悪」だとおもっている。
犯罪はどこでも起こり、政治家や資産家は悪いことでも平気でお金で解決しようとする。平気で人を道具として扱い、人が人を壊していく。
「悪」を消せばまた新しい「悪」が生まれる。
そんな世界が本当に正しいのだろうか、「正義」という人たちは何なのだろうか。それが平和だという人たちはいったい何を思っているのだろうか。
そんな世界で本当に良いのか。私達は決してそうとは思わない。
世界を救って私達は英雄「ヒロイン」と呼ばれた。私達の行いは正義として称えられた。
その後も世界の方針によってマフィアなどを壊滅、これによって全世界が平和になり「悪」に手を染めていた人達は消えていった。
しかしその行いは間違いだと国のトップ達は言う。
ただ私達は「正義」を執行しただけ、なのに「悪」として扱われた。
世界中の人達は私達を支持してくれる人が多かった。しかし、それは変わっていった。
私達を「悪」として見るようになった。
「正義」は「悪」であって、「悪」もまた「正義」であるとでも言うのだろうか。
もう私達にはわからない。
だけど私達の行いは決して間違っていたとは思わない。
私達の行いは「正義」であると。
セリカ、エヌ、フェン、ルヴェーナ、貴女達もそう思うよね。
トワンナ、貴女ならわかってくれるはず。
父さん、母さん、私達は「正義」だよね。
でも「正義」か「悪」かはもうすぐわかる。
これが最後の戦いだから。
今この世界に希望の光を照らして、私達の理想である平和で「悪」の無い世界を作るために。
私達はヒロインとして「正義」を貫く。
北暦1998.12.31 シルエット戦争が始まって6年程
もうすぐ私達の戦いは終わり、これで平和が訪れる。もう誰も犠牲を生まずに戦いを終えることが出来る。長年の戦いに終止符を打ち、私達人間がこの戦いに勝利する。逆に私達がここで決めなければ…世界は滅ぶ。私達の体力的に考えてもコレが最後。とどめを刺すしかない。
「いくよ、皆。」
「ええ、もちろんよ。」
「了解。」
「俺達に勝てると思ったら大間違いだぞ。」
「さあ、やっちまうからな!」
私の声に皆が答えてくれる、ここで全力でぶつけにいくしかない。あの化け物を倒すには…!
「この野郎がぁ! ふざけるなよ!!」
シルエットが叫び、地面に手を当てると同時に足場にある瓦礫が浮き始める。私達はその足場を生かしてジャンプしていく。
「ッヒャア!!」
ルヴェーナが奇声を発し、瓦礫から勢い良く飛び込んだ瞬間に浮遊の魔法を打ち消した。狂気に満ちた顔をしながらシルエットへと飛び掛っていく。
「死ねぇ!!」
「そっくりそのままかえすからな!」
シルエットがビーム光線を放つ。しかしそれをシルエットが腕に展開した魔法を放ち、防ぎながらシルエットの腕を掴んだ。
「この化け物がぁ!!」
「ああ、そうさ。私は化け物、そしてお前も私と同じように生まれた化け物さ。だけど私はお前とは違う物を持っている。」
そう言ってルヴェーナがシルエットを思い切り蹴り、バランスを崩させる。いくら強靭な体をもってしてもルヴェーナの魔法と科学を使った戦闘によってそれを無にする力を持っていた。
「エヌ! やっちまえ!」
その声にシルエットが上を向く。先ほどの浮遊の魔法によって空中に浮いたエヌがライフルで狙いを定める。
『セーブ』
「発射。」
鈍い音と同時にシルエットは超人的な反応速度を見せるが、エヌがそれを予測して撃っていた。そして一瞬にして右腕が吹き飛ぶ。シルエットからは血は出てこないが、吹き飛んだ腕は灰と化していた。
「ふざけるな! お前達のせいで俺は…俺は…!」
シルエットが濁った声で叫ぶ、そして魔法を放つ準備をした瞬間、セリカが疾風の如くシルエットの前へと飛び込む。
「貴方の魂は私に相応しくない。それに悪に染まりきった魂は私を汚すだけ、だから消えなさい。」
怒涛の勢いでセリカが体をレイピアで突き刺す。そしてひるんだ所でシルエットの左目をレイピアでつぶした。もうとどめを刺すのも時間の問題だ。そしてフェンがゆっくりとシルエットへと近づいていく。
「あああっ!! お前等は…お前らは悪魔だ!」
「お前に言われたくはないね。」
シルエットが鋭利な腕を振り回していくが、フェンが武器を生成するとその腕に向けて剣を構える。その瞬間にシルエットの左腕を切り落とす。フェンは振りかぶる度に剣や槍を生成していき、そのままシルエットの体のいたるところに突き刺す。刺しては生成し、刺しては生成しを繰り返す。串刺しとなったシルエットは身動きがもう取れない状態だ。
『セーブ』
私は今ある状況を「記録」した。とどめを確実にとれるように。シルエットの命を絶つために剣をしっかりと構え、全力疾走で向かっていく。
「それが、お前等のそれが正義だというのならっ…!!それはっ!」
「これで終わり――。」
私は全力でシルエットの心臓へと剣を突き刺した。シルエットは膝を突き、前のめりになる。目にはもう力がない。これで、とどめを刺すことが出来た。この世界の存亡をかけた戦いは終わる。
「…ああ、そういうことだったのか…。」
「何か残す言葉はあるの。」
私は死にかけているシルエットに問いかける。もうそんな力すらないと思われるが。
「俺も…お前達みたいに…人間として生まれたかった。」
最後の残したい言葉としてはあまりにも悲しいものだった。確かに人工的に作られた生物として生まれ、それを作った人間を憎んで生きてきたのだからそう思うのは当たり前だ。だが私達の仲間にいるルヴェーナのように人間と共存している者だっている。それはあまりにも自分勝手な思いだろう。
「へっ…だからこそ人間は争い続ける。お前達がいる限り…、平和は…訪れることは…ないだろう。」
「……いえ、私達がいる限り、平和で有り続ける。」
シルエットはなんとも無様な言葉を吐き捨て、そのまま力尽きた。シルエットが死ぬと同時にシルエットが放っていた魔法が解かれ、世界が苦しみから解き放たれる。霧も晴れていき、青空と太陽が広がっていく。これで全て終わった、戦いが終わって平和が訪れるようになる。
「私達は…平和のためにこれからも戦い続ける。だからこの世界は平和で有り続ける。」
死んでいるシルエットに向かって最後の言葉を伝える。もっとも、もう聞こえてはいないけれども。
「終わったな。」
「えぇ。痛っ。」
フェンが私の隣へゆっくりと歩いてきた。戦いが終わって安心したのか、左手に負っていた傷が痛み始めた。右手で傷を押さえながら二人でシルエットを見る。
「この糞野郎、手間かけさせやがって。お前のせいでこの世界が酷い目になったじゃねぇか。」
フェンは見下しながらシルエットへと言葉を吐きつける。
「でもフェンがこの世界の人たちを心配するなんて珍しいね。」
「あったり前だろ。私がこの世界のトップになる人間なんだから下僕は必要だろ。」
悪い顔をしながら私の顔を見る。でも本当にそれだけの思いではないことは分かっている。だからこそこの世界の人たちを守りたいって言うのも。
「よっしゃ、このまま掃討作戦といこうぜアリア!」
「それは無理よ。シルエットが死んだことによって部下たちは皆死んだのだから。」
「マジかよ!」
血気盛んなルヴェーナにセリカが冷静に止める。二人とも傷を負っているはずなのにすごく元気、私にもあんな元気があったらいいのに。
「アリア! もう今日は戦闘終わりかい?」
「えぇ。これからは平和が来るから。」
「そうかそうか! 俺はもっと戦いたかったけどよかったわ! アリアが嬉しいなら!」
顔は狂気に満ちているけど、下手ながら笑顔でルヴェーナは私に手をふる。シルエットと似た境遇なのにルヴェーナは何か吹っ切れている様子でもあった。
「アリア、これからはどうするの?」
「まずはこの世界で怪我や衣食住とかで苦しんでいる人を助けに行く。」
「アリアらしいね。私も勿論ついていくわ。」
セリカは頭から出ていた血を吹きながら私の隣へと近づく。
「下僕の面倒は必要だよな。」
「性に合わないけどアリアがいくならついてくぜ。」
フェンとルヴェーナは嫌々な顔をしながらも私について来てくれる。そんな仲間達が私は大好きだ。
「エヌ!」
私は空を見上げながら座っているエヌを呼ぶ。私の声に反応してゆっくりと立ち上がる。
「行くわ。」
一言だけ残して私達四人の所に近づいてくる。エヌの顔を見ると滅多に見れない笑顔を見せていた。
「エヌ! おっまえその笑顔かわいいじゃねぇか!」
「可愛くないです。」
ルヴェーナがエヌの肩をポンポン叩きながら顔を覗き込むように見るが、エヌは恥ずかしさがあるのかそっぽを向く。
「助けろセリカ。」
「えー。可愛いから無理です!」
「おまっ、裏切るなんて!」
私達は笑いながらいつものやり取りをする。そして気持ちが落ち着いてくる。やっと、数年間に渡る戦争が終わった!
「よし、行こう!」
私が声をかけると皆が返事をしてくれる。下へと降りるために、戦いの場であったビルの屋上の端から下を見下ろした。
「…これって…。」
そこには思いがけない光景が広がっていた。私達を囲むように戦ってきた何百万もの人たちが見えた。それはまるで私達を称えるかのように。
「英雄(ヒロイン)よ! 世界を守ってくれてありがとう!」
「貴方達はヒロインよ!」
「ヒロインばんざーい!」
様々な賞賛の声が浴びせられる。その中でも「英雄(ヒロイン)」という言葉が多く聞こえてきた。私達が…ヒロイン。
「ヒロインか、いい響きじゃねぇか。」
「ああ、この光景は私にとって心地が良い。」
「うん、いいね。」
「素晴らしい言葉ね、アリア。」
「えぇ!」
私達は笑顔でこの世界を見渡す。私達がこの人たちを、この世界を守ることが出来た。そして英雄として…ヒロインとして。
「そうね、…私達は!」
私は勢いよく右手を上げる。それにあわせてフェン、エヌ、セリカ、ルヴェーナは同じように右手を上げる。周りを囲む人たちも右手を上げていく。そう、私達が。
『HEROINE』だ。
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