第3話 奇跡
お兄ちゃんは最後笑って逝った。
それを見届けた僕は立ち上がってガラス越しに研究員たちを睨みつけた。
「終わったか。生き残ったのは、あー、No.48だね。おめでとう。」
全くそう思ってなさそうな感じでそう答えるのはでっぷりとお腹を膨らませている男。
やはりあの男がここのリーダーなのだろう。
周りを見渡すと亡くなっていった子どもたちはみんなガリガリでなにかの衝撃ですぐに折れてしまいそうなほど細い。
それなのにこの男は、と怒りが募っていく。
それでも黙って男の次の発言を待つ。
「それでは褒美を与えよう。褒美は……この毒ガスだ。やれ!」
そういうと研究員たちはパソコンをいじりだす。
次の瞬間には実験室内の上部についていた配管からガスが出てきた。
「ふふふふ、ふははははは。君たちが生きれると信じて殺し合いをしていたのを見るのは実に楽しかったよ。」
「ふざけるな!」
怒りで頭の中が真っ黒になる。心臓が熱くなり鼓動が早くなる。
ドクドクドクドクすごい速さで頭の中に音が鳴る。
左腕を見ていると左腕全体まで幾何学模様が伸びている。
右腕も見てみると右腕にも幾何学模様が伸びていっている。
伸びるにつれて感情がどす黒くなっていく。
あいつらのせいで、みんなが。アイツラノセイデ、オニイチャンガ。
ふらふらとガラスに近づき、力の限り拳を叩きつけた。
子どもが殴ったとは思えないほどの音を立てる。
手の皮膚が破けて血が出る。それでも殴り続ける。
何度も、何度も、なんども、ナンドモ。
「ひぃ!」
研究員たちは怯えて、悲鳴を漏らす。
「素晴らしい!やはり実験は成功だ! …だが君は失敗作だ。感情に左右されて発動するなど論外だな。」
リーダーの男だけは一人で興奮していた。
それにさらに腹が立ってきた。
しかし、ついにガスを吸いすぎてしまいむせてしまう。
ついにはだんだん力が抜けてきて、床に倒れる。と同時に幾何学模様も徐々に縮んでいく。
ここで死んじゃうのかな。そんなことを考えていると先ほどの光景が脳裏に浮かんだ。
「みんなの分まで精いっぱい生きろよ!」
そうだ!自分は生きるんだ!
そう思い、少しでもガスを吸わないように手で口を覆った。
助けて、みんな、お兄ちゃん。
奇跡を信じて待っていると、地面が揺れるほどの爆音が鳴った。
チラッと研究員たちの方を見てみると、研究員たちも慌てている。
彼らにとっても不測の事態なのだろう。
そして1,2分経つと数人の男女がこの場にやってきた。
パッと見でも明らかにここの研究員ではない服装をしている。
そしてその男女があっという間に研究員たちを取り押さえている。
彼らのうちの一人、眼鏡をかけた男がパソコンをいじること数十秒後、ガスが止まり実験室の扉が開いた。
「中入って生存者を探せ!」
一人の男性がそういうと、眼鏡をかけた男性と女性が一人ずつ実験室に入ってきた。
周りを見渡す彼らに向かって手を向けて助けを求める。
女性のほうが気づいてくれたようで、こちらへ走ってくる。
その光景を最後に僕は意識を手放した。
「一人たりとも逃がすな!ここでこの支部は絶対につぶす。」
一本の刀しか持たない大男がそういうと、先ほどまでパソコンをいじっていた男が呪文を唱えだす。
すると、地面から木が生えてきて枝が次々と研究員たちを縛り上げていく。
「終わったか…。」
大男がそういうと実験室から眼鏡の男性と子どもを抱いた女性が出てきた。
「生存者はそいつだけか。」
「ほんとにぎりぎり間に合わなかったみたい…」
「亡くなった子どもたちの様子を見るに死後まもない感じだった。」
大男の問いに女性と眼鏡の男性がそれぞれ答える。
「くそっ!あと少し早く来てれば。」
「俺たちも依頼があってから最速でここまで来た。あんまり気に病むな。」
大男に対して男性がそう答える。
「本部には連絡した。応援が来たらとりあえずこいつらを生きたまま連行してもらう。それまでここで待機だ。」
「……」
そういった男性に対して不満そうな顔をする女性。
「わかってる。ここの子どもたちのお墓を作ろう。」
男性がそういうと、みんなで子どもたちを外まで連れて行った。
研究所の外は森の中だった。
木が多い茂っていて日が当たらず非常に暗い。
「こんなところで悪いが…」
そういうと男性は再び呪文を唱えだす。
すると地面から木が出てきて木のお墓ができた。
その後、お墓の前で黙祷をする。
その後、研究員に軽く尋問をしていると応援がやってきて、引継ぎも終わり連れていかれていった。
「よし、俺らも帰るか。」
あえて明るく振る舞う大男に残り三人も便乗し返事をする。
この日、裏の組織、通称「魔の知識」の一つの支部は壊滅した。
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