第2話 生きる権利を掴んだもの

 例の実験から3日と経ったが、あれから一度も実験室へと連れていかれることはなかった。


 この場所に連れてこられてこのようなことは一度もなかったため、不思議に思いながらも檻の中で生活をいていた。


 生活をするといっても生活用品だってない。嗜好品なんて物もあるわけがない。


 檻の中にあるのは布が1枚とトイレットペッパー1ロールのみ。


 布を地面に敷いてその上に寝そべって少しでも休む。


 そんな休めた日々もたった3日しか続かなかった。


 4日目。その日は目覚めたときから慌ただしかった。


 今までにはない感覚で次々と実験室まで連れていかれている他の子どもたち。


 どんどん子どもを呼ぶ声が近づいてきて、ついに


「No.48出てこい!」


 自分も呼ばれた。そしてその声に黙って出ていくしかない。


 そしていつものように、実験室に連れていかれるとそこには今まで見たことがない数の子どもたちがいた。


 研究員に突き飛ばされて、実験室にいれさせられる。


 その後研究員たちは実験室からでてガラス越しにこちらを見ている。


 突然スピーカーから音声が発せられる。


「今まで貴重なデーターをどうもありがとう。」


 そう話しているのはでっぷりとしたお腹をしている一人の男だった。


「君たちには感謝している。君たちのおかげで実験は完成した。その褒美として君たちをここから解放してやろう。」


 その言葉を聞いた子どもたちは言葉の意味をだんだんと理解したのか隣同士で手を合わせて喜んでいる者もいたり、泣いている者もいた。


「ただし一名のみだ。」


 しかしこの言葉により再び地獄に突き落とされた。


「今そこにはこの実験を耐えきった21名がいる。その中から殺し合いをしてもらい一名だけを助けてやろう。」


 皆何を言われたのか分からないといった表情をしている。


「それでははじめ!制限時間は1時間で。」


 しかし、無情にも告げられたいきなりのゴングの音に一気に緊張が走った。


 それぞれが距離をとって、様子をうかっがている。


 その様子を見て、少年もとりあえず距離をとった。


 しかし、すぐに手首を摑まれ引っ張られた。態勢を崩しながらも引っ張った相手を見た。


「よう!俺と組まないか?」


 と陽気に話しかけてくる少年。No.48が連れてこられてすぐの時に隣の檻に入っていた少年だ。


 話したことはなかったが、いつも実験室に連れていかれるときに檻を見てみるとこちらに向かって変な顔をして笑わせようとしてきていた。


 そんな少年からの提案。


「え、でも、助かるのは一人だけだって言ってたよ?」


 組んだとしても最終的に助かるのは一人のみ。勝ち残っても最後は二人で決着をつけなければいけない。


「大丈夫だ。俺に策がある!」


 そう思っていたが自信満々にそう答えられたら、素直に信じるしかない。


「うん、わかった。じゃあ、一緒に組もう。」


 そういって二人で握手をする。


 そんな話をしている間にすでに現場は地獄と化していた。


 まだ少年、少女とは思えないような表情で殺し合いを始めている。


 そんななか二人に襲い掛かってくる少年を二人で戦い返り討ちにした。


 そんな語るのも憚られるような状況も終わりに近づいてきた。


「残り15ふ~ん」


 人を馬鹿にしているような声でスピーカーから聞こえてくるのは例の男の声。


 とうとう残ったのは二人だけ。


 今までしてきたことを思い出すと吐きそうになるが、どうにかここまでやってこれた。


 二人とも息が乱れていたので整える。


「二人になったよ…。これからどうするの?…」


 そう尋ねてみても何も返してくれない。


 先ほどまで怒号が飛び交っていた時とは違い今は静寂に包みこまれている。


 すると突然少年はどすんっと座った。


「ほら!お前も座れ!」


 そう言って自分にも座るよう促してきた。意図はわからなかったが、兎にも角にも疲れたのでとりあえず座った。


「ねぇ、座ったよ。どうするの?」


「お前が連れてこられてすぐの時さ、泣きじゃくってただろ?ここでは泣いたって無駄。それどころかさらに酷いことされる。だから泣き止むようにお前が檻の前を通るたびに変な顔してたんだよ。」


 尋ねてみても見当はずれなことを語りだす少年。


「そうだったんだ。ありがと!」


 こんなところでも笑えたのはこの人のおかげだった。そう思い素直に感謝を告げる。


 すると少年はニカッと笑ってまた話し出す。


「策だけどさ…。それは俺が死んでお前が生き残るのが作戦だ。」


「え…。       なんで!なんで!そんなの作戦じゃないじゃん!」


 思わず声を大にして少年に詰め寄った。


「俺さ、弟がいたんだ。」


 詰め寄ったことを軽くあしらわれてまた話し出す。


「お前の泣き顔見たときに弟の顔が浮かんだんだよ。弟も泣き虫でな。その時思ったんだよ。お前だけは絶対に助けるって。実際に俺の弟ってわけじゃないんだけど、親近感が湧いちゃったからさ…。」


 その話を聞いて涙が止まらなくなってしまう。


「いやだ、いやだよ。死んじゃやだ。」


「そうしてやりたいけどこの状況じゃ無理だ。あと10分くらいしか時間もない。」


 決意は固いようで少年の顔には迷いがない。


 今から死のうとしている方が笑い、生き残れる方が泣いている。


「じゃあ、逝くか。」


「待って、名前は?なんていうの?」


 死んでほしくない。だからと言って自分が死ぬ勇気もない。


 せめてこの少年の名前だけでも聞いておきたい。そう思い尋ねる。


「名前か…。何だったかな…。もうここに来たのがはるか昔過ぎて覚えてないや。」


 そういってカラカラ笑っている。


「じゃあな、みんなの分まで精いっぱい生きろよ!」


 そう言って舌を噛もうとする少年に対して告げる。


「じゃあね、また会おう、おにいちゃん。」


「!! ばか、ここでお兄ちゃんは卑怯だろ。」


 そう言って最後は涙を流し笑いながら最後を迎えた。

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