第百七十一話◆トーミヨ突入
しばらくの船旅をして、下船してからしばらくの陸の旅……
皺月の輝きの九人、怪光一閃の六人、そしてアグスティナ陣営の四人とオルテガを含めた五人。
合計20人だ。結構な大人数でトーミヨへ向かっている。
――トーミヨ近郊。
視界の先には、エレンの街が以前と変わらぬ姿でその巨大な街並みを強調していた。
「あれね……」好矢は小高い丘からエレンの街を観ていると、エルミリアが隣に並んで呟いた。
「あぁ」時刻は午前中ではあるが……サミュエルが後ろから声を掛けてきた。
「この時間帯は学長は学長室に戻ろうとしている頃ですね……普段から昼食は学長室で食べているはずですし」
「じゃあ今からトーミヨへ向かえば、学長は学長室にいる時間帯ってことだな」好矢は確認する。
「はい、そのはずです」
――エレンの街。
見知った顔の門番兵が声を掛けてきた。
「キミは……あの時ゴブリンを連れていた……?」
「あぁ、お元気そうですね」好矢は普通に応対していた。
以前アデラが教えてくれた、邪悪なる者はシルビオ学長だという話……あれが本当なら、エルミリアも問題なく街へ入れるはずだ。
シルビオ学長とよくやり取りをしていたエルミリアだ。予め、適当な理由を付けて行く旨を伝えておけば問題ない。
「最初はキミとゴブリン二人だけだったパーティが今や20人か……」と感慨深そうに言っているが、実際は違う。
「では、一人ひとり身分証を見せてください……って、エルミリア様!?」
「ごきげんよう。私も見せようかしら?」
「あ、貴方様は問題ございません!では、他の方の身分証を――」
沙羅は身分証を見せるのを渋っていたが、門番に怪しまれるので仕方なく見せることにした。
予想通り驚いていたが、想定内の事態なので問題なく喋らないようにと言っておいて、門番に口止め料を払っておいた。アイツ素直に受け取りやがった。
一番驚いたのは、ロサリオやアンサでも普通に街へ入れたことだ。
恐らく、ロサリオの場合は一人で旅をしていた時の行動がエレンの街へ知れ渡り、しっかりと更生したんだと判断されているのだろう。
そしてアンサに限って言えば、会話する方法をまともに伝えれば、普通に入れてくれるようになっていた。
好矢が最初に提唱した差別意識はだんだんと薄らいでいっているのが分かる。
そのまま20人はエレンの街のメインストリートを白昼堂々と歩く。
戦闘は、オルテガとレディア。そしてその後ろにエルミリア、その後ろに控えるようにしてサイラが並んで歩いている。その後を付いていく好矢たち。
突然街にゾロゾロ入ってきて歩いているので、街の住民は何事か?と注目を集めていた。
行き先の人たちは、何も言わず道を開けてくれる。いや、開けるしかないだろうが……。
そして混成されたハンターチームがトーミヨの敷地へと入って行った。
――トーミヨ敷地内。
ちらほらと休講の学生たちは外で魔法の練習する光景が映っていた。
かなり熱心に見えた好矢だが、これは今や毎年秘密裏に行われているマインドコントロールだ。
エルミリアは黙認していたが、見ていられないようで学生たちを観察することはなかった。
「ヨシュア、学長室は?」エルミリアが黙って聞いてきた。
「俺に分かると思うか?」と返答して、そのまま近くにいたサミュエルに聞いた。
「あそこです」と指差した。
「あれが学長室の窓ね……」そこまで言い終えると、好矢の方を見た。その目は準備しろと言う意味だろうな。
「発動!」好矢は今回一緒に戦う20人全員に物理防護障壁と魔法防護障壁の両方を張り、突撃部隊全員の武器には硬化魔法を施した。
「ありがとう、ヨシュア。それから……ポーション類は大丈夫?」
「問題ない」
「じゃあ、他のみんな、準備はいい?」エルミリアはそう言うとみんなが頷いた。
「じゃあワシらはここで待機するから、行って来い!」エヴィルチャー、ダラリア、アンサがトーミヨの敷地内で待つこととなった。
「……発動!」エルミリアは魔法の発動を試みて攻撃開始の合図をした!
ガシャァン!と大きな音で窓ガラスが割れる!すぐには何も起こらなかったが、学長が顔を出した。
その瞬間一瞬目を見開いたように見えたが、学長は手から沙羅へ向けて電撃の魔法を放った!
跳躍して躱す沙羅。
予想外だったのは、普通に学長の姿のまま魔法を使ってきたことだ。噂だと7000程度の魔力なので、サミュエルよりもだいぶ低いはずだが……仕方ないので突入することにした。
「仕方ない、突撃部隊は突入!俺たちはここへ残ってもしも降りてきた場合の対処をする!」好矢が言うと、六人の突撃部隊が突入して行った!
サミュエルが先導していたので大丈夫だろう。
何事かと集まってきた学生たちと教官たち。
「あなた達!一体何をしているの!?」薬師のレイラ教官だ。懐かしいなぁ。
「先生、貴方は避難してください」声を掛けてきた好矢が言うと「ヨシュアくんに……卒業生のみんなじゃない!?何があったの!?」
「……すみません、先生。私たち、学校を襲撃しに来たんです」とアデラが言った。
「しゅ、襲撃って……」
「おい、アデラ、襲撃するのは学校じゃない、シルビオだ」ガブリエルが訂正した。どちらにせよエレンの街では大問題だ。
シルビオ学長はトーミヨの学長であり、この巨大なエレンの街の市長なのだ。殺されたら困る人が大勢いる。学校内では時々爆発音が聞こえてくる。
ちゃんと学生には怪我させないようにしているだろうな……?
レイラ教官たちや学生たちはそのまま好矢に攻撃を始めたが、今や20000を超えた魔力。分析防御を使わずとも攻撃を食らっても一切何も感じることは無かった。
時々軽い衝撃が身体を襲うだけだが、その衝撃も尻もちすらつかない程度だ。
絶対的な防御力の前に何も出来ないと察する学生たち。そしてアグスティナ四天王がいることに驚きを隠せないでいる。
「私はアグスティナ四天王鋭鋒の氷刃レディア・ガラガス!あなた達に手出しをするつもりはないし、街をメチャクチャにするつもりもないの。今は信じて避難して!」
トーミヨの学生が憧れるアグスティナ四天王に頼まれた時点で、誰も攻撃を続けようという学生はいなかった。
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「こっちです!」一方、突撃部隊はサミュエルが先導して広すぎるせいで入り組んだ学校内で学長室への最短ルートを走る!
この昼食の時間帯、外を歩く学生はチラホラといるが、何が起こったのか分かっていないので、そのままサミュエルたちが通過するのをただ見ているだけだった。
それどころか、憧れの先輩で、卒業生であるサミュエルがいたと多少の話題になっていた。
アグスティナ魔帝国軍に入軍して初日で四天王の側近になったのはトーミヨ内で広まったのだ。個人的にたまたま仲良くなっただけだが。
そして突撃部隊の一行は学長室の扉をバンッ!と開けた!
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