第百七十話◆作戦会議

「……!」ロサリオが目を覚ます。


「さっきの夢は……」

さっきまで夢を見ていた。ヨシュアを一方的な理由で恨んで強襲し、投獄されてから再会するまでの夢だ。


「今になって思うが、俺ってクソ野郎だよな……」大部屋の隣のベッドに目をやると、好矢が静かに寝息をたてている。

ベッドから降りて窓の外を見上げる……明け方くらいか?


今日で三日目。今日の夜19時には皆で船に乗り込み、魔道士の街エレンを目指すことになる。


この三日間、人間族以外の各国の王にMMを送っていた。エルミリアとも手を組んで邪悪なる者を打倒する。万が一の為に国の防備を整えてくれ……といった文面だ。一番遠いドワーフ族領には出発して少し経ってから届くだろう。


そのまま大部屋の中にある大樽のレバーを下げてグラスに水を注いで飲む。

一口目が喉を通り過ぎたのとほぼ同時にメルヴィンが目を覚ました。


「あれ…?あ、おはようございます」


「メルヴィンか、おはよう」どこか硬い表情のメルヴィン。彼は五大魔器の破壊魔法についての話をいつも気に掛けていて、不安が拭えないらしい。


「ついに今日なんですね……」


「あぁ、出発がな……」



――アグスティナ魔帝国外―18時過ぎ。


「みんな、揃ってるな?」好矢が点呼を取る。皺月の輝きは全員揃っている。怪光一閃も全員、エルミリアとアグスティナ四天王も全員集まったようだ。


「エルミリア、絶対に生きて戻ってこいよ」リーベルはそういうと皆が見てる中でエルミリアに口づけをした。


「ええ、約束するわ」


「ヨシュア、船の中で作戦会議をする。乗船したらそのまま私についてきて」


「分かった」


全員が船に乗り、各々の部屋に荷物を置くと中央船室へ向かった。



――中央船室。


中央に大きなテーブルが置かれており、そのテーブルには大きな世界地図が置かれていた。


「我々はこのアグスティナ魔帝国の港からこう進んでバルトロの街の港へ行く。そこからは陸路でエレンの街へ行く。異論のある者は?」エルミリアの発言に誰も異論は無いようだ。


「エレンの街に着いたらどうする?街中で戦うわけにはいかないだろ」ガブリエルの言葉にエルミリアは頷く。


「決戦の場はトーミヨにしようと思う。あの広大な土地で戦えれば周辺の被害も少なくて済むだろう」


「確かにトーミヨの広さなら問題はない…か……」


「だが、トーミヨの学生はどうする?巻き込めなんて命令しやがったら俺は従わないぞ」今度はレオが言う。


「そんな命令するわけないじゃない。アグスティナ軍の三分の一は人間族よ?大丈夫、学生は避難させるか間に合わなかった子たちは四天王が魔法で護るわ」



会話が一旦途切れたところで、トーミヨの簡易地図を出した好矢。この三日間を使って、少しずつ描いたものだ。

怪光一閃のメンバーや、ロサリオ、アウロラたちにも多少手伝ってもらった。


「エルミリア、学長は大体この学長室にいることが多い」といって学長室と書かれた場所を指差した。


「……なんで上級魔導語で書いてあるのかしら?」


「俺と沙羅は魔導語しか読めないからだよ……とにかく、この学長室に居た場合はどうする?」


「弱い攻撃で窓ガラスを割る。そこから学長室を見つめながら魔力を練って黙っていればいいわ」


「どういうことだ?」


魔法の詠唱やり方は、心の中で文章とイメージを固める。

心の中で描いている状態なので、外から見たら、ただ黙ってボーッとしているようにしか見えない。

だが、しばらくそうやってから、魔力を練って身体の外へ滲み出ているようにすれば、かなり強力な魔法を使おうと思っていると錯覚するはず。

エルミリアの作戦はこういうものだった。


「そこへ警戒したシルビオや邪悪なる者に五大魔器をみんなで構えるの」


「するとどうなるんだ?」好矢が聞く


「邪悪なる者が焦って出てくるはず。……自分を倒せる可能性がある物を消すためにね」


「なるほど……五大魔器は一つでも破壊されたらもう何も出来なくなるんだろ?」


「そう。だからこれは、ある一種の賭けね」


「……ところでよ、エルミリア」黙って聞いていたダグラスが口を開いた。


「何かしら?」


「五大魔器の破壊魔法は誰が使うんだ?一つの武器に力を収束させるわけだろ?」


「それは――」といってエルミリアが顔を見上げる。

その視線の先には、沙羅がいた。


「やっぱり、アタシなの?」


「サラ・キャリヤー……私の中で貴方だけどれほどの力量があるのか分かっていないけど、リーベルに次ぐくらいの強さはあるはず……」エルミリアはそう言った。


「悪いけど、四天王のリーベルよりは強いと思う」ハッキリと言う沙羅。


「……そう。そこまで言うなら、貴方がやりなさい」少し機嫌を悪くしたようで、冷たい言い方でエルミリアは返事をした。


わざわざそんな揉め事になるようなこと言うなよな……と好矢は思ったが、剣士として下に見られたのが気に食わなかったのだろう。

比べられた相手が、現代で世界最強と謂われている無双の剣神なのだ。と言われて、機嫌を損なうほどでもないとは思うが……。


「では、当日はそういうことで。ヨシュア、戦闘メンバーの編成を考えておいて。私とサミュエルはそれに従うから」


「あぁ、分かった」

好矢が返事をしたのを耳に入れると、エルミリアは多少の甘い香りを残して去って行った。


その後は、船室に残ったみんなで戦闘メンバー……というか役割分担の話をして解散になった。


ちなみに、戦闘に参加するメンバーのうち、五大魔器を扱える五人は、突撃部隊のようなものだ。

沙羅、メルヴィン、ダグラス、エルミリア、サミュエルの五人だ。そこへ、強力な戦力であるガリファリアを入れて、六人で突撃部隊になってもらう。


援護をする要員として、好矢、ロサリオ、そしてソフィナ、ガブリエル、アデラ、レオ、エリシア、ファティマの六人…怪光一閃の全員が。

突撃部隊が突撃した時の援護としては、さらにここへアウロラが入ってくる。援護部隊は全員トーミヨ出身で上手いことまとまった。

突撃部隊に、好矢や他のトーミヨ出身のメンバーを入れることを考えたが、メンバーのうち最後に卒業した情報が新しいサミュエルがいるし、メルヴィンも地図は記憶したそうなので、心配はなく、更に少人数の方が都合がいいのでメンバーはそのままにしておいた。


そして、退路の確保として、ダラリア、アンサ、エヴィルチャーを残していく。

また、他の学生や街への影響が出ないように、アグスティナ四天王の三人と連携をとって周辺を護ることになった。


それと忘れてはいけないことがもう一つ。

……万が一死人がでても、ゾンビにするなよ。とエヴィルチャーに念を押しておいた。エヴィルチャーは不服そうにしていたが、さすがに従ってくれるだろう。ここで、余計な揉め事を起こしたくはない。



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