番外話◆ロサリオ
界歴1619年6月30日――
魔道士の街エレンから南下した先にあるバルトロ森林……さらにそこを抜けた先にあるバルトロの町の刑務所。そこへ一人の少年が収容される。
首輪と手錠をかけられ、その二つは鎖で繋がれている状態だ。その首輪も手錠も抗魔法効果が付与されており、魔法による破壊は出来ない仕組みになっていた。
「囚人番号141番。お前はここだ。入れ!」刑務官に尻を蹴られ、およそ四畳ほどの広さの独房に入れられる……
刑務官曰く、取り調べ中ロサリオと言う名前のコイツは「俺のアデラちゃんをヨシュアが奪った」などと意味の分からない発言で埒が明かない。
初犯で被害者である、トール・ヨシュア、ガブリエル・グラスプール、レメディオス・デイモンの三名は全員命に別状はないらしい為、本人の反省が見られれば拘束時間を短くしてやってもいい……
といった判断が下されたのが今日。
ロサリオは無気力ながらも普通に大人しく指示に従って生活していたのが功を奏したのか、刑務官からもある程度信用され始めていた。
次に送られるのは共同房。共同房に入れられる囚人は、基本的に反省の色を認められた人たちであり、もうそろそろで釈放される人が入れる房である。
共同房に移す理由は、ずっと独りで生活をさせて罰を与えたので、次は社会復帰の為に人とのコミュニケーションを取れるようにする為だ。
共同房の人数は一部屋当たりおよそ5~10人ほどとされており、移された囚人はある程度の自由が許され、手錠はかけられたままであるものの首輪は外され、ある程度の日用品も購入出来るようになる。
ちなみに購入は刑務所の中で働かされて手に入る刑務所内のみで使える通貨を使って購入するのだ。
外の世界ではコインとして通貨は金属を使われているが、刑務所内では紙幣が扱われている。ちなみにその紙幣は釈放される時にコインと替えることが出来る。
そしてロサリオはそんな共同房へ移された時、ある一人のおじさんと知り合った。
名前をレリック・ディナスという。入浴時間が制限されるため、身体のどこかから臭ってくるおじさんだ。
彼は、大魔道士の息子として生まれ、将来を約束された存在だったのだが、周囲の重圧に耐えられず道を踏み外して盗賊になるという道を選んでしまった。
その結果、捕まってしまって現在に至る……とのことだ。
「おい、ロサリオ」
「……何か?」
「おめぇ、魔道士だろ?」
「……はぁ」
「何だその気迫の無い返事は……まぁいいや、コレ知ってるか?」
レリックは羊皮紙に書かれた文字を見せてきた。
羊皮紙には“魔法の火力を上げる技術”と書かれていた。
これは、自分の頭の中に魔法陣を作った際に、その魔法陣にとある工夫をすることで魔法の火力を大幅に上げることが出来る技術であるという。
普通に共通語と魔導語と上級魔導語を織り交ぜて書いてあるのだが、何故か上級魔導語が苦手なロサリオにも読めた。
実は、羊皮紙へ文字を書く際に魔力を消費しながら書くことで、難しい文章も相手に理解させることが出来るようだ。
ちなみにこの技術を記すのに使った魔力は12000だという。規格外の数字に度肝を抜かれるロサリオ。
読んで分かったが、口で説明するのが難しいことが分かった。内蔵の中にある魔力を物理的に掴む感覚なんて絵で分かるはずもないし、体内に取り込まれていない大気中のマナを魔法の発動条件とは無関係にコントロールするなんて普通の人間は思い付かない。
一般魔法は大気中のマナに働きかけて打ち出すのだが、所謂化学反応と言っても良いようなものを、反応する物理現象が起きていないのに起こすようなものだ。コツを教えられても中々出来ない。
ただ、何でこのおじさんはそれを教えてくれたのか……?
「おめえは俺と同じ匂いがする」とか言っていたが、何のことかサッパリ分からなかった。
その羊皮紙をもらって数日後に釈放されたロサリオ。
今更トーミヨに戻るわけにもいかないし、どこかで生計を立てるしかないな……と考えていた。
釈放する日は朝から30分という十分な時間のシャワー時間が与えられ、服もちゃんと捕まった時の物を返してもらえる。
それに着替えて脱衣所を出ると刑務官が立っていた。初日に尻を蹴ってきたあの刑務官だ。
「今日からお前は囚人番号141番ではなく、ただのロサリオ・デイルだ」
そう言って学生時代の装備一式を持ってロサリオは旅立った。
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それからしばらく色んな地域を旅してきた。魔道士ギルドに登録して、老若男女問わず色んな人を助けたりもした。
助けた何人かの若い女性から求愛もされたが、全て断ってきた。アデラちゃんと比べたらこの世の女に魅力なんてない!と考えていたからだ。
バルトロから旅して、バルトロ森林を抜けて、エレンの街から東……バルトロ森林エレン側入り口から東北東方面にずっと進んだ先にあるのがガトスの町、そして更に東に行くと魔族領のラエル村がある。
ガトスの町へ立ち寄った時は、放浪魔道士ヨシュアとエンテルの話を聞いた。
エンテルが誰なのか気になったが、アイツも卒業せず放浪魔道士になったんだ…と知ってほくそ笑んだりした。だが、奴に会うのは嫌だったので、ガトスの町では食料品などを適当に買ってすぐに出た。
その後、サヴァール王国の王都ロスマや、イストリアテラス共和国の王都メガロスである程度活躍すると、指名依頼が入るようになってきた。
主にやっていたのは魔物狩りだが、その日は迷子を助けてあげてほしい……だった。
同じく巨人族領の町タイタスへ立ち寄った時に指名で受けた依頼だが、木こりの男性が近隣の林で小さい男の子とはぐれてしまったということでの依頼だった。
ただ、林へ得意属性が火属性の放浪魔道士を行かせるとは何を考えているんだと思ったが、仕方がないので行くことにした。
何とか見つけることが出来て子供を親の元へ帰してあげたら、かなり喜んでくれた。そんな生活を続けていくうちにトーミヨでの出来事なんてすっかり忘れていた。
いつしかロサリオは、強い魔道士になってエレンに帰ってアデラちゃんと結婚するんだ!という考えに変わっていた。
好かれなかったのは、魔道士としての力量が足りなかったからだと勘違いをしていただけなのだが、それが結果良い方向に傾いた。
そして、タイタスの街でベリウム街道を抜けた先に龍の渓谷という場所があると聞いたロサリオは、腕試し感覚で行ってみることにした。
今まで行ってきた森や洞窟とは空気感が違う……そこだけ異様な雰囲気を発していた。意を決して入り、しばらく進んで行くと洞窟を発見した。
「……洞窟か。」
そして、その洞窟をさらに進むと、俺とアデラちゃんは運命の再開を果たすのだった……!
……なんてロマンチックな事が起こりそうな光景は目の前になく、アデラちゃんと、レオ・ヒースが魔族との戦いの真っ最中だということが分かった。
……仕方がない、助けてやるか。
(本編75話に続く)
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