第百六十六話◆邪悪なる者の正体
「邪悪なる者の方とも最初は協力しようとしていたの。理由は悪しき者と同じく世界を分けてくださると言ったから。でも……邪悪なる者の本当の目的はね……」
――バンッ!!
エルミリアが言い掛けたところで、玉座の間へ通じる大扉を思い切り開く一人の青年。
顔立ちは非常に整っており、エルミリアと同じ青白い肌をしており、こめかみからは、金色に光る山羊の角が生えており、背中には悪魔のような翼が生えていた。
「「!?」」好矢とソフィナは驚くが、エルミリアを筆頭に四天王のオルテガとレディアに関しては特に気にしていない様子だった。
「エルミリア!悪しき者は!?」
「驚かせないで、リーベル。……悪しき者がどうかしたの?」
「この場に悪しき者がいるだろ?」リーベルという男性はそう続けた。
今現在玉座の間にいるのは、好矢、ソフィナ、エルミリア、オルテガ、レディア、そしてリーベルの六人だ。悪しき者などいない。
「……リーベル、貴方分かるの?」エルミリアは聞いた。
「あぁ……」リーベルはそう言って、好矢から順番にその場にいる人間の顔を眺めていった。
一通り見終わったところで、リーベルはソフィナに目を留めて彼女に近付いた。
「な、なんでしょう……?」急に近付いてきたリーベルに警戒しながら一歩下がるソフィナ。
リーベルはそんなソフィナの様子を気にも留めずに彼女の前で片膝をついた。
「お初にお目に掛かります。俺はアグスティナ四天王一番手、無双の剣神リーベル・エルゴーンと申します。貴女のお名前は……?」
「え……あ、ソフィナ・ヨエル……です……」
(コイツがアグスティナ四天王の一番手か……相当な手練だろう……ひしひしと伝わってくる……)リーベルを眺めてそう感じる好矢。
驚いたまま固まっているソフィナの様子をみてエルミリアがリーベルに言う。
「リーベル、まさか今回の悪しき者はそこのソフィナ・ヨエルだとでも?」
「その通りだ。エルミリア、早急にソフィナ・ヨエルを我々の仲間にすべきだ」
「……いえ、私はハンターチーム怪光一閃のリーダーですので……」
「ソフィナさん、貴女の中にいる悪しき者は我々の味方です。どうかご理解を」リーベルは既に答えが出たかのような態度で接する。その態度が少し気に食わない好矢は発言した。
「…やめてやれよ。困ってるだろ」好矢がそう言うと、目線だけ向けてくるリーベル。
「キミは?」
「……俺は、ハンターチーム皺月の輝きのリーダー、刀利好矢だ」
「そうか……お前がトール・ヨシュアか……」
「……リーベル、貴方が言いたいことは分かったけれど、私は今謁見中なの。後でいいかしら?」エルミリアは少し厳しい口調で言った。
「……そうだったな……。すまない、エルミリア。後で俺の部屋に来い」
「えぇ」
それだけ言うとリーベルは玉座の間を出て行った。
「あの……」ようやく動き出したソフィナがエルミリアに声を掛ける。
「何かしら?」
「私……悪しき者……なんですか……?」
「おそらく間違いないわ。リーベルは魔力を測る能力が非常に優れているの……その彼が言ったということは、ほぼ確定で貴方の中に悪しき者がいるということよ」
「そんな……」ソフィナはその場にペタリと座り込んでしまった。
学生の時から、好矢くんを助けるために強くなろうとし続けていたソフィナ。その力を悪しき者に利用されてしまう……。
ソフィナにとってはかなり辛い事実であった。
「…………」そんなソフィナの様子を少し眺めてから、好矢の方へ視線を移すエルミリア。その様子を察して好矢が話し始める。
「……一つ質問だが、どうしてさっきのリーベルという男はお前に敬語を使わなかったんだ?」好矢が素直な疑問をぶつけてみると意外な一言が聞こえた。
「……恋人だもの」エルミリアは確かにそう言った。
「えっ……。つまり、リーベル・エルゴーンは王族の一員……?」
「えぇ、私が必死にアプローチしてようやく…ね。彼は王という存在になるつもりは無いそうだけど……」
龍神族に並ぶ最強の種族と言われている上級魔族でも、やはりそういった感情はあるのだろう。
「コホン……話の続きをしよう。エルミリア、邪悪なる者の本当の目的は何なんだ?」好矢が話を戻す。
「そういえばその話の途中だったわね……。邪悪なる者の本当の目的は、この世界の全てを自分の物にして、人間族と上級魔族のみの世界を作ること……」
「他の種族は………滅ぼすってことか?」
「そうよ」
「それって……多少なりとも利害は一致してないか?」
「していないわ。飽くまで私の望みは一部分でも世界を手に入れること。邪悪なる者に世界を渡して、他の種族を滅ぼすつもりはないわ」
エルミリアがそこまで言うと、ソフィナが口を開いた。
「……よくぞ言った。鮮血の女帝エルミリアよ……」
「えっ……!?」驚いてソフィナの方を見る好矢。オルテガもレディアも驚いた表情でソフィナを見つめる。
そのソフィナの瞳は燃えるような赤で光っていた……
「一時的に表に人格を現すことにした……。トール・ヨシュアよ、心配するな。この場でお前と戦おうとも、ソフィナとやらの身体をそのまま乗っ取ろうとも考えていない」
そう言って不敵に笑うソフィナ……いや、目の前にいるのは悪しき者だ。
「……何のつもりだ?」警戒をして、武器にいつでも手を掛けられるような体勢を取ってから聞いた。しかし悪しき者はそれを全く気にしない様子でエルミリアに声を掛けた。
「……エルミリア」
「はっ!」彼女は玉座からバッと立ち上がり、ソフィナの側へ行って片膝を付いた。
「……貴様は鮮血の女帝エルミリアとして、このトール・ヨシュアに協力して邪悪なる者を封印するのだ…良いな?」
「「「!?」」」好矢、四天王の二人はかなり驚いた様子だ。
「そ、それは……」
「どうした?出来んのか?」
「いえ……ですがパラディース様……!」
(パラディース……ドイツ語か……?)好矢は頭の中で思案する…。
「原始魔導語が使われた名前…ですか……知らなかった」レディアが呟くように言った。
「原始魔導語って……ドイツ語なのか……?」好矢が続けて言った。
「ドイツ語?」
「俺たちがいた世界にあった、俺がいた国とは別の国の言葉だ」本来は原子魔導語=ドイツ語ではなく、色んな国の言葉を織り交ぜて使われているが、今回使われた“パラディース”という言葉はドイツ語である。
「そうなの?」レディアは不思議そうにしている。
「あぁ……パラディースってのはドイツ語で楽園って意味だ」医学生時代にドイツ語を勉強していた好矢にはしっかりと分かった。
「なるほど…楽園……上級魔族にとっては悪しき者の存在は楽園を築く為の象徴だな……」と、オルテガが納得したように言った。
「それはそうと、パラディース……」
「どうした?」
「俺たち皺月の輝きは、邪悪なる者を封印する為に結成されたチームじゃない……邪悪なる者を退治する為に結成されたチームなんだ」
「ヤツを退治…だと……!?」
「あぁ。それの手助けをしてくれるっていうのなら……エルミリア。お前と協力することも厭わない」
「……トール・ヨシュア……貴方と利害が一致した……と考えれば良いかしら?」エルミリアは立ち上がってそう聞いてきた。
「あぁ……別に俺のチームに一時的とはいえ所属しろとは言わない。ただ、邪悪なる者を倒すのを手伝ってもらう。パラディースやお前との戦いは休戦……ということでな」
「私はそれでいいわ。……貴方たちは?」エルミリアは、オルテガ、レディアにも目を向けて言った。
「俺はアンタを裏切った身だが……共闘するというのなら信用しようと思う」
「エルミリア様。私も異論はございません。ですが……本当に人間族と手を組むおつもりで?」レディアは人間嫌いのエルミリアに対して聞いてみた。
本当にそんなつもりがあるのだろうか?と。人間族といえば、一番憎んでいる人種族だ。そんな彼らと共闘しようと考えるだろうか?
しかし、答えは至ってシンプルなものだった――。
「もちろんよ。いずれは我々上級魔族の物になるこの世界……みすみす邪悪なる者に渡してやるつもりはない!」
「……話は決まったか?ならば俺たちは一度仲間の所へ戻る」
「リーベルとサイラには私から伝えておくわ」レディアはそう言って、失礼します!とだけ言って玉座の間から出て行った。
その後を続くように玉座の間から出る好矢とオルテガ。
エルミリア城―廊下――。
好矢とオルテガが二人で並んで話している。
「…おい、ヨシュア。本気でエルミリアたちと組むつもりか?」
「いや、まだ決めていない」
「どういうことだ?」
「エルミリアがどういう人物なのかは解らないが、パラディースの命令とはいえ、まだ嘘をついている可能性がある……そこで、アンサに頼もうと思う」
「真実の眼か……!」納得したように言った。
「そうだ。そこでアンサから嘘だと言われれば、仲間に引き入れる必要はない」
「……そういう意味でも、鳥人族に仲間になってもらえて本当に助かったよな」
「あぁ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます