第百六十四話◆従者サミュエルの部下

――アグスティナ行の船内。

その船は出向して一日が経過していた。


「なぁ、ソフィナ。どうして皺月の輝きに同行しているんだ?」


「少し気になることがあってな……魔女帝エルミリアに確認したいことがあって謁見を申し込むためだ」


「ヨシュアたちとは違う理由でか?」


「……そうだ、好矢くん。エルミリアには何を言うつもりなんだ?」


「あぁ、邪悪なる者を倒すまで、大人しくしていてくれって頼みに行くんだ」


「……そんな上手く行かないと思うけどね」アウロラは言った。


「アデラちゃん、船苦手なのか?」ロサリオが聞いている。


「うん、ちょっと……気持ち悪い……」本当に気分が悪そうで、アデラは話し相手がロサリオだからと気にしていられる余裕などなかった。


「おい、ガブリエル!アデラちゃんの背中をさすってやれよ!お前彼氏だろうが!」ロサリオはガブリエルに注意した。


「お!?…おう……大丈夫か、アデラ」ガブリエルはアデラの背中を擦る。


「あ、うん……もし吐きそうになったら言うから甲板まで連れて行ってくれる…?……ごめん」


「気にしなくていいさアデラ。……それより、ロサリオ」


「ん?」


「お前……アデラちゃんが気持ち悪いなら擦ってあげるよ!とか言いそうなもんだが、一体どうしたんだ?」


「……何で彼氏であるお前がいるのに、俺がアデラちゃんの背中を擦るんだ?」不思議そうに聞き返すロサリオ。


「………………おい、トール。ロサリオのヤツ頭でも打ったのか?」本当に心配そうに言うガブリエル。


「あぁ、打った」ニヤニヤしながら答える好矢。


「打ってねぇよッ!」と、ツッコミを入れるロサリオ。


「……お前ら仲良いな」レオが二人の様子を見て笑う。


「まぁ……色々あったからな。ヨシュアがどう思ってるかは知らねぇけど、俺はヨシュアの友達だと思ってる」と、ロサリオ。


「奇遇だな。俺も同じ意見だよ」笑いながらそういう好矢。仲間と話してはいるが、既に船酔いという攻撃にノックダウンしている沙羅の背中をずっと擦っていた。




――アグスティナ魔帝国軍詰め所


「……諸君!今日集まってもらったのは他でもない!こちらの四天王従者サミュエル・ラングドンに一人部下を付けることになった!」


明らかにザワつく詰め所……

その場に居る全員は、サミュエルが相当な実力者なのは知っていたが、どれほどの使い手なのか……それを知っているのはビリー・レウティスただ一人だった。

ビリー・レウティス……金髪に緑のローブを来た青年は、サミュエルと同じ入軍試験の第一班の一人だったからだ。


つまり、第一班の100名のうち、合格したのはサミュエルとビリーだけだった。

他の班でも合格者は大量にいるため、実力者はもっといるわけだが……


「……サミュエルの部下になろうという者はいるか?」


「あの、質問よろしいでしょうか……?」一人が手を挙げる。知らない魔導兵さんだ。


「なんだ?」


「従者サミュエルさんの部下になった場合の仕事内容は何ですか?」


「…仕事内容は、四天王レディア様及び、従者サミュエルの命令を確実にこなすことだ。……命令がない日は基本的に詰め所の皆と魔法の訓練をするか、サミュエルと一緒に魔法の訓練をすることになる。給料はおよそ三倍になる」


!!


やはりお金が必要だからアグスティナ魔帝国軍に入軍したのだろう……皆の目の色が変わった。


「俺やります!!」「私がッ!!」「何人までですか!?」


「…………」若干引き気味のサミュエル。……そんな人達を見渡すと、ビリーがいた。


「あっ……」ビリーと目が合うサミュエル。


「……やってみませんか?」ビリーに向かって笑いかけるサミュエル。


「……俺で…良いんですか?」


「はい、僕は貴方を指名します」サミュエルはそう言うと……


「……やらせてください」彼はがっつきもせず、頭を深々と下げて、ただポツリとそう言った。



「……あの、どちらへ行かれているんですか?」廊下を付いてくるビリーに聞かれる。


「レディア様からキミを部下の為の部屋へ案内するよう頼まれていたんです。後から四天王の部屋へ一人で行って挨拶してきてください」


「ひ、一人で…ですか」


「うん、僕はレディア様から頼まれている仕事を片付けないといけないからね。サミュエル・ラングドンの推薦ですって言えば多分大丈夫だと思います」


ビリーは、大丈夫なわけないだろ!と思ってはいたが、サミュエルの言うとおりにすることにした。



「……入れ」扉の奥から声がした。


「失礼致します」


部屋へ入り挨拶をする。

「……ビリー・レウティスと申します。今日からサミュエル・ラングドンの部下としてお世話になります」


「そう……部下になりたがっていた人は、他にもいたか?」異様な威圧感を持つ彼女だが、ここで怖気づいてはいられない!


「はい、全員挙手してやります!と……」


「お前はどうやって選ばれた?」


「サミュエル・ラングドンからの推薦です」


「……そうか。それなら貴様を信用することにしよう。だがもし、私とサミュエルに不利益を与えた場合は生命を以って償ってもらう。その覚悟は良いな?」


「……はっ!」バッと敬礼をするビリー。


「……うむ分かった。下がれ」


「失礼致します!」



――魔法訓練所。


「こ、怖いですね…レディア様……」


「そうですか?物凄くお優しい方ですよ。……じゃ、魔法訓練付き合ってもらいますね!」


サミュエルとビリーは一緒に魔法訓練をして、仲も良くなり始めた。



その一週間半後…………


「……ビリー、キミに命令を与える!」


「はっ!」


「帝都エルミリアの入り口で、ハンターチーム皺月の輝きに会い、エルミリア城へ案内してくるんだ。出来るね?」サミュエルからの初の命令だった。


「皺月の輝き……あの新大陸ハルティートを発見し、バハムートを対峙した伝説のハンターチームですか!?」


「……知ってるんだ?そこのリーダー、トール・ヨシュアさんへ、サミュエル・ラングドンがエルミリア城へ招待すると言っていると伝えて」


「はっ!かしこまりました!!」そう言うと、パパッと簡単な準備を済ませ、エルミリア城を出て行くビリー。



「ようやく帝都エルミリアへ着いたぞ」好矢は後ろに10人の仲間と怪光一閃の6人…つまり好矢を含めた17人が、帝都エルミリアの門の前へ立った。


帝都の門にはいつものように門番兵がいるのだが、その中に人間族の男が居た。


「……お前たちは皺月の輝き御一行か?」


「あぁ、キミは?」


「俺はアグスティナ魔帝国軍のビリー・レウティスと申す。サミュエル様の命令だ、ご同行願おう」


「……サミュエルの?」


「サミュエル様を知っているのか…?」


「あぁ……随分と偉くなったもんだな、アイツ……」レオが笑う。


「何がおかしい!?」


「……案内してもらおうか」好矢はとりあえずビリーにそう言って案内してもらうことにした。


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