第百六十三話◆新しい魔導兵

―翌朝―アグスティナ魔帝国軍陸上魔導部隊詰め所。


そこには、アグスティナ魔帝国軍の入軍試験に合格した若い魔導兵たちが集まっていた。


「おはよう、見事入軍した新たな魔導兵諸君!私がアグスティナ魔帝国軍、陸上魔導部隊長代理ルシア・オリヴィエ二尉にいだ!よろしく!」

キリッとした表情で挨拶をする部隊長代理。


「「「はっ!よろしくお願い申し上げます!!」」」新しい魔導兵たちは一斉に敬礼と共に挨拶をする。


「ここは、これから君たちが住む詰め所だ。部屋は四人一部屋で、既に組分けはされている。一度解散するから、あそこに張り出されている紙から、自分の名前を探して指定の番号の部屋に荷物を置いてここへ戻って来い。解散!」

そう言ってルシアは壁に張り出されている、詰め所の案内地図を指差した。そこには合格者の名前と番号が書かれている。


ゾロゾロとその地図へ集まり、名前を探す魔導兵たち…。


「お…あった!これが俺の部屋か……!」「私は……あれ…?……あった!」

各々が自分の名前と番号を見付け、指定された番号の部屋へ行く魔導兵たち。


そんな中、一人だけいくら探しても自分の名前も番号も無い魔導兵がいた。

「えっと……?あれ?何で無いんだ……?」

再度、探していく。名前は五十音順に並んでいるので、自分の名前の行を探すが……全く無い。一度ルシア二尉に確認しないと。手違いで合格通知が来たのだろうか……?

他の皆は既に自分の部屋の方へ向かった。不安に駆り立てられ震えそうになる足をパシッと叩き、ルシア二尉の元へ歩いた。


「あの……」


「なんだ?早く部屋へ行け」


「僕の名前が無いんですが……」


「何……?」ルシアは案内地図の前まで着いてから振り向き、後ろを付いて来た魔導兵に声を掛けた。


「貴様、名前は?」


「サミュエル・ラングドンです」


「……サミュエル?」


「はい」


「……そうか、こっちへ来てしまったのか…」ルシアがそう言ったところで、二人ほど自分の部屋に荷物を置いた魔導兵が戻って来た。


「あぁ、ちょうど良かった。貴様ら二人に他の者へ伝言を頼む」


「はっ!」「なんなりと!」


「うむ。……私は少しの間席を外す。それまで自由にしてくれていて構わん。そうだな……17時半になったら再びここへ戻って来るように。伝言頼むぞ」

ルシアは自分が着けている腕時計を見ながらそう言った。


「「承知いたしました!」」二人の魔導兵は敬礼して、伝言の為にその場で待機した。


「…よし、サミュエル。私に付いて来い」

「はっ!」


……自分たちと同じ新人の魔導兵を連れてどこかへ行ってしまった自分たちの上官ルシア。


「アイツ、何なんだ……?」


「さぁ……?」



――エルミリア城―廊下。

ルシアとサミュエルが並んで歩いている。


「……あの、どこへ連れて行かれるんですか?」


「あぁ…追い出したりはしないから安心してほしい。まずはお前の直属の上官に挨拶をさせる」


「は、はぁ……」ルシアの謎の返答に戸惑うサミュエル。


しばらく歩いていくと、扉があった。ガチャリとその扉を開けると、同じく廊下が続いていたのだが、廊下の床から装飾まで全てが違った。

最初は紫色の床だったのだが、扉から先は左右の端に赤いラインが入り、真ん中は白い大理石の廊下だった。


その廊下を少し歩くと、綺羅びやかな黄色い木製の扉の前へ来た。扉には☆が三つ書いてあった。その扉を四回ノックする。


「……はい」扉の奥から女性の声が聞こえた。


「…ルシア・オリヴィエ陸上魔導部隊二尉でございます。サミュエル・ラングドンを連れて参りました!」


「……入れ」扉の奥から再び女性の声が聞こえた。


ガチャリと扉を開く。

「失礼致します!」


「……失礼します!」サミュエルも挨拶をしてその扉へ入る。奥には一人用のソファに座って足を組みながら本を読んでいた女性……アグスティナ四天王のレディアがいた。

彼女は顔を上げて涼しい顔で言った。

「……ルシアよ、随分と待たせたな?」


「お待たせしてしまい、大変申し訳ございません!!」バッと頭を下げるルシア。


「え、えっと……」サミュエルが戸惑う。


「サミュエル・ラングドン」ルシアから視線をずらし、サミュエルを見据えるレディア。


「はっ!」


「そこへ座れ」レディアは足を伸ばして自分の向かい側にある二人用のソファを示す。


「…失礼致します」サミュエルはスタスタと歩き、近くの床に荷物を置き、ソファへ座る。サミュエルが座った直後レディアは話し始めた。


「サミュエル。貴様、入軍合格通知に指定された場所へ来なかったが、どういうつもりだ?」レディアは見たこともない厳しい表情で言った。


「……はっ……入軍合格通知には、魔導兵詰め所へ行くように書かれておりました!」


「何……?合格通知を見せてみろ」レディアは手を出す。


「……こちらです」合格通知を懐から出すサミュエル。


「……本当に指定場所に魔導兵詰め所と書かれているな……ルシア、説明してもらおうか」ギロッとルシアを睨むレディア。


「はっ!申し訳ございません!私のミスです!!」再び頭をバッと下げるルシア。


「……それは本当か?貴様は部隊長代理だろう?ジェラルドは何と言っていた?」


「……失礼いたしました。ジェラルド隊長の指示通りでございます……」頭を下げたまま言うルシア。


「ルシア、貴様は前から上官の落ち度を自分の責任だと言って謝罪する節がある。……貴様が二尉で留まっているのもそれが理由だ……否定出来るものは否定しろ」


「はっ…失礼いたしました!」


「……もうよい、下がれ」レディアはそう言うと、足を組み替えた。


「…失礼します!」ルシアはそう言って扉から出て行った。


…………数秒の間、扉を見つめるレディア。


「はぁ~……」そして大きくため息をつくレディア。


「あの……」


「ごめんね、サミュエルくん。上の立場になるとああいう接し方をしなければならないのよ……」


「あの…余計な事をお伺いするようですが……ジェラルド隊長にはどういった罰を与えるおつもりで……?」


「アッハハ!…良いわよ、二人でいる時くらいいつも通りに話しても!」急に笑い出すレディア。


「あ、すみません」


「ジェラルドね……どうしようかな」


「あの…僕がレディアさんへ挨拶するのが遅れただけですので、穏便に……」


「……アンタがそう言うなら、注意だけで済ませるわ」レディアは確かにそう言った。仲は良くなったと思ってはいたが、その返答は予想外だった。

そしてレディアは続ける「サミュエルくんの配属先はアグスティナ四天王三番手であるこの私、レディア・ガラガスの従者よ。部屋は私の部屋の向かいの赤い扉。荷物をそこへ置いたらまたいらっしゃい」笑顔でそういうレディア。


「…三番手になったんですか?」


「うん、オルテガが裏切ったからね……今は四天王って呼んでるけど、三人しかいないわ。相応の実力のヤツがいないから」


「そうなんですね……」自分が情報を手に入れる事となった、アグスティナ四天王になった夢と若干の違いがあった。


「ほら、とにかく荷物を置いてらっしゃいな」


サミュエルは立ち上がると敬礼して「失礼します!」と言って、部屋から出て行く。


レディアは部屋で一人になると呟いた。

「やっと会えたね……」


――従者の部屋。


サミュエルは自分の部屋へ入った瞬間絶句した。

エレンの街で住んでいた自分の家の三倍以上の広さがあるのだ。


「えっ……ここに僕一人で……?」


部屋は全体的に白と赤を基調としており、床は赤、壁は全面が白だった。

ふかふかの白いセミダブルベッド、大きな勉強机のようなものに、ちょうどいい高さのイス。

部屋の中心には、二人掛けのソファが向かい合わせにあり、その真中にガラスで出来た美しいテーブルがあった。部屋には入口とは別で扉があり、そこにはお手洗いとシャワー室があった。


予想外の超高待遇に戸惑うサミュエル……。


「っと、早く戻らないと!」サミュエルは自分の荷物をソファの上に置くと部屋を出てレディアの部屋の扉の前で四回ノックをした。


「……サミュエルか?」


「はっ!サミュエル・ラングドンでございます!」誰が聞いているか分からないので、扉の前ではしっかりと挨拶をする。


「入れ」 「失礼致します!」


……扉を閉めると、レディアは目の前にいた。


「……レディアさん?」


「これから、よろしくね!」手を出して握手を求めてきた。


「あ……よろしくお願いします」レディアと握手を交わすサミュエル。


そんな新しい魔導兵を向かい入れたその日……好矢たちは港町からアグスティナ魔帝国へ行くための船に乗り込んだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る