第百五十四話◆閉鎖された空間で

「うそ……!」唖然とする周囲……


その間も天から氷の矢は振り続けている……


「わ、私が皆さんを守ります!」ダラリアが名乗りを挙げ、皆よりも上に飛んだ!

そして、自身が構える大盾をそのまま上に構える!


「スキル魔法…発動!!」ダラリアはそう叫ぶと、高速移動を始めた!


まさかとは思うが……あの高速移動と飛行能力で降り注いでいる無数の氷の矢を全て防ぎ切ろうとしているわけではないよな……?

そう思ったが、そんな事を聞いて時間を無駄にするわけにはいかなかった。




「テメェ……!よくもメルヴィンをやりやがったな……!!」ダグラスも自分も食われてしまうという恐怖を感じながらも、怒りに身体を震わせる……

「おい、聞けミョルニル」


【なんだ】


「お前、もっと強力な電撃は出せるか?」


【出せないことは無いが……お前の身体が耐えられないだろう】


「ミョルニル!黙って俺の言うことを聞けッ!!」


【!?……】ミョルニルの驚く息遣いが頭に響く……そして意を決したようにミョルニルは言った。

【……解った】


それだけ聞こえると、ダグラスはハンマーを上に構える――すると、ミョルニルとダグラスを中心に周囲のマナが電気へと変わりバリバリと光だした。


「ヨシュア!俺はこれから奴に必殺の一撃を食らわせる!力を溜める為に一旦戦闘を離れるぞ」

ダグラスはそう言ってフワリと後方に下がった。


「わかった!」好矢はそう返し、戦闘を続行した。



ダグラスがハンマーを構えて魔力を集中し始めたその時――


「うっ…!」ゆっくりと目を覚ますメルヴィン。


「……目を覚ましおったか」目を開けると、そう遠くない場所に男性がいた。


「……!!」メルヴィンは直ちに詠唱を始める。


「ま、待てッ!落ち着くんじゃ!」

目の前にいたのは、エヴィルチャー・グロリアス。その人だった。


「な、何なんですか、ここは?」メルヴィンはエヴィルチャーを警戒したまま質問する。


「恐らくじゃが……バハムートの体内じゃ」


「えっ……」エヴィルチャーのその言葉を聞いて、意識を失う直前の記憶を手繰り寄せていく……

……ここで目を覚ます直前、バハムートが大口を開けて目の前にいた……


…だとするならば近くに…………やっぱりいた!


メルヴィンは辺りを見回すと、少し離れた場所にオルテガがいた。オルテガは自身の斧を握って倒れていた。


「上級魔族とエルフが手を組んでいるとは、外の世界は色々時代が変わったようじゃの……」翼を生やしているオルテガを見てエヴィルチャーはそう言った。


「オルテガさんは上級魔族ではありませんよ。……それに僕はサラさんの英雄譚の前の戦争については何も知りません」


「……そうか」


それだけ言うと、エヴィルチャーはオルテガの所へ歩いた。


「な、何をするつもりですか!?」

大きな声を上げるメルヴィン。


「ワシは男に興味はないわ!目を覚ましてやるだけじゃ!」


「??」


ついさっきまで敵対していたというのに、何故助けてくれるのか?

ちょっと考えたが、冷静に考えれば当たり前のことだった。誰も助けが来ない以上、自分たちでバハムートの体内から抜け出すしかない……!


「発動!」エヴィルチャーはそう言って、手の平からバケツに半分ほどの量の水を放出した!


バシャァッ!とオルテガの顔に水を掛ける……

その光景を見て、メルヴィンは自分の顔と服が濡れていることに気が付いた。


「……うっ!ゴホッ…!」オルテガが咳き込みを始めると、エヴィルチャーはダダダッと逃げて様子を伺った。

オルテガは物理型の戦士だ。詠唱する前に斧で攻撃されると思ったのだろう。


「ここは……?」オルテガが上体を起こして辺りを見回す。


「目を覚ましたようですね」メルヴィンはそう言ってオルテガへ近付いていく。


「メルヴィン!無事だったか!?……ここはどこなんだ?」


そこまでオルテガが言うと、後ろにいたエヴィルチャーが発言した。


「恐らくバハムートの体内じゃ」その声に反応して後ろを向くオルテガ。


「……!貴様は……!!」オルテガはすぐに立ち上がり、斧を構えた!


「待ってください!」メルヴィンに止められる。


「何だ!」


「エヴィルチャーはボクとオルテガさんの目を覚まさせてくれたんです!話だけでも聞いてあげてください!」


「何だと…!?」少し怪しく思い、オルテガはメルヴィンの顔をジッと見つめる……


「な、何ですか…?」不安そうな顔をするメルヴィン。

……目の色は赤くない。大丈夫だ……。


エヴィルチャーに既に操られている状況かと勘違いしたのだ。


オルテガは精神操作の魔法については詳しくない為、目の色だけ確認すれば問題ないと思ったが、

そもそも精神操作の魔法は一部のアンデッドにしか使用できない為、エヴィルチャーに使用することは出来ない。

……服装だけはアンデッドに近い風貌だが。



「落ち着いてくれたかの……まずはお主たちの名前をもう一度教えてくれ」


「メルヴィン・バートです」


「オルテガだ。……オルテガ・レイラッハ」


「なるほど…ワシの名前は――」


「エヴィルチャーだろ?クソジジイ」オルテガはそう言うと、斧をしまった。


「クソジ…!……まぁ良い……お主らに提案が一つあるんじゃ」


「何だよ?」


「ワシとお主等とで、思い切り魔法を打ち込み、外へ脱出しようと思うんじゃ!」


「はぁ?」オルテガは驚くような声をあげたが、でなければボクたちを助けるわけがないと最初から気付いていたメルヴィン。


「オルテガさん、この話乗ってみませんか?」


「正気かよお前!また何か攻撃されたら今度こそ死ぬんだぞ!?もしエヴィルチャーが既に外へ出る方法を確立していれば……!!」


「でも、ボクたちを殺す気なら、気を失っている間に殺しているはずです…!」


「そ、そうかもしれないがな……」


「外へ出る方法は確立していないが、出られる可能性はあるんじゃ。…それをお主らに話せば良いか?」


「本当ですか!?」


「……正直に全て話そう。元々ワシが目を覚ました時、お主等を放っといて外へ出る方法を色々試した…ワシだけ助かろうとしてな。そして外へ出られるかもしれないと気付いたが、ワシだけでは魔力が足りないんじゃ」


「……それで俺たちか?」


「その通りじゃ……」


「もちろん、ボクもこんな奴の言うことに従うのは腹立たしいですが……手伝ってみる価値はあると思うんです」


「……。で、方法は?」メルヴィンの言葉に無言で頷き、エヴィルチャーへ向き直って質問をする。


「…あれを見るんじゃ」エヴィルチャーはそう言って上を指差した。

指を差した先には、回りと同じ肉の壁だが、そこだけ小さく穴が開いていた……。


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