第百四十九話◆エヴィルチャーの秘策

「そう……ま、残念だけどアンタのゾンビはアタシ達が全滅させるから」沙羅はそう言うとコールブランドを構えた。


「ふん…!出来るものならやってみろ!!……行け、ゾンビ達よ!!」沙羅からの発言を合図にゾンビへ指示を出すエヴィルチャー。



「お前たち、後方は任せたぞ!」好矢の言葉はアウロラとロサリオに向けられており、残りの仲間は一斉にゾンビへ駆け出した!


「後方は任せて!‥ロサリオ、行きましょ!」アウロラはそう言うと、いつの間にか後ろから歩いてやって来ていたゾンビ達へ魔法を繰り出す。

ゾンビは魔力探知では発見出来ないが、動物的気配は発している為、それを察知して存在に気が付いていたようだ。


「二人とも、悪ぃが任せたぞ!……オラァッ!!」ダグラスは後方の二人に声を掛け、ミョルニルを構えてゾンビの身体を丸ごと潰す!


「ハァッ!」ガリファリアは発声と共にドラゴンビームをゾンビの群れに放つ。


「えいっ!…えぇいっ!!」ダラリアは片手に持った斧で片っ端から両断していく。小柄な女性が巨大な斧を振るっている姿は圧巻だが、その迫力を除けば武器は違えど、ただのモグラ叩きのように見える。


「空からの攻撃は対処出来まい!!」アンサは叫びながら急降下で、頭部を鉤爪で抉り取り、空中で潰して地面に落とす!かなりグロい戦い方をしていた。


「オラオラオラァッ!!」オルテガは目にも留まらぬ素早さで両手で器用に斧を操り、どんどんゾンビの数を減らしている。…一見、ただ素早く振り回しているだけに見えるが、的確にゾンビの頭部を両断していた。たまに狙いが逸れて胴体を両断するものの、その場合はすぐさま狙って頭部に攻撃を直撃させている。


「ボクもいきます!」メルヴィンは氷の槍と炎の槍を自身の身体の周りに発生させ、まるで一本一本が獲物を狙う肉食動物のようにゾンビの頭部目掛けて鋭く飛んで行く!


「くらいなさい!!」沙羅は既にゾンビの群れの真ん中でコールブランドを振るっていた。


「…発動!……よし、俺も行くぞ!」好矢もミスディバスタードに魔法を掛けてゾンビの群れへ駆けていく。

鼻が曲がるほどの悪臭がするが、集中力を切らせばやられてしまう戦闘中にそんな事は気にしていられなかった。


好矢の前方には四体のゾンビ……もちろん奥にも大量のゾンビがいるが、まずはコイツらを相手にする必要がありそうだ。

好矢は、ミスディバスタードを下段に構え、向かってくるゾンビを斬り上げ、一刀両断した。綺麗に股間から脳天までスパッと真っ二つに斬れた。


かなりの切れ味に一瞬驚くものの、自分がミスディバスタードに掛けた魔法は金属属性の魔法。武器の切れ味を悪くする魔法は有名だが、今回はその逆の切れ味を最大限に引き上げる魔法だ。

これによって、スパスパと斬れていく!


好矢が斬り上げた直後、左側から剣を上から斜めに振るってきたゾンビの攻撃!それを咄嗟に右に跳躍して躱し、ゾンビの両手首を斬り落とし、そのゾンビの後ろに居た槍をこちらに構えていたゾンビの方へ蹴り飛ばした!

ザクッ!という音と共にゾンビの槍に両手を失ったゾンビの腹部は貫かれた!


槍を持っているゾンビはというと、槍を手離して戦うという選択が出来ないのか、槍を離さず槍を振るおうと動く!

当然自分と同じような体重のゾンビが突き刺さっているので、上手く動かせるわけがないが、必死に槍を動かそうとしていた。そして……


ザシュッ!!という斬撃音と共に、無理矢理上に持ち上げようとした槍の刃の部分で、ゾンビの頭を真っ二つに切ってしまった!

槍を持ったゾンビが、好矢が蹴飛ばしたゾンビにトドメを刺したのだ。


しかし、そんな事には目もくれず、自由に動けるようになった槍使いのゾンビは好矢へ向かって刺突攻撃を繰り出した!

これを好矢は右に弾いて受け流し、後ろから迫ってきていたゾンビを再び突き刺させた!


再び、槍を抜こうと暴れる槍使いのゾンビ。何なんだコイツは。ドジっ子なのかなんなのか……。


もしかしたら生前からドジばかりしていたのかもしれない。戦いの役に立つかもしれないから、そのまま倒さず放置しておくか……

好矢はそんな事を考えながら、突き刺された方のゾンビの首をはねて、転がった頭部へ剣を突き刺してトドメを刺す。


そのまま槍使いのゾンビは放置して、近くに居た別個体のゾンビの頭部を斬った。コイツは装備は篭手のようなものだけだったので、リーチの長いミスディバスタードで一撃で倒すことが出来た。


すぐ近くには槍を持ったゾンビしかいなくなった所で、周りの味方の戦いを見渡す好矢。



最初に目についたのはガリファリア。

彼女は何故か自身の篭手を使ってゾンビをボコボコ殴りながら、背中から生やしている翼を羽ばたかせて、横から近寄ってきていたゾンビを風圧で下がらせていた。

なるほど、翼はあんな使い方も出来るのか……。


「ガリファリア!ビームを放ってくれ!!」ダグラスがゾンビと戦いながら声を飛ばしていたが、ガリファリアは「無理だ!魔力を使いすぎた!!」と叫んでいた。


なるほど、それが理由で物理攻撃をしていたのか……。



戦い始めて一時間が経とうとしていた頃……ゾンビの数が最初の数の10分の1にまで減らすことに成功した。


「ぬぅぅ……ここまでの力を秘めているとは……!!」エヴィルチャーも予想外のようだ。

既に好矢とメルヴィンとロサリオはそれぞれ一度ずつゾンビ達が持っていた武器で斬られていたが、いずれも掠めた程度で、大した傷にはなっていなかった。

他の皆は無傷だ。……魔力は減っているだろうが、ダグラスやダラリア、オルテガなどは本来は魔力が少ないので身体的能力が高い。

ゾンビの数が減ってきたおかげで、ポーション類の中でもわりと数量が残っている好矢が調合したスタミナ回復ポーションを飲む機会があり、全員それを飲んでいた。


「ふ…ふんっ!精々足掻くが良い!皺月の輝きとやら!!ワシには取っておきの秘策があるのじゃ!!」ゾンビが減ってきたことに対してのハッタリか、エヴィルチャーが突然叫びだした。


「エヴィルチャー!アンタのハッタリに構っている暇はないの!アンタはこのアタシ……サラ・キャリヤーが倒す!!」沙羅はそう叫んで、エヴィルチャーへ駆け出す!


その発言をした沙羅を見てエヴィルチャーは一瞬、かなり驚いた表情を見せたが、何かを思い出したようにニヤリと笑い、自身が持っている杖を地面にザクッと刺した!

「ククク……発動召喚!」


エヴィルチャーの言葉をキッカケに、目の前の足元に突然黒い水溜りのような円が現れた!その様子を見て、沙羅はカカトを使い、ザザッと立ち止まる。


「何をするつもり!?」沙羅が言ったのを合図に黒い水溜りから一人の青年が現れた!

その青年は、青い部分鎧を身に着けており、好矢が使っているミスディバスタードそっくりの剣(ただし、刀身は白銀色)を右手に持ち、左手には恐らく魔法金の装飾が施されている盾を持っていた。


「……!?」その青年を見た沙羅は目を丸くしたまま立ち尽くしていた。


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