第百四十八話◆死霊術師エヴィルチャー・グロリアス

「――発動ッ!」好矢が魔法を発動させると、突如として空から尖った岩が落ち、ゾンビに激突し頭を粉砕する!

「ぐるぅあぁ……!!」後ろから近付いてきていたゾンビを倒すと、左側からゾンビが二体やって来た。


「ヨシュア、全部倒すぞ!」ガリファリアはそう言うと進行方向に振り向いて、現れたゾンビを低火力のドラゴンビームで確実に頭部を蒸発させていく。


「何で全部倒すんだ?」好矢が聞くとガリファリアは「少なくとも日中は歩いてやって来るから時間が掛かるとはいえ、夜になると走り出す……それに奴らは頭を潰さない限り永久に動き続ける……迫り来るゾンビの大軍を相手にしながら、敵のボスは倒せるか?」


「確かに…それは無理そうだな……発動!」好矢が考え事をしながらも、ゾンビ二体に火球を2つ放って頭を消し飛ばす。

「でも、敵の頭を倒せばゾンビは元に戻るかもしれないんだろ?殺しすぎるのはマズイんじゃないか?」


「その事か……少し考えてみたんだが、無理かもしれん」


「どういうことだ?」


「我々がゾンビになる…という事であれば敵のリーダーを倒せば問題は無かったのだが……パルセニアの住人に魔力は無いだろう?つまり…魔法防御も存在しないということだ」


「まさか…ゾンビ化も魔法防御で耐えるのか?」


「そうでなければ、妾たちだけがゾンビ化しない説明が付かないではないか」ガリファリアはそう言う。確かに自分たちだけが何故ゾンビ化しないのか不思議に思っていた。


「魔法防御…つまり、魔法の耐性が無い人間じゃゾンビ化が収まることはないと…」


「そういうことだ」


盲点だった……確かに、術者が死んでしまえば魔法の効力は確かに弱まる……だが、生体を死に追いやるような、対象の生命に干渉する魔法は術者が死んでも残り続ける……。


パルセニアの住人と違って好矢たちは魔法防御があるので、殺した上でゾンビ化させる魔法でも、術者が死ねば復活出来る可能性があるのだ。

命を落とした直後にゾンビ化することで生命活動を行い始め、身体から抜けようとした魂が身体に残ろうとするからだ。しかし、魔法防御がなければ、魂を身体に残す為の力が無いということになるのだ。



だから、今回のゾンビ化の魔法がパルセニアの住人の生命に作用する魔法だった場合、一度ゾンビ化してしまった場合は元に戻すことは出来ないのだ。

そして、敵のリーダーを倒してもゾンビたちが活動を続けるか続けないかは不明である。もしかしたら、バタリと倒れて動かなくなるかもしれないし、そのまま動き続ける事もあり得る。

ちなみに動き続ける場合、間違いないのは術者が死んでいる為に、確実に弱くなるということだ。


だんだんとゾンビ軍団がアグスティナ魔帝国よりも強大な相手に感じてしまう好矢たち……それにもう一つ、忘れてはいけない。

敵のゾンビ軍団を殲滅した後は、悪喰の魔物と戦わなければならないということを。



翌日―昼頃。出発からちょうど1日半が経過していた。


「――見えてきた!」ダラリアが指を差す。


視界の先には、街がある。そしてゾンビが大量にいる……ダラリアと一緒に見張りをしていたメルヴィン(好矢を休ませる関係で組み合わせがズレた)は、仲間たちを起こす。


「んん…?交代か?」ダグラスは目を擦りながら起こしてきたメルヴィンを見る。


「いえ…南西地区の街が見えてきたんです」そう言って、馬車の中から街を指差すメルヴィン。


「…………おっ、ようやく着いたんだな!」ダグラスは起き上がり、仲間を一人一人起こしていく……


ガララ…ララ……

ダラリアは手綱で段々と馬車のスピードを落としていった。


そして、仲間たちが馬車を降りた瞬間、街の方から「う~」「あぁ~」という呻き声を出しながらゾンビの軍団がのそのそと近付いてくる。


「任せろ!」ガリファリアは前に飛び出し、出力を上げたドラゴンビームを発射し、それを扇状に放ち続けてゾンビの軍団を一気に殲滅していく――しかし……


扇状のドラゴンビームが真ん中を通過しようとした時、真ん中だけ途中から貫通されていない。明らかに誰かがドラゴンビームを相殺しているのだ。


ガリファリアは発射をやめて言った「誰だッ!!」



しばしの沈黙の後……

「……ひぃひぃ、驚いたわい……」ゾンビの軍団の中心にボロボロのローブを来たボサボサの白髪の爺さんが立っていた。


「アイツは……?」ロサリオが言う。


「貴様ら、ゾンビにならんとは何者じゃ!!」その爺さんは突然怒鳴ってきた。


その言葉を聞いて好矢が前に出た。

「その口ぶり……お前がパルセニアの住人をゾンビにさせていたようだな」


「如何にも!……ワシの名前は天才死霊術師…エヴィルチャー・グロリアスじゃ!!」エヴィルチャーは両手を大空に開き、叫んだ。


「そうか……俺たちは皺月の輝き……邪悪なる者を倒し、戦争を止めるハンターパーティだ」


「皺月の輝き……ふん!邪悪なる者など興味はないわ!ワシがやりたいのはこの大陸の征服!他がどうなろうと知ったことではないわ……!」


「アンタ、エヴィルチャーだっけ?」好矢の横に並んで沙羅が言う。


「…そうじゃが?」


「アンタの師匠のこと、知ってるわよ」


「なに……?人間族風情が適当な事を……!」


「人間族風情ねぇ…人間族から魔法を教わっておいてよく言うわ……アンタの魔法の属性は暗黒属性でしょう?」


「ふん…良く知っておるな……!この世界で暗黒属性を操れるのは今や、ワシしかおらん!!」ニタァと笑いながら叫ぶエヴィルチャー。


「そう……ま、残念だけどアンタのゾンビはアタシ達が全滅させるから」沙羅はそう言うとコールブランドを構えた。


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