第百四十七話◆パルセニア南西地区へ
「……私達以外の魔力反応を見付けたの」
「なッ……!?どこからだ!?」一瞬かなりの驚きに包まれた好矢だったが、これほどのゾンビを創り出す技術…魔法が使える敵がいても何らおかしくはない。
「ここより、南下した先……パルセニア南西地区よ」
「南から来ていたのか……?」
「えぇ。南西地区からは生体反応は一人。そしてその生体からの魔力量がすごいの……」アウロラは目を閉じながら怯えたような口調で話す。
「おおよその魔力数値とかって……分からないよな?」
「……ガリファリアよりは、ずっと上ということだけは断言できる」
「何ッ……?」ダグラスもその返答には固まる。ガリファリアはハルティート大陸に来る前、最後に調べた時の魔力数値は12239である。
それよりも“ずっと”上なのだ。恐らく敵の魔力は15000~20000くらいだろうか?とんでもなく強い敵である可能性が高い。
「でしたら、その頭を潰せば……!」メルヴィンが背中に装備していた自分の弓を取り出して言う。
「もしかしたら、術者を潰せばゾンビになった奴らも元に戻れる可能性があるな……」ガリファリアは考える。
「どうして?もう身体は腐食しているのよ?」
「その腐食も全て魔力によるものだ……もしかしたら…だが、戻れる可能性はゼロではないだろう……しかし、保証は出来んし責任も取れん」
「……迷ってる余裕は無い。南西地区へ行くぞ!そして敵の頭を叩く!」
好矢の答えに賛同し、皺月の輝きのメンバーは南西地区へ足を向けた。
ゾンビになってしまってまともに経営していない馬屋の馬車と馬を勝手に使い、南西地区へ急ぐ好矢たち。
幸いゾンビ化するのは人種族だけだったようで、魔物である馬はゾンビになっていなかった為、馬車を引かせること自体は問題なかった。
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ガラララ……という音と激しい振動を感じながら、好矢たちはテレンスとサイエルを半ば見殺しにしているような錯覚になって罪悪感に耽る……しかし、そうするしかないのだ。
これ以上、被害を拡大させる前に敵の頭を潰しておく必要がある……今はただ、テレンスやサイエル…また今向かっている南西地区と、南東地区の市長が生きていることを祈る事しか出来ない。
アウロラの魔力探知は、生体反応を受け取る事が出来るが、それは魔力を持たない人間には効力が発揮されない。その為、生存確認が出来ない状態だった。
「……また出やがったか!……発動!」ロサリオは手から直径30cmほどの火球を創り出し、馬車に乗り込んで来ようとするゾンビの頭を消し飛ばした!
魔法を放ったロサリオはハルティート大陸専用の地図を見ているアウロラに声を掛けた。
「あと、どのくらいで着く?」
「……およそ一日半よ」
「だったら二人一組で馬車の周囲の見張りをしながら、一時間毎に交代しよう。他の皆は休んでいて構わない」好矢はそう言って素早く組み合わせを決めた。
「ごめん皆、好矢くんの見張りは最後にさせてあげてくれないかな?研究と皆の治療とか色々で魔力たくさん使っちゃっているの……寝かせてあげて」沙羅が気を遣って言ってくれた。
「すみません……」メルヴィンは申し訳なさそうに謝る。
「別にお前は悪くねぇよメルヴィン!……ヨシュア、最初は俺とアウロラで見張りをするから、お前はゆっくり休め。お前は俺たちが護ってやるから安心してな!」ロサリオが滅多に見せない笑顔を向けてくれた。
「……頼りにしてるよ」好矢はそう言って毛布にくるまって荷台で横になった。
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「起きろ…ヨシュア、起きろ……そろそろ交代だ」声を掛けて来たのはガリファリアだった。
「あぁ……すまん。むにゃ…」目を覚ますと辺りはかなり明るくなっており、太陽も真上にあった。恐らく昼時だろう。
「……あれ?もう昼か?」
「……すまん、ヨシュア。お前の疲れを察して、お前の番になったら俺が見張りをやるって、たまたま目を覚ましていたロサリオが立候補してくれたんだ」
ロサリオの方を見ると、結構疲れた表情で「くかぁ~!くかぁ~!」と寝息を立てている。
「俺は一周分丸々休ませてもらってたってわけか」ロサリオに対して申し訳なく感じる好矢。
「その代わり、しっかり働いてもらうからな!……お前一人が寝ていたせいで、順番がズレて沙羅ではなく妾との見張りになるが……」
「それは構わんさ……ところで、襲ってくるゾンビ達はどうだ?」
「日中にもいるようだが、夜中ほどの数ではないらしいし、日中は奴ら走って追い掛けてくる事はないようだ……もしかしたら、日中は走ることが出来ないのだろう」見張り中の情報を整理して伝えてくれたガリファリア。
「……分かった。とりあえず、魔力は少し回復出来たみたいだし、頑張るよ」実際寝心地は悪いし、ガラガラと大きな雑音が聞こえてくるので、深い睡眠は出来なかった為、魔力は回復し切ってはいなかったが、ある程度は回復できた。
「妾は進行方向と左右をチェックするから、お前は後ろとお前の側からの左右のチェックを頼む」
「あぁ、分かった」
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