第百四十六話◆原始魔法書

カバンの中で治療出来そうなポーションを探すと、一冊の本が手に触れる……。

「これは……!」



それは原始魔法書だった……。

メルヴィンを仲間に引き入れた時、エルフの王フレッドから貰った、世界に一冊しかない原始魔法の詠唱文がギッシリと書かれている魔法書だ。


「……これで…!」好矢は原始魔法書を手に取ると回復魔法の詠唱文を探す……!


急げ…急げ……!!

メルヴィンはだんだんと意識が薄れていっているようだ。そしてホテルの床には血溜まりが徐々に広がっている……。


「……あった!これだ……ええと……」


メルヴィンの前に駆け寄り、原始魔法の詠唱をする。


原始魔法プロウェレスフィ・マギア……遡及の治療クロノス・レウェルティ・サナーレ……)「解放リーベラティオー!!」

発動した魔法は時を戻して治療をする魔法……遡及そきゅうする…つまり時間が遡る…そして治療……この意味が合わさり、時間を戻すことによる治療という意味の詠唱文だと理解する好矢。


メルヴィンは少しの間を置いてから、床に広がった血が戻って行き、押さえていた布に染みた血液もウソのように無くなり、それもメルヴィンの身体に吸収された。

そしてそのまま傷口は斬られた所から徐々に塞がっていった!まるで逆再生を見ているような錯覚に陥る。


「うっ…!」すぐに意識が戻るメルヴィン。先程の魔法で完全回復したようだ。

しかし、原始魔法は元々消費する魔力量が決まっている上に、先程使用した遡及の治療は、時間へ干渉する魔法だ。それだけ使用魔力が高いため、今の一度で600ほどの魔力を消費してしまった。


「マズイな……残り魔力が少ないぞ……」


「ヨシュアさんガリファリアさん、ありがとうございます……」メルヴィンは立ち上がった。


――バンッ!と扉が開き、仲間たちが戻って来た。

「悪りぃ、待たせた!外はゾンビでいっぱいだぜ!」ダグラスが額の汗を拭いながら言った。おそらく外で戦ってきたのだろう。


「どうにかしてゾンビを全滅させる必要があるな」ロサリオがそう言ったが、ガリファリアは「その前にすることがある」と言った。


話を聞くと、メルヴィンが負傷した理由と直結していた。

メルヴィンは決してホテル前にいるゾンビとの戦いで油断していたわけではない。突然、市民までもがゾンビになったというのだ。


「死人をゾンビにする方法ならあるけれど……生きている人間をゾンビにするなんて聞いたことがないわ!」アウロラも驚きを隠せないようだ。


「サイエルやテレンスに連絡を取って、生き残った人をどこか一箇所に集めてもらう必要があるな」


「でも、地区の移動にかなり時間が掛かるぜ?」


「そんな事を考えている暇はない。いつまでもここに居るわけにもいかないし、まずはサイエルに連絡をしないと!」

そう言って出ていこうとする好矢を止めるロサリオ。

「MMは?」


「パルセニアの人たちは魔力を持っていないだろ!だからMMは送れない!」その言葉を合図に好矢は出ていき、他のみんなもそれに付いて行った。



――ホテル―エントランス


ホテルのエントランスにも、外にも溢れかえるような量のゾンビたちが集まっていた。

「みんな!とにかくコイツらを全部倒すぞ!」好矢の掛け声に皆は戦いを始めた。


「好矢くん!貴方はこれ以上魔力を使っちゃダメよ!ここで皆に指示してあげて!」沙羅が気遣ってくれた為、その言葉に甘えて少し離れたところから指示を出すことにした。

沙羅はコールブランドを抜いて、好矢の近くで待機してくれていた。


「だったら妾に任せるがいい!」そう言うとエントランスでドラゴンに変身したガリファリアはゾンビたちに向かってドラゴンビームを放つ!

溢れかえるほどの量のゾンビな為、一体に当たれば後ろのゾンビにも当たり、一気に量が減らせているようだ。


「どりゃあぁぁ!!」ダグラスはミョルニルを使って、電撃を纏った攻撃をする。

ゾンビ一体の頭を潰し、そこから電撃を広範囲に撃ち出し周りのゾンビを痺れさせ、行動を遅れさせた。


アンサは飛び上がり、捌き切れないゾンビ達を翼の羽ばたきによる暴風で押し戻していた!


「さっきの仕返しです!」メルヴィンは最初のゾンビに対して使った魔法の炎の槍を両手から撃ち出せるように詠唱し、一体ずつ確実に仕留めていった。


「えぇぇいっっ!」ダラリアは最前線で大盾と大斧を振り回し、ガンガンとゾンビを叩き伏せている。

すごいのは、大盾のバッシュ攻撃でも確実に頭を狙い、ドンドン数を減らしていっているところだ。


「クソッタレ!コイツら全然減らねぇぞ!」ロサリオは火属性攻撃を使い、奥にいるゾンビ達の頭の中に爆発する火球を発生させ、次々に爆破していく!

さすがにアンデッドであっても頭を爆破されてしまえば動かなくなる。そうして、奥のゾンビも少しずつ減っているようだ。


「発動!」アウロラは、好矢に教えてもらった発動方法で、金属属性の防護障壁を張り、2,3ミリほど開けた所に氷属性の魔法障壁を張った!

この大陸で魔法を使えるのは好矢たちだけなので、魔法障壁は必要ないと一瞬考えたが、これほどの数のゾンビを一気に量産するのが魔法の効果によるものであれば、皺月の輝きもゾンビにされてしまう可能性がある。

それを危惧して張ったのだ。


好矢は障壁を貼り終わったアウロラに対して指示を出した。

「アウロラ、俺たち以外に魔力を持っているヤツの気配を探ってくれ!」魔法探知はアウロラの得意分野なので、任せることにした。


アウロラは「ええ!」と言って、好矢と沙羅がいる所まで一旦下がると、目を閉じて探知を始めた。


その間に好矢はカバンから少なくなった魔力回復ポーションを取り出して飲む。500くらいは回復出来ただろうか?


――数十分後…。


エントランスには、頭を失ったゾンビや下半身のみのゾンビたちが倒れており、動けるゾンビはもういなくなっていた。


「クソッ!時間を取られた!サイエルの所へ行くぞ!」好矢の掛け声にみんなはホテルを出ようとするが……


「待って!」それを止めたのはアウロラだった。


「どうした?」アウロラの近くにいたロサリオが聞くと、アウロラは目を閉じたまま続ける。


「……私達以外の魔力反応を見付けたの」



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