第百四十二話◆ゾンビ捜索依頼
ホテルの扉を開けて好矢と沙羅が戻って来る。
「遅かったじゃねぇか、何やってたんだ!」
「すまない」
「……って、好矢さんも沙羅さんも…ちょっと匂いますよ?」メルヴィンがそう言った。
「あ~……」好矢は先程戦ったゾンビの事を思い出した。
「さっき、好矢くんを迎えに行った時、ゾンビと遭遇したの」
「ゾンビって…あのアンデッドのゾンビか?」オルテガがそう言った。
「それ以外にゾンビなんていねぇだろうが……で、大丈夫だったのか?」ダグラスが心配してくれたが、心配は要らないと返した。
「……でも、危険よね」ふと沙羅が言った。
「あぁ、奴は頭を潰さないと動きをやめない……。バハムートを相手にしようとしているが、ヤツと戦うまでに万が一ゾンビの大群と戦うことになったら……」好矢は考えながらそう言った。
「こ、怖いこと言わないでくださいよ……」シュンとするダラリア。
そんなダラリアの顔を見て思い出す好矢。
「っと、そうだった。突然出掛けた理由だが……これなんだ」そう言って、テーブルの上に二つの魔力増幅ポーションを置く。
「……さっき材料を集めて、これを作ってきたんだ」
「このポーションは?」不思議そうに眺めるダグラス。
「…お前まさかコレ……」察しの良いオルテガ……元アグスティナ四天王の立ち位置だったお陰でエルミリアを通じて好矢が生成出来る魔力増幅ポーションについては聞いたことがあるのだろう。
「魔力増幅ポーションだ……ダグラスとダラリアはこれを飲んでくれ。……魔力が2000ほど増えるはずだ」
「「2000ッ!?」」ダグラスとダラリアは同時に驚愕の声を挙げた。知らない人間からすれば当然の反応だが……。
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魔力増幅ポーションを手に取り、ようやく飲む決心の付いたと思えたダグラスだが、ポーションを見ながら「飲んで死んだりしないよな……?」などと言っていた。
「こんなワケの分からん苦労をして仲間を殺す気があると思うか?」
「そりゃそうだけどよ……」
「いいからさっさと飲めよ!今後の話が出来ないだろ!」痺れを切らしたのはロサリオだった。
「るせぇッ!テメェには指図されたくねぇんだよ!飲めば良いんだろ飲めば!!」そう言ってダグラスは魔力増幅ポーションを一気に飲み干した!
…………
「うっ……!ぐぅっ……!!」突然胸を抑えるダグラス。
「お、おい、大丈夫か!?」突然のことに驚く好矢。
「……ッハァッ…!ハァッ…!ちょっと驚いたぜ……魔力がいきなり身体中に漲ってきたからな……」ダグラスは、ふぅと一息ついてそう言った。
「良かった…身体に不調をきたしたかと思った」
「…………」先程のダグラスの光景を見て飲むのを躊躇しているダラリア。
「あぁ、ダラリア…安心していいぞ。俺の場合一気飲みしたから苦しくなっただけだ。少しずつ飲めば大丈夫なはずだ」ダグラスはそう言ってまた一息ついて自分の手で顔を扇いでいた。
「の、飲みます……!」ダラリアは緊張していたのか、ダグラスの助言を実行せず一気に飲んでしまった!
「うぐぅっ……!」苦しそうにするダラリア。
「お、おいっ!」一気に飲んだダラリアに驚くダグラス。
「……ッ……うぅっ……はぁ…はぁ……」落ち着きを取り戻すダラリア。
「何で一気飲みしたんだよ……」ダグラスはダラリアを不思議そうに眺める。
「……お腹が空きました…」一息ついたダラリアは一言そう言った。
「ヨシュアが帰ってくるまで飯は後回しにしていたんだったな……」そう言うオルテガ。
その言葉に好矢自身嬉しくなった。リーダーの帰りを待ってくれていたようだった。
「それは悪かったな。じゃあ皆ご飯を食べよう」
「最後の晩餐にならないことを祈るぜ……」ロサリオはそう呟いた。
不謹慎なこと言うなよ……
食堂に着いた好矢たちは、各々好きな物を注文して食事に取り掛かっていた。
そこへ、サイエルがやって来た。
「ここにいたのね、トール・ヨシュア」
「…誰だ?」
「ヨシュアさん、この方がサイエルさんです」メルヴィンは紹介してくれた。
「あぁ、貴方がサイエル……呼び出してくれればこちらから出向いたのだが……」
「そうも言っていられない状況だったの……他の皆も食事しながらで良いから……いや、食事中には控えるべきお話ね。とりあえず食べ終えちゃって」
「? あぁ……」ロサリオはそう言うとガツガツと食事を再開した。
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「……で、どんな話なんだ?」一通り食べ終わり、落ち着いた所で皆はそのまま食堂で話を聞くことにした。
周りに食堂を利用している客がいないことを確認した上で、サイエルは話始めた。
「話って言うのはね……最近、パルセニアでアンデッドのゾンビが目撃されているの……」
「……ゾンビなら、昼間遭遇した」
「既に会っていたのね?それなら話が早いわ……でもね、奇妙なの」
「奇妙…?」
「本来アンデッドは夜に活動するものだけど……さっきトール・ヨシュアが言っていたように、昼間に目撃されているの……」
「夜以外に活動すると、本来ならどうなるんだ?」
「太陽光に耐えられなくて、身体が浄化されて土に還っちゃうのよ……」
「なるほど……」
「やっぱりアタシたちが昼間に遭遇したゾンビはただのゾンビじゃないようね……」
「そこで貴方たちにお願いしたい事があるの……」サイエルはそう言って、深呼吸をする。
その様子を見て、ダメ元の頼みをしようとしているのか?と思ったロサリオ。
「奴らの正体を探ってほしいの。……もしかしたら、ゾンビを創り出す魔法を使っているヤツがいるかもしれない……」
「正体を暴くったって……どうしろってんだよ?」ロサリオはそのまま聞き返す。
「……誰か一人、しばらく森の奥で過ごしてほしいの。ゾンビたちは決まって森に現れると言われているの……」
「……なるほどな……他の仲間はどうしていればいいんだ?」好矢は腕を組みながら質問する
「木に登ってゾンビがどこから来るのか見ていてほしいの。それを何日か続けて、ゾンビがやって来る方角を絞っていってほしいのよ。」
「なるほどな……ゾンビはどこから現れてどこへ消えていくのか……それをまずは見極めたいってことか……」
「そう……とりあえず南の森で明日から始めてほしいの……成功した暁には、この大陸の物……大した物は無いかもしれないけれど、何か一つ持っていっていいわよ」
「……分かった。とりあえず他の仲間もいるなら安全だしやってみよう」好矢はその依頼を引き受けることにした。
「だったら待機は俺に任せてくれ!ゾンビなんざ俺の火属性魔法で消し炭にしてやる!」意気揚々と発言したロサリオだが、好矢に止められた。
「バカかお前は…場所は森だ。森で火属性魔法なんて撃とうもんなら火事になってゾンビの出処捜索どころじゃなくなるぞ」
そうだった!といった顔をしてからシュンとするロサリオ。
「……だったら私がやります」名乗り出たのは、なんとダラリアだった。
「お前が……?」
「私は元々ドワーフ領のグラディップ軍の最高防兵でしたから!」胸を張って言うダラリア。
「そういえば、そうだったな……」
「ありがとう、トール・ヨシュア。そしてダラリアさん……パルセニアは全力で貴方たちを支援させてもらうわ……バハムートに関しては難しいけれど……」少し申し訳なさそうにしつつも、お礼を述べるサイエル。
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