第百二十六話◆虚無の魔星と玲瓏の光芒
「あの……それはどういう……?」サミュエルは首を傾げる。
「言葉通りだ。……アグスティナ四天王、
……まさかのスピード出世だ。
「大変ありがたいですが……僕よりも強い方は大勢いらっしゃいます!何故突然……?」
「えっ!?」玉座に座るエルミリアはサミュエルの発言に素っ頓狂な声を出した。
「え、エルミリア様……?」その声に少し驚くサミュエルは驚く。
「サミュエルよ……お前は自分の強さを解っていないのか……?」
「僕の強さ……ですか……?」
「魔力を調べていないのか?」
「いえ、調べました……ですが、魔力7922なんて数値、どこにでもおります……」
“!? 僕はまだ魔力は4880だぞ……?”
「お前は何を言っているんだ!?7000を超える魔力を誰もが持っているわけがないだろう!」レディアが声を出した。
「……7922か……なるほど、今やトール・ヨシュアを越えている可能性があるわけだな……?」
「それは無いと思いますが……」
「まぁよい……虚無の魔星サミュエルよ。……貴様はこれからオルテガが使用していた私室をそのまま使え」
「はっ!」
「また、従者に関してはビリーを改めて指名するか、または別の誰かを指名しろ」
「承知致しました……名前を頂きまして感謝申し上げます!」
・
・
・
エルミリア城―廊下
「すごいじゃない、サミュエル!スピード出世ね!これで非常時以外の給料は以前の十数倍になるわ!」喜んでくれているレディア。
因みに、非常時は十数倍ではなく、数十倍になるらしい。更に戦争中に多くの戦果を挙げた場合、普段からもらっている給料の百倍以上のボーナスがもらえたそうだ。
軍はかなりの資金を持っているようだ……。
「ありがとうございます!……でも本当に僕なんかで……」
「それは謙遜じゃないわよね……」ハァと溜息をついて続けるレディア。
「もっと自分に自信を持ちなさい……貴方はこのエルミリア城で三本の指に入る実力を持っているんだから」
「そうなんですか……?」
「えぇ。……さすがに四天王の一人である、
アグスティナ四天王……
戦場での状況判断能力も高く、四天王の中でも間違いなくエルミリアに一目置かれているサイラ……しかし、性格には難があった……。
「サミュり~ん!おめでとぉ~!!」ムギュッ!と後ろからサミュエルに抱き付いてくるサイラ。
白髪と金髪が混ざったような柔らかい色(例えるならバナナの皮を向いた実の部分のような髪色)をしており、長さはロングで、ウェーブがかかっている。
上級魔族では珍しく、一角なのだ。大抵はこめかみの辺りから角は二本生えるのだが、サイラは額から長く鋭い角が一本生えている。
肌色は薄い紫色で、人間族に肌色が近い存在であった。さらには、耳が尖っており、エルフ族のような様相もある、何とも不思議な上級魔族だった。
普通なら亜種魔族と判断される可能性があるが、上級魔族と名乗る為の材料は十分。たまに耳が尖っている魔族は見掛けるし、事故で角を一本失ってしまうケースもある。
その場合は大人になると新たに生えてくることはない。
そして、上級魔族と呼ばれる所以でもある悪魔のような翼が生えている……。
そのような外見の四天王サイラがサミュエルの背中に抱き付いてきたのだ。
「ちょっと、サイラ!私のサミュエルに手出ししないで!」レディアが慌てて言う。
「もうアンタのモンじゃないでしょ!べぇ~!」舌を出して挑発するサイラ。
「あの、サイラさん……動けないので放してください……」
「あっ、ごめんね。サミュりん!改めておめでとぉ!」サミュエルから離れて、丁寧にお辞儀をするサイラ。
「貴方は相変わらずね……私よりも弱ければボコボコにしてたわよ……」レディアが呟く
「うふっ……」一瞬笑みを浮かべてから恐ろしい形相に豹変するサイラ。
目は釣り上がり、ニタァと思い切り横に開く口……初めてその顔を見た人は死を覚悟するだろう……
「レディア……アンタにやれると思っているのか……?アンタと戦う時、手加減するのが大変なんだ……あんまり調子乗るなよ…?」
「わ、分かってるわよ……私だって死にたくないわ」
サイラは非常に恐ろしい強さを持っていることを知っているサミュエル……以前に遊びの試合でレディアとサイラの戦闘を見たことがあるためだ。
救護兵が近くについた上でトーミヨの模擬戦のように障壁を張っている、死の危険性が非常に低い状態にした上でだったが、結果は全試合サイラの無傷での勝利。
一方のレディアはサイラと接触どころか、近付くことすら出来ていない。
戦闘が始まった瞬間、その場で無数の攻撃がレディアに対して降り注ぎ、その対処で気を取られている間に的確に急所に強力な一撃を叩き込むのだ。
簡単に言えば魔法同時発動をやっているわけだが、本来は発動待ち状態の魔法を一つ以上設置した状態で、別の魔法を放ち、続けて発動待ちの魔法の発動を行うことで、同時に魔法が出る為、魔法同時発動と呼ばれているが、
トール・ヨシュア先輩がトーミヨでやっていたのは、詠唱から発動までを全て同時に行う為、正真正銘の魔法の同時発動だ……
アグスティナ四天王でもそれが出来る人はただ一人……それが玲瓏の光芒サイラ・アルゲモアだ……。
つまり、トール・ヨシュアとサイラ・アルゲモア…二人の魔法の使い方はかなり共通点があるのだ……。
それに、ヨシュアの教えが役に立たない強さのサイラ。レディアもサミュエルも叶うはずがない。
ヨシュアの教えというのは、魔力よりも上級魔導語の方を重要視する教えのことだが……サイラは上級魔導語は多少しか扱えないが、威力不足分を膨大な魔力で補っている。
そんな、レディアの十数倍の強さがあると言われ、魔帝国軍最強の魔導士であるサイラだが……実はアグスティナ四天王の二番手である。
ちなみに、一番手はもはや“最強”という言葉さえも生ぬるい。数々の戦場で凄まじい戦果を挙げ、無傷で帰ってくる彼をアグスティナ魔帝国では英雄と呼ばれている。
ここまで伝えれば一番手の詳しい強さは……あえて言うまでもない。
「じゃあ、サミュりんの昇進祝いに早速お祝い行こう!」サイラはそういうが、やめておくことにした。
「いえ……これから部屋の荷物の移動と従者の時に残っていた明日の分の書類があるのでとりあえず全部片付けてレディアさんにお渡ししてからにします」
「日が暮れちゃうじゃん……」ぷくっと膨れるサイラ。……こうしているだけなら、かわいらしいんだけどな……
「僕は折角祝ってくださるなら夜からの方が良いですよ」
「んん~?私とレディアのどっちかをお持ち帰りするのね~?」サミュエルの顔を覗き込むサイラ。
「そ、そんなことしませんよ……!!」
「さすがに私もいくらサミュエルが大好きでも身体までは許せないかも……あ~でも、二、三回くらいならアリかもなぁ……」真剣に考えているレディア。
「いや、大丈夫ですって!」
何故一度くらいなら…ではなく二、三度なのかは気になったが、そんなつもりは特に無いので否定しておくことにした。
「夜からなら多少酔ってもすぐに城の部屋に戻ればいいですし、それにサイラさん、どうせ昼のお仕事溜まってるんですよね?」
「はうっ!」胸を槍でグサリと刺されたようなアクションを取るサイラ。
「……というわけですので、僕は一度荷物を持ってオルテガが使っていた部屋へ行きますね!」
そう言って従者部屋の前へ到着したサミュエルは部屋の中へ入って行った。
「…ねぇ、サイラ」
「ん~?」
「あの子……サミュエル……どんな魔導士になれるかな?」
「……頑張って一番手との戦いで勝てると良いねぇ」
「えっ?それって……」
「言っておくけど……あと三年くらい経てば、あの子は私じゃ手に負えない存在になるわよ……それほどの力をまだ眠らせている……眠った力が全て解放されたら……グレータードラゴンですら一撃じゃないかしら?」
「ぐっ…、グレータードラゴンを……!?」
「今日から四天王だし、従者の仕事をあんまり押し付けちゃダメよ?彼の訓練があるんだから……」
「サイラ……アンタの仕事これから手伝わせるんでしょうが……」
「てへっ☆」また舌をペロッと出しておどけるサイラ。
・
・
・
――エレンの街―サミュエルの家。
目が覚め、ガバッと起きるサミュエル。
「……何だ?今の夢は……四天王オルテガが裏切って……え……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます